アンバー・マジックアワー/黄黑天 4

「ああ。彼女はとても会いたいはずだと思いますよ」


「古くからの知り合いだしね」


「自分のこともお忘れなく」


彼女も晩霧と同じく、昔から僕によくしてくれる人の一人だ。人じゃないけど。

あの愛らしい声とふわふわの性格は、人を魅了するだろう。


「皆会いたいって言ってくれてる。僕はそんなに言われるような存在でも無いと思うけど。時々、不安になる」


「不安?」


「もし、皆が僕を嫌ったら、僕はどうしたらいいかわからないよ」


「かわいいです」


晩霧は笑って、目の前で手を合わせた。ちょっと女の子っぽい。僕としては心配なんだけど、それはきっと子猫が雷に怯えているようなものだと思われているようだ。

僕は皆のことが大好きだけどね。

つまり、寵愛を失うのが恐ろしいってことさ。


ちなみに、物理的にも恐ろしい。だって僕、生活費全部Xem(彼ら/彼女ら。この時代の用語で、無性)からもらってるから!

可愛さでごはんを食べてます。



エスカモール饅頭と、七味龍飴と、七味ジュースが、視界に入った。

一つはせいろに入った肉まんで、もう一つは、龍の形をした、七色の飴細工。ジュースも層ごとに色が別れている。

飛行型配膳ドローンが机の上に、それを置いた。


僕が右の掌を浮かべると、浮遊型カップドローンは、その空中の位置でぴったり止まった。

これでジュースはいつでも飲みやすい。


最初に、肉まんを手に取った。半分に割ってみると、肉まんから肉汁が流れ出し、同時に黄色いつぶつぶが見えた。

メキシコのつやはだアリの卵を茹でた、メキシコ・キャビア、エスカモールと人工豚の挽肉饅頭。


中華伝統の黒酢をつける。口に入れて噛むと、まるでバターとナッツの液体が入った肉まんみたいだ。

それが酸っぱいのと、醤油の味で刺激的。

本当に美味しい。


そうして、肉まんを食べていると、晩霧は微妙そうな顔をした。


非人間族の多くは、昆虫食を苦手とする。彼らは昆虫を食べない時代で生まれ育ったからだ。

昆虫は、アメリカやメキシコの食虫メジャー、つまり供給会社と、北欧・中国・フランスの料理屋が流行らせた。

今では皆食べている。タコスには、メキシコキャビアは必須の材料だ。

エスカモールは、上品なチーズとバター、ナッツのような味。

味の違ういくらみたいな感じだ。

中国料理にも合い、中国でも人気だ。


あっという間にそれを食べ終わってしまった。


「虫の卵ですよね」


「そうだね。苦手だった?」


「自分は食べたくないです、美味しいんだろうけど・・・・・・」


「今そんなこと公衆の面前で言うとまずいよ。差別になっちゃう」


「ああ。忘れてました。すぐに情報は行き渡る」、晩霧は口に手を当て、笑った。


晩霧はため息をついて、うなだれた。


「ストロー分けたいぐらいです。うぅ」


「ジュースで口ゆすいでおこうか」


僕は自分の七味ジュースで、口をゆすいだ。

すると急に辛くなったり甘くなったりで、なんだか笑えてきた。


最後に、飴の台座を手に取った。金色の台座の上に、龍が乗っている。


龍の形をした、七味の飴。ペーストを3Dプリンターで、龍の形にした者だろう。


口に入れれば、7種のフルーツの味がする。

リンゴ、マンゴー、パパイヤ。後はなにか忘れたけど、とても美味しい。口の中に含めば、時間と共に味が変わっていく。

味変は、第六の味覚と今では呼ばれるほどだ。


「口の中がちょっと痛い」


「龍はとげとげしてますからね」


そうして、トロピカルジュースに口をつけた。一人で飲むと、もう片方からこぼれたから、晩霧が口をつけた。


そうして、夕方を過ごしていると、バイザーが震えた。バイザーをかけると、また同じアカウントからメールが来ている。



「ん?なにか通知が来てる。中国は危険だから旅行に行くな?同じ文面がずっと続いてる。ずっと同じアカウントだね。しかも、今日に至ってはものすごい量だ」


「それって最近流行の戦争詐欺って奴じゃないですか?戦争の脅威を利用して、相手を騙す奴」


「それもそうかもね。僕のアカウントには詐欺のメールがよく来るんだ」


「昔引っかかってましたよね。詐欺に」


「詐欺AIも進歩したよね。あれで10万円ぐらい取られちゃった」


「あの時の顔可愛かったですよ」


「ちぇ。サディストなんだから」


あの時、滅茶苦茶からかわれた。今もからかわれてる。

30年ぐらい言われそうだよ。

ドローンをリュックから出し、空中に浮かべた。


「今から動画撮っていい?」


「いいですよ」


「今僕は晩霧さんと一緒にいます。これから中国旅行を始めるので、その様子を投稿したいと思います」


僕は、ドローンに向かってピースする。数百年ぐらい前からある、伝統の挨拶さ。


「はい、晩霧です。このたびは如月優さんの旅行の案内をつとめています。案内できて光栄です。

カップル用ジュースを二人で飲んでいます。お先!」


いろいろなコメントが来ていたが、だいたいが怒りのコメントだった。

怒っている顔文字や、怒る猫の動画が返信に来ている。のほほんとした怒りだ。


また、バイザーは震えた。


「皆怒ってるよ」


「ふふ。独り占めですからね」



金色の夕方は、花びらが落ちていくかのように、ゆっくりと消えていった。





https://note.com/kyomunomahou/n/na148d46614e0

キャラクターの設定絵。


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