第5話 ギルド酒場へ
まずは、食事。
その言葉に釣られて、玲人はギルド機能でギルドホームへと向かった。するとそこは、想像とは異なり閑散としていた。カウンターの奥に一人と、カウンター席に一人しかいない。他のギルメンの姿はない。
カウンター席へと歩み寄り、千脚の椅子から一つ空けたところに座る。
「新顔だね」
するとカウンターの奥で皿を拭いていた老年の黒エプロンの相手に声をかけられた。
「今日入れて頂きました。玲人です」
「俺はここで酒場を切り盛りする役をやらせてもらってる【遠藤】だ」
「宜しくお願いします」
玲人は頭を下げてから、先客を見る。
焦げ茶色の髪と目をしていて、向こうも玲人を見ていた。そしてまじまじと玲人を見てから、ふいっと顔を背けると、片手でロックグラスに触れた。氷がカランと啼く。
「支援好きには見えないな」
「えっ」
「支援疲れって顔してる」
まるで見透かされたようで、玲人は戸惑った。事実そうである。スパイだと露見する恐怖はない。まだ何もしていないのだから。それよりも、内心を悟られたことに驚いていた。
「どうして……ですか?」
「見てると分かるんだよ」
「……俺は、このギルドを出て行った方が良いでしょうか?」
支援が好きであることは、条件の一つと言える。
バレてしまったのだからとそう呟くと、青年が玲人を見た。
「どうして? 疲れるほど好きなんだから、支援者を名乗っていいだろ」
「っ」
「好きじゃなく、嫌々やっていたんだとしても、支援はしてきたわけだ。そして、強くなったから自慢するために支援したいというような甘い考えで始めた奴より、疲れるほどやってきた奴の方が、支援って向いてると俺は思うぞ。お前みたいな奴は向いてるというか、このギルド、続く」
そう語ってから、ニッと口角を持ち上げて、青年が笑った。
すんなりと入ってきた言葉に、何故なのか涙腺が緩みそうになっていたときに、あまりにもぐっとくる笑みで、力強く笑われた。一瞬、目が釘付けになる。なんだか、認められたようで嬉しくなってしまった。青年の人間性に惹かれた瞬間だった。
「俺は優雅。はじめまして」
笑ったままで、青年が片手を差し出した。慌てて手を伸ばし、その名に玲人は驚く。
「ギルマスの……?」
「おう。ギルマスをやらせてもらってる」
それを聞いて、妙に玲人は納得した。この人は、人の心を掴む人だなと言う直感があった。
「困ったことがあったら言ってくれ。支援する側――が、支援を求めちゃ駄目だなんて、うちのギルドは言ってないからな」
手をギュッと握ってそう言ってから、優雅が手を離した。力強いその感触に、ドキリとした。正直、これまで真世界に来て不安だった。頼れる者がおらず、姉のことだって自分が助けなければと思っていた。自分はそれを見捨ててきた。いいやギルメン達も見捨ててきた。自分だけでも生きていこうと思った結果だ。けれどそこにも不安しかなかった。その中で初めて、頼れる人を見つけた感覚に陥った。
「遠藤さん、俺とこいつにジンライム――あ、玲人。お前歳は?」
「二十一歳です」
「了解。少し童顔だな。酒が飲める歳でホッとした。この世界に法律は無いとは言え、基本的に、そういうのはな。さもうちのギルドが無法者の集いみたいにもいえるが、現実だった日本の法令遵守をしてる部分だって勿論ある」
そう言って笑った優雅と、座っている玲人の前に、すぐにカクテルが置かれた。
「優雅さんは何歳ですか?」
「俺は二十六歳」
そこからは雑談が始まった。とりとめもなく、好きな食べ物や嫌いな食べ物の話をする。
特に個人情報を深く聞かれることもなく、志望動機にも触れられない。
「じゃ、これからよろしくな。俺はちょっと出てくる」
「はい。よろしくお願いします」
そのようにして、十五分後には優雅が席を立った。
残った玲人は、正面にある優雅オススメのおつまみへと視線を戻した。遠藤は料理スキルを上げているのだという。NPCショップの品しか食べたことがなかった玲人にとって、出てくる料理も酒も、いずれもとても美味に思えた。その味にだけでも泣きそうだった。
そこで空腹を満たすと、丁度夜になった。
二階に広がる宿の部屋に入り、備えつけのシャワーを浴びた時、その温度でまた泣きそうになった。欲しかったものが全部ある。
ベッドに入り毛布をかける頃には、スパイなど止めて、ずっとここにいたいと感じてしまうほどだった。
「……いいや。それならば逆に、【胡蝶の夢】には入った方がいいか。優雅さんの役に立てる情報を得られるかも知れないし」
そんな事を呟いてから、この日ぐっすりと玲人は眠った。
ゾディアックの星灯り ~ゲームの集団転移/転生に巻き込まれたあるモブの青年~ 水鳴諒 @mizunariryou
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