第13話 山暮らしの竜、人助けする




「うっ、こ、ここは……」



 ちょうどフルプレートアーマーの口周りに着いた血を拭うと、彼女は目を覚ました。

 混乱しているのか、辺りをキョロキョロと見回している。


 すると、フルプレートアーマーが目覚めたことに気付いて弓使いの少女と魔法使いの少女が慌てて駆け寄った。



「リーン!! 体調はどう!? どこも悪いところはない!?」


「ん? あ、ああ、平気だ。だが、すまん。レイン、ティオ。何があったのか思い出せない……」


「……凄い。体温も正常、身体のどこにも異変が無い。最初から何事も無かったみたい」



 どうやら天使さんの言った通り、竜の血は絶大な効果を発揮するらしい。


 フルプレートアーマーの身体から毒が消え、今にも死にそうだった顔色が良くなっている。


 もう大丈夫そうだ。


 アルメリアに万が一のことが起こった時のため、瓶か何かに俺の血を詰めて持たせておいた方が良いかも知れないな。



『竜の血は鮮度が落ちやすく、腐った竜の血は死を招きます』



 む、そうなのか。じゃあさっきのはナシで。


 アルメリアが腐った竜の血を飲んで死んだら発狂してしまいそうだからな。



「行こう、アルメリア」


「あ、はい!! ……ふふ」


「……な、何を笑っているんだ?」


「いえ、何でもありません!! ドーラ様は優しい御方だなあ、と」



 アルメリアにそう言われると照れ臭くなってしまう。



「お、お待ちを!!」


「……なんだ?」


「レインとティオから聞きました。貴殿が貴重な秘薬を使ってくださったと」



 フルプレートアーマー、たしかリーンと呼ばれていたな。


 仕草の端々に上品さを感じる。裕福な家庭で育ったお嬢様だろうか。



「どうか礼をさせて欲しい」


「……気にするな。妻の頼みだったからな」


「妻? あ、ああ、そちらの女性が……」


「そうだ。では」


「あ、ちょ!! お待ちを!!」



 し、しつこいな、この子。



「まだ何かあるのか?」


「そ、そう嫌そうな顔をしないでくれ。……貴殿の一族に伝わる秘薬とやらを売ってもらえないだろうか?」


「……理由を聞こうか」


「私の知り合いに毒を受け、数年間眠り続けている者がいる。その者に秘薬を飲ませたい」



 真っ直ぐ俺の目を見つめながら懇願するリーン。


 正直、顔も知らない赤の他人を助けたいとかそういうことは思わない。


 ただアルメリアの方をちらりと見ると。



「ドーラ様……ッ!!」



 めっちゃ目を輝かせてる。


 うーむ、これも竜の特性だろうか。アルメリアのお願いにはとことん弱い。


 まあ、お願いを聞いてあげた分、ベッドの上で返してもらうがな。


 とは言え、だ。



『竜の血は体外に出て三日で毒となります』



 とのこと。


 それは伝えておかないと、後で何かあったら面倒だからな。



「秘薬は日持ちしない。三日経てば猛毒に変わって服用者を殺す。それでも良いなら譲ろう」


「た、たった三日か?」


「そうだ。どうする?」


「……分かった。三日ならここからギリギリで間に合う」


「そうか。なら何か入れ物はあるか? あとあっち向いてろ」


「あ、ありがとう!!」



 おそらく中にポーションが入っていたであろう小瓶をリーンから受け取り、皆がこっちを見ていないことを確認してから血を注ぐ。



「ほら」


「ありがとう!! これは少ないが、せめてもの礼だ!! またどこかで会えたら酒でも奢らせて欲しい!! 行くぞ、レイン!! ティオ!!」


「あ、ちょ、ちょっと待ってよ、リーン!!」


「……本当に礼を言う。ありがとう」



 そう言ってリーンはお金の入った袋を俺に渡し、足早に去って行った。


 俺は三人の姿が見えなくなるのを確認してから袋の中を見る。



「む、銀貨か?」


「!? そ、それは……」


「? どうした、アルメリア?」



 アルメリアが袋の中に入っていた硬貨を見て目を瞬かせている。



「そ、それは帝国白金貨です!! 普通は大商会の大きな取り引きで使われるようなものですよ!?」


「……あのリーンとか言う女は何者だ……」



 白金貨を『少ないが』と言っていたリーンは何者なのだろうか。


 少なくともただの良家のお嬢様というわけではなさそうだ。


 まあ、俺には関係ない。

 今は調味料を大量購入するためのお金が手に入ったことを喜ぼう。


 俺はファディスの街で大量の調味料を買い込み、エレスト山へ帰った。


 アルメリアはもう少し冒険者っぽいことをしたがっていたが、それよりも天使さんのご飯が食べたかったらしい。


 天使さんの料理に舌鼓を打ち、俺はアルメリアを抱くのであった。











 それから数日。


 エレスト山の頂上でアルメリアと日向ぼっこしたり、青空の下でエッチしていた時のこと。



「ん?」


「あんっ♡ どうしかしたんですか、ドーラ様?」


「……何かがここに向かって来ているな……」



 翼がはためく音だった。


 一つや二つではない。数十、いや、数百はいるだろうか。


 空を見上げると、無数の影が太陽を遮る。


 それらの影のうちの一つが俺の前に降り立ち、その姿を現した。


 一見すると小さなドラゴン。

 と言っても俺より小さいだけであって、全長数メートルはある。


 襲撃かと思ってアルメリアを廃神殿に避難させ、俺は上空で旋回するドラゴンたちを見上げる。



『下位竜種のワイバーンです。敵意は感じられません』


「ワイバーンって、あのワイバーンか?」



 ファンタジーでは定番のモンスターと言っても過言ではないが、そのワイバーンが何の用だろうか。


 少し警戒していると、ワイバーンたちのリーダーと思わしき一際大きな個体、いわばワイバーンロードが俺に頭を垂れる。


 そして、言葉を発した。



「偉大なる竜の皇帝よ、まずはご挨拶を。私は風牙の長、ヴァネッサと申します」



 風牙? よく分からんけど、ワイバーンの名字みたいなものかな。


 俺のことを偉大なる竜の皇帝って言ってるし、敵意も無いみたいだし、話くらいは聞いてあげようっと。



「ドーラだ。何の用だ?」


「……どうか、竜帝陛下にお願いしたいことがございます。我らの同胞を、救って欲しいのです」


「同胞を救う?」



 何やら面倒事の予感。しかし、何故だろう。


 本当はエレスト山から出たくないが、無性にワイバーンたちの願いを断りづらい。



『上位竜種にとって、下位竜種は保護対象になります。分かりやすく言うなら、弟分みたいなものです』



 なるほど。弟分だからお願いを断りづらいと。


 ドラゴンって意外と人間関係、じゃなくて竜関係があるんだなあ。


 それはそうと、救うとはどういうことだろうか。



「詳しく話してみるといい。救うかどうかは、そらから決めよう」


「……我々風牙は、ここから東にある山脈地帯に縄張りを持つワイバーンの群れです。山脈地帯は人間が立ち入れない領域……でした」


「人間が来たのか?」


「はい。……奴らは強かった。風牙の戦士たちが集団で襲いかかっても、歯が立たなかった」



 ヴァネッサが悔しそうに俯く。



「一応、聞いておく。先に手を出したのはどちらだ?」


「え? ええと、人間たちの方です。子供のワイバーンを殺されて激昂した族長と戦士たちが報復のために襲撃して……」


「そうか」



 縄張りに入られた、というのはワイバーンにとってブチギレ案件だろう。

 しかし、先に手を出したのがワイバーンなら人間たちに言い訳を許してしまう。


 縄張りに入られた上、子供を殺されたなら向こうが十割悪い。



「話を続けてくれ」


「は、はい。……見たこともない風貌の人間の子供たちでした。黒髪と黒目の……」


「黒髪黒目……?」


「はい。魔法とも違う、不可思議な力を使い、同胞を次々と殺しました。私は戦う力を持たないメスや子供のワイバーンを連れて、逃げたのです」


「……ふむ」



 魔法とは違う力? 気になるな。



「はーい、というわけでお姉さんが来たよー。ひっく」


「お、お邪魔しますね、大山さん」


「「え?」」



 なんか空間に穴が開いて、そこからひょこっと二人の美女が顔を出した。


 一人は俺を竜に転生させた女神アルティナ、もう一人は着物を着た知らない黒髪の綺麗なお姉さんだ。


 でも、ちょっと酒臭い。


 よく見ると片手には酒瓶を持っており、らっぱ飲みしていた。



「え、本当に誰?」


「まあ、細かいことは気にしない気にしない!! ひっく。あ、君お酒飲めるー?」


「アマテラス様、その、本題に入った方が……」



 ん? アマテラス……?






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「エッチなシーンあると思った人、先生怒らないから手を挙げなさい」



「エッじゃない、だと!?」「アマテラスさんキター」「(^ー^)ノ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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