第7話 山暮らしの竜、森に出る




 拝啓、くそったれなお父さん、お母さんへ。


 お元気ですか? お元気ならくたばって地獄に落ちやがれ。


 今日は一つご報告があります。


 俺、大山竜季改め黒竜はこの度、良縁に恵まれ、妻を娶ることになりました。


 めっちゃ可愛い美少女です。しかもお姫様です。


 ついでに言っておくと二度見するくらいの素晴らしいおっぱいをお持ちです。


 最高です。以上、自慢終わり。



「んぅ……黒竜様ぁ♡」



 俺の腕にアルメリアが眠ったまま抱き着いてくる。

 柔らかくて大きなおっぱいがむにゅうっと当たって形を歪めた。


 もう我慢できない。


 俺は穏やかに眠るアルメリアのおっぱいを揉みしだく。



「ひゃんっ♡ もう、黒竜様ったら♡」



 目を覚まして頬を膨らませるアルメリア。


 俺は辛抱堪らずアルメリアに抱き着いておっぱいに顔を埋めた。



「まったくもぅ♡ 甘えん坊さんですね♡ いいこいいこしてあげます♡」



 アルメリアがそう言って微笑みながら、俺の頭を優しくナデナデしてくる。


 母性の塊すぎる。


 この最高に可愛い美少女が俺の妻とか夢じゃないだろうか。


 と、その時だった。


 俺とアルメリアのお腹から同時にきゅるるる、という音がしたのは。



「む……」


「そ、そう言えば、お腹が空きましたね……」



 生き物であれば避けられない現象、空腹。


 困ったことになったな。俺は草や葉っぱを食べたらそれで済むが、アルメリアは人間だ。


 食べ物を用意しなければ……。


 いや、人化した状態で人里まで行って何か食べさせてもらう方が無難か?



『金銭がありません。食品の購入は不可能です』



 だ、だよね。知ってた。


 仕方ない。多少は大変でも森で肉や食べられそうな薬草を探すか。



「森で食べ物を獲ってくる。アルメリアはここで待っていろ」


「私も行きます!!」


「え? い、いや、野獣も多いし、危険だ。この神殿には結界が張られているから大丈夫だが、外は危ないぞ」


「大丈夫です!! 森で野草集めや獣の狩りをしてみたかったので!!」



 まるで無邪気な子供のように目をキラキラ輝かせながら言うアルメリア。


 こ、これは断れないな……。


 天使さん、危険な動物がアルメリアに近づいてきたら教えてくれ。頼む、この通り!!



『了解しました』



 天使に周囲を常に索敵してもらい、危険を取り除きながら森に向かう作戦だ。


 しかし、思ったよりも危険は無かった。


 天使の話によると、野生動物は俺の気配を怖がっているようで、自らの巣穴に閉じこもってしまったらしい。


 安全が確保されている反面、動物を狩れなくてアルメリアはとても残念そうにしていた。



「はっ!! そうです、罠を作りましょう!!」


「わ、罠か?」


「はい!! 猟師は弓矢で獣を狩るだけでなく、罠を使って獲物を獲ると本で読みました!!」



 アルメリアは器用に石器で道具を作り、それらを使って罠を製作し始める。


 俺はその傍らで草や葉っぱを食みながら野草を集めた。

 途中で天使さんから油が取れる植物を教えてもらい、指示通りに搾って油を確保。


 野草の素揚げとかできるかも知れない。


 ついでに川を見つけたので、そこで一度人化を解き、鮭を獲る熊のように腕を振り下ろして魚をゲットした。


 大漁だったので心の中で舞い上がっていると、不意にアルメリアが俺を呼ぶ。



「黒竜様!! 見てください!!」


「ん? おお!? す、凄いな!?」



 少し目を離した隙に、アルメリアは凄いトラップを作っていた。


 動物が足下に張った蔦のロープに引っかかると、上から木を削って作った槍が降ってくるという罠だった。


 アルメリアは本の通りに作ったらしいが……。


 もしかしなくてもアルメリアって物作りの天才だったりするのか?



『……些かロープの強度が足りないかと。このままでは勝手に罠が作動するかも知れません』



 む、そうなのか。


 俺は天使の指示に従って、アルメリアの罠を少し手直しする。


 昔から手先は器用なのでバッチリだった。



「まあ!! 流石は黒竜様ですね、私の罠をすぐに手直ししてしまうなんて!!」


「あー、いや、今のは俺の中にいるもう一人に教えてもらってな。礼はそいつに言ってくれ」



 そう言うと、アルメリアは驚いた様子で再び頭を下げた。



「黒竜様の中の御方、ありがとうございます!!」


『……お構いなく、とお伝えしてください』


「どういたしまして、だって」



 天使から『あ?』みたいな雰囲気が伝わってきたが、無視する。


 俺の身体を使ってドラーゴ王に生贄とか適当なこと言いやがったからな。その意趣返しである。



「さて、そろそろ日も落ちる。帰ろうか」


「はい!! あ、黒竜様」


「ん?」


「その、手を繋いでも良いですか……?」


「あ、ああ、良いぞ」



 可愛い。


 それから俺はアルメリアと手を繋ぎ、神殿へと戻った。


 人化できるよう女神様にお願いしておいたのは正解だったかも知れない。


 帰りの道中で甘くて瑞々しい果実も見つけることができたし、食っちゃ寝するより遥かに有意義な一日だったと思う。



「さて、天使さん、どうよう? 困ったことになったぞ」


『……』



 野草と果物を持ち帰った俺は、完全に困り果てていた。


 アルメリアは疲れて眠ってしまったため、その間に俺が野草と油を使って野草や魚の素揚げでも作ろうと思ったのだ。


 調理器具は神殿の小部屋に過去の神官たちが使ったであろうものがあったから問題ない。


 では何がまずいのか。


 冷静に考えてみたら、一国のお姫様に出す料理が野草の素揚げってどうなんだ!?


 ということである。



「な、何かこう、お姫様にも出せるようなレシピを教えてくれ!!」


『……はあ』



 あ、天使さんがまた溜め息を吐いた!!


 ぐぬぬぬ、こうなったら自分で何とかするしかないか。


 と思ったら、天使さんが思わぬ指示を出す。



『地下室に向かってください』



 え? 神殿の地下室?


 何故また急に? そこにレシピがあるのか? というかここって地下があったの?


 疑問は尽きなかったが、天使さんの言葉に従って地下室へと続く階段を見つけ、俺は下へと降りて行った。


 竜の目は辺りが真っ暗でも見えるから素晴らしいな。



「ここが地下室? 変な箱以外は何もないが……」


『その箱に触れてください』



 俺は地下室の中央に鎮座していた人一人がすっぽりと入りそうな大きな箱に触れる。



『接続開始……完了。代行権限を使用します。許可を申請……受諾を確認』


「え? うおっ、なんか光った!?」


『箱から離れてください』



 言われるがまま、俺は箱から距離を取った。


 しばらくして、機械音と共に箱の上部が開いて中から誰か出てくる。



「天使さん!? 何あれ!? なんか出てきたぞ!?」



 問いかけてみるも、何故か天使さんからの回答は無い。


 俺はいつでも戦えるよう、身構えた。


 そして、箱から出てきた何者かの姿を見て思わず硬直してしまう。



「は? 美少女?」



 箱から出てきたのは、アルメリアにも負けない美少女だった。


 銀色の髪と青い瞳。


 そして、大きすぎず小さすぎない、程よく手に収まるようなサイズ感のおっぱい。


 その顔立ちはゾッとするほど整っているが、どこかこちらを見る目が冷ややかというか、めっちゃ無表情だった。


 身体の各所からコードのような物が生えており、どことなく機械っぽい。



「だ、誰なんだ、君は?」


「貴方が天使と呼ぶ者です」


「……え?」



 どうやらこの銀髪美少女は、俺が困った時にいつも頼る天使さんらしい。


 いや、なんで!?









―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話

アルメリアは箱入りだけどフィジカルあるタイプ。



「アルメリア逞しくて草」「天使さんが受肉したぞ!!」「新ヒロインか!?」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る