第6話 山暮らしの竜、土下座する
「すまんかった」
人形態の俺は廃神殿の奥にある小部屋で、アルメリアに土下座していた。
まだ廃神殿が使われていた頃、神殿を管理していた聖職者たちが寝泊まりするために使ったであろう部屋だ。
多少埃は被っているが、天使によると保存魔法が施されており、部屋は新品同然だった。
昨夜、俺は竜の本能に抗えず、アルメリアを孕ませるために押し倒した。
欲望のままにアルメリアの豊満なボディーを貪ったのだ。
最高でした。
って、じゃない!! 反省してます!! それはもう大いに反省しておりますとも!!
「い、いえ、お気になさらず!! 顔を上げてください、黒竜様!!」
そう言ってくれるアルメリアは、とても優しい笑顔だった。
天使かよ、この子。
『天使は私ですが』
辛辣な天使はお黙り!!
俺は酷いことをしたのに優しくしてくれるアルメリアが天使みたいだって話してんの!!
こっちの天使はさておき、どうしたものか。
俺とアルメリアの間には言葉で表現するのが難しい空気が流れている。
この空気をどうにかしたい。
あれこれ頭の中で色々考えていると、アルメリアはくすっと笑った。
「ふふふ」
「な、なんだ? また急に笑って……」
「い、いえ、すみません。焦ってる黒竜様が可愛くて。本当に気にしてないので大丈夫ですよ?」
「こ、怖くなかったか?」
アルメリアが正座する俺の傍に近づいてきて、正面に座る。
そして、俺の手を優しく握った。
「はい。初めてだったので最初はちょっぴり痛かったですけど、段々気持ち良くなって、最後の方は自分から腰振っちゃいましたし……」
「す、すまん」
「むぅ。そこまで謝られたら、逆にこちらが申し訳なくなってしまいます。黒竜様は気持ち良くなかったですか?」
「あ、いや、それはめっちゃ気持ち良かった。……初めてだったし」
「まあ!! じゃあお互いの初めてを交換しちゃったんですね!!」
お互いの初めてを交換。
少し前まで童貞だった俺からすると、無性に心をくすぐる言葉だった。
アルメリアが頬を赤らめて言う。
「……えっと、黒竜様」
「な、なんだ?」
「黒竜様は、私のことどう思いますか?」
「え?」
それは、どういう意図の問いだろうか。
そ、そうだ!! こういう困った時のための天使さんだ!! 天使さん!! 天使さーん!!
『……アルメリアの心拍数上昇を確認。その他、性的興奮をしている様子が見られます』
え? せ、性的興奮、だと!?
つまり、アルメリアは俺に対して性欲を抱いているということか!?
何これどうしよう!? ぐぬぬぬ……。
ええいままよ!!
前世で地獄を生き抜いてきた俺に今さら怖いものはない!!
「大好きだ。もっとエロいことしたい」
……自分の口を縫いたい。
大好き、だけで良かったじゃん。エロいことしたいって何なの。
「わ、私も、です」
「え?」
「私も、お慕いしております、黒竜様」
思わぬアルメリアの返答に硬直してしまう。
「で、出会ったばかりで変だとは思いますけど、本当ですよ!!」
「いや、えーと、な、なんでだ?」
正直、アルメリアが何を考えているか分からない。
俺は竜の本能でアルメリアに対する性欲や独占欲を抱いているのかも知れないが、アルメリアはいたって普通の人間だ。
無理矢理迫ってきた男を好きになるだろうか。
と思ったら、アルメリアは訊いてもいないのに俺を好きになった理由を話し始めた。
「その、えっと、まずお顔が好みです♡」
「顔」
「はい。竜のお姿の時は可愛らしいと思っていたのですが、人の姿になったら端整で綺麗なお顔でしたので」
俺は部屋の隅に置かれている鏡を見た。
言われてみれば、たしかに整った顔立ちをしていると思う。
身長も高いし、割とがっちりした身体だし。
艶のある黒髪が肩まで伸びており、少し野性味がある美丈夫だ。
前世の平凡な顔立ちだった俺と比べたら、なおのこと今の自分が女子ウケの良さそうなイケメンだと思える。
「あと、体力もあって素敵だなあと。まさか一晩中エッチなことするとは思いもしなかったので♡」
「そ、そうか」
そこはまあ、ドラゴンだからな。運動した後は眠くなるが、体力はある。
「それに何より……その、優しいところが一番好きです」
「ん? や、優しい? 俺が?」
「はい」
アルメリアには優しくしてもらったが、俺が優しくしたことはないと思うが……。
何のことだろうか。
「私が死のうとしていた時、宥めてくださったじゃないですか」
「あー、いや、あれは深い意味はなくてだな」
「でも私にとっては救いになる言葉でした。あの時点で結構好きになってたと思います。トドメのエッチで自覚しちゃいました♡」
「……」
てへっ♡ と舌を出すアルメリア。
色気と可愛さがヤバイ。俺のドラゴンソードが覚醒しそうだ。
お、落ち着こう。まだ慌てる時間じゃない。
「黒竜様」
静かに俺を呼ぶアルメリア。
俺はアルメリアが何を言うのかと思って、その顔を見つめる。
アルメリアは大きく息を吸って、吐いた。
「すぅー、はぁー。黒竜様」
「な、なんだ?」
「私とお付き合い、しませんか?」
「……そ、それは……」
「むぅ。断られたら私、泣いちゃいますよ? お願いなので私と恋人になってください」
頬を膨らませながら、俺の胸板を人差し指でつんつんしてくるアルメリア。
あざと可愛い。もうダメだ。
俺は昔から理不尽な目に遭ってきたし、好きな子に裏切られたことは何度もある。
もしかしたらアルメリアには何らかの思惑があるかも知れない。
でも、俺を騙すつもりでも構わない。
今はとにかく覚醒したドラゴンソードに従おうと思います。
「ふぅー、ふぅー」
「……黒竜様? ひゃっ♡」
俺は再びアルメリアを押し倒した。
「んっ♡ 黒竜様っ♡」
「恋人なんて生ぬるい!! お前は俺の妻にする!!」
「あんっ♡ 強引なところも素敵ですっ♡ 分かりましたっ♡ 私、アルメリアは黒竜様の妻になりますっ♡」
ぶっちゃけ自分が何を口走ったのかもよく覚えていない。
ただアルメリアとの時間は、前世よりも、ただ食って寝るだけの時間よりも遥かに幸せなものだった。
一方その頃。
神域では女神アルティナが大きな溜め息を溢していた。
「……ふぅ。今日のお仕事は終わりですね」
アルティナが軽く伸びをして、そのままぐったりとしてしまう。
女神の仕事はハードワークだった。
と、その時だった。アルティナの懐にある携帯電話が鳴る。
ちなみにこのスマホ。
見た目はただの電話だが、実際は人間では作り出すことが叶わないオーバーテクノロジーの塊だったりする。
「はい、もしもし」
『やっほー、ティナちゃーん。わたしわたしー、アマちゃんでーす』
「ア、アマテラス様!?」
電話の向こう側にいるのは、地球を治める女神の一柱だった。
「ど、どうかなさいましたか?」
『んー? えーと、あれー? なんで電話したんだっけ? 忘れちったー』
「……アマテラス様、お酒飲んでます?」
『あたぼうよー!! あ、思い出した。今ねー、神在月でさー。出雲ってところで皆で酒盛りしてるのー。良かったらティナちゃんもどうー?』
「い、いえ、お誘いはありがたいのですが、他所の世界にお邪魔するのは……」
『えー? もう、ティナちゃんってば真面目だなー。もっと地球を見習いなよー。こっちはドンパチやってんだよー』
「は、はあ……」
アルティナは困ったように笑う。
神々にとって地球は普通の世界とは異なる世界だったりする。
そもそも神とは一つの世界につき一柱まで。
にも関わらず、地球にはアルティナよりも隔絶した力を有する神が何柱もいる。
日本という国に至っては八百万も神がいるそうだ。
それだけの神がいたら戦争勃発は当然。
地球は謂わば激戦区であり、まともな神なら絶対に行かない場所だ。
『あ、ごめーん』
「アマテラス様?」
『今さー、北欧の連中とエジプトの奴らが喧嘩売ってきたんだー。大和は売られた喧嘩は買うからね。あ、ゼウスのおっちゃんも来たし、切るねー』
ツー、ツー、ツー。
通話が切れたアルティナの携帯電話から電子音が鳴り響く。
「……地球、怖いですね。っと、そう言えば大山さんはどうなりましたかね?」
アルティナは神の力を使って、しばらく前に送り出した青年の様子を覗き見る。
すると、その青年は――
『あんっ♡ こ、黒竜様っ♡ らめっ♡ そんな激しいのっ♡ 壊れちゃいますっ♡ 私の大事なところっ♡ 黒竜様の形なっちゃいますぅ♡』
美少女とエッチしていた。
思わずアルティナは目を覆ってしまうが、指の隙間からバッチリ見ている。
「……お、お盛んですね……」
アルティナは一休みがてら青年と少女のあられもない姿を眺めながら、自らの股ぐらに手を伸ばした。
女神とて、色々と溜まるのだ。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「読者の皆さんは次に『女神様のところ詳しく!!』と言う」
「女神様のところ詳しく……はっ!?」「唐突なジ◯ジョで笑った」「地球の神々が気になりすぎる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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