第4話 山暮らしの竜、謝罪される






「黒竜殿!! どうか、どうか謝罪をお受け取りください!!」



 戦争を強制的に終わらせたら、廃神殿まで人間たちがやってきた件。

 しかも有り得ん量の貢ぎ物というか、謝罪の品を持ってきてらあ。


 天使の話だとエレスト山はこの世界で最も高い山のはず。


 どうやってあんな量の物を持ってきたんだ?



『おそらくは転移魔法を使用したのかと。数人の魔導師と思わしき人間が魔力欠乏症で死にかかっています』



 えぇ、大丈夫なの?


 いやまあ、別にどっちでも良いけど。それよりうるさいから帰ってくれないかなあ。



『廃神殿から出て謝罪を受け取るしかありません。竜は単独で現文明の大国を滅ぼす存在。彼らにしてみれば、その場凌ぎの謝罪だけして許されるとは思ってはならない怪物です』



 そりゃそうか。


 じゃあとっとと謝罪を受け取って、早く帰ってもらうかあ。


 俺は気乗りしないながらも、のっそのっそと廃神殿の外に出る。

 廃神殿の外では数十人程度の一団が緊張した面持ちで静かに待っていた。


 見たところ二つのグループに分かれている。


 各グループから一人ずつ、オッサンと妙齢の美女が前に出てきた。


 オッサンはどうでも良いけど、お姉さんの方はめっちゃおっぱいがデカイ!! 女神様に勝らずとも劣らないな!!



『アルティナ様の方が大きく、形が整っています』



 あー、はいはい。


 女神様贔屓の天使は無視するとして、ひとまず俺は二人の声に耳を傾ける。


 すると、二人は自らの名を名乗った。



「こ、黒竜殿。儂はドラーゴ王国の国王、ダウラ・ロ・ドラーゴと申す」


「よ、余はアレグザンド帝国の女帝、システィナ・ヴァル・アレグザンド。此度はドラーゴ国王と共に謝罪に参った」



 おー、王様が二人も来たのか。


 しかも俺の威圧感半端ない姿を見て少し震える程度で毅然とした態度だ。


 こっちまで緊張してきたぞ。


 天使さん天使さん、また身体貸すから適当に相手してー。



『……ちっ』



 あ、すみません。自分で何とかします。


 今日の天使、なんか不機嫌というか、ちょっぴり怖いなあ。



「あー、コホン。よく来たな、王国と帝国の長よ」



 それっぽい話し方にしてみたけど、なんかむず痒くなる。


 これはあれだ、中二病だった当時の自分を後から振り返った時の羞恥心と似ている。


 俺は声が震えないよう、細心の注意を払いながら言葉を紡いだ。



「謝罪に来たと言ったな。ならば不要だ」


「「!?」」



 もう気にしてないからな。


 あの場で指揮官の人たちには謝ってもらったし、あれだけ脅せば数百年は静かだろうし。


 そういう意味での発言だったが、どうも曲解されて伝わったらしい。



「そ、それは、儂らを滅ぼすのは決定事項という意味でございましょうか?」


「えっ?」


「お、お待ちを!! 余は、余の首を差し出すつもりでここに来た!! どうか、どうか民の命だけは!!」


「あー、えっと」



 ドラーゴ王は今にも死にそうな程、全身をガクガク震わせる。


 対するアレグザンドの女帝はその場で頭を地面に擦り付け、民衆の命乞いを始めた。



「や、やめよ、帝国の長よ」


「やめませぬ!! 此度の責任は、女帝たる余にあります!! 黒竜殿の眠りを妨げた罰は、どうか我が身一つに!!」


「む、むぅ」


『……フッ』



 おい、天使。今、鼻で笑っただろ。


 絶対にどう対応しようか迷ってる俺を見て鼻で笑っただろ。



『気のせいです』



 こ、この天使、ムカつく!!


 いや、今は落ち着こう。まずは女帝の方をどうにかするのが最優先だ。



「あー、うむ。そなたの覚悟と謝罪の意志は伝わった。帝国を許そう」


「!? よ、余の首は……」


「要らん」



 人間は食べても美味しくないだろうし。


 俺がそう言うとアレグザンド帝国側の人たちの表情が途端に明るくなった。


 女帝さんの名前、たしかシスティナだったな。


 どうやら臣下たちから相当慕われている人物みたいだな。


 と、そこでハッとしたドラーゴ王国の王様も遅れて俺に土下座してきた。

 勢い良く土下座しすぎて頭から少し血が滴っている。


 めっちゃ痛そうだ。



「こ、この通りでございます!! どうか、我らにも慈悲を!!」


「む。さっき言った通りだ」


「で、では、王国は滅ぼすと!? あ、ああ、そんな……」


「……あっ」



 しまった。


 さっきの俺の言い回しだと、帝国を許したみたいに聞こえちゃうか!?


 い、急いで訂正しないと。


 王国も帝国も許すから早く帰ってって言わないと面倒なことになる!!


 と思ったのだが、わずかに遅かった、



「黒竜様。どうか私の命と引き換えに、その怒りをお鎮めください」


「アルメリア!? 何故ここに!?」


「ふふ、こっそりお城を抜け出しました!!」



 ドラーゴ王国側から王様よりも前に出てくる少女がいた。


 年齢は十六、七歳くらいだろうか。


 黄金の髪と瞳、陶器のような白い肌、儚げな美しい顔立ちの美少女だった。


 しかもおっぱいが超でっかい!!


 腰はキュッと細く締まっているし、お尻も肉付きが良い。

 儚げな美少女の顔して身体はわがままボディーとか反則だろ。



「アルメリア、何を!?」


「お父様は黙っていてください。……黒竜様、貴方のお怒りはもっともです」



 え? そうかな? 寝てたら近所で騒がれて怒っただけだし、割と八つ当たりだったと思うけど。


 にしても名前はアルメリアか。可愛い。


 アルメリアは俺の前で静かに片膝をついて座り、祈るように俺を見上げた。


 意図したわけではないだろうが、アルメリアの上目遣いに思わず心臓がキュンッとときめいてしまう。


 やだ、可愛い。


 前世で出会った女も含めてトップクラスの可愛さだぞ。



「私はどうなっても構いません。どうか、王国をお許しください」


「あー、えっと――」


「お、お待ちを、黒竜殿!! 生贄であればすぐに連れて参ります!! ですのでどうか、娘だけは!!」


「お父様!! やめてください!!」


「いいや、やめぬ!! お前を失うくらいならいっそ国など!! 黒竜殿!! 年に十人、いや、百人の生贄を捧げます!! どうか、どうか娘だけはぁ!!」



 大粒の涙を流しながら娘だけは助けてくれと叫ぶドラーゴ王。


 うーん。娘想いの父親だとは思うけど、王様としてはどうなのよ。


 なんか面倒になってきたな。天使さん、マジで代わってくんない?



『……承知しました。肉体の主導権を一時的にお借りします』



 あら、今度は素直。


 さっきは舌打ちしたのに、どういう風の吹き回しだろうか。



「頭を上げよ、ドラーゴ王。そなたの誠意は伝わった。そこまで言うのであれば、百年に一人の生贄で許してやっても良い」


「ま、まことでございますか!?」


「ああ。そして、我への生贄の一人目をこの娘とする」


「!?」



 ドラーゴ王が顔面蒼白になる。ついでに言うと俺も蒼白になる。


 ええ!? ちょ、何言ってんの!?


 俺は内心で驚愕するが、天使の操る俺の肉体は変わらず言葉を続けた。



「拒絶は許さぬぞ」


「あ、あぁ、アルメリア……。儂の、儂の宝……うぐっ」


「お、お父様!?」


「陛下が倒れたぞ!! 誰か、治癒魔法を!!」


「……お前たちの用件は済んだようだな。さっさと帰るが良い」



 天使が俺の身体でそう言うと、王国と帝国の使者たちは帰って行った。


 倒れたドラーゴ王が少し心配だな。


 アレグザンド帝国の女帝、システィナも「黒竜様……♡」と危ない目をしてたし。


 いやまあ、それは一旦置いておくとして。



『肉体の主導権を返還します』



 天使さん!! 何の真似だ!? 俺、生贄とか要らないんだけど!!


 ドラーゴ王は倒れちゃうし、申し訳なさで心がいっぱいなんだけど!!



『……フッ』



 何笑てんねん!!


 文句があるなら言えば良いじゃん!! そんなに俺のこと嫌いですか!?


 舌打ちしたり鼻で笑ったり!!


 俺だって傷つくことがあるということを知らないんですかアンタ!!



『……では僭越ながら文句を言わせてもらいます。私は本来、主の下で主を支える存在。主の命令で致し方なく貴方の世話をしていますが、本来は主の下で活動したいのです。ですがまあ、そこはいいです。気に入らないのは教えてもらって当然という貴方の態度です。私はS◯riやG◯ogle先生ではないのですよ』



 あ、なんかすみません。


 ……いや、えっと、いつも色々教えてもらって、感謝してます。



『……いえ、申し訳ありません。こちらも少々大人気ないことをしました』



 俺と天使の間に気まずい空気が流れる。


 しかし、その空気を打ち破る者が、この場には一人いた。



「黒竜様、どうかなさいましたか?」


「え、あ、いや、何でもない。考え事をしていただけだ」


「……そう、ですか」



 問題は生贄の美少女、アルメリアをどうするかだよなあ。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話

天使さんも普通にキレる。



「天使さんの仕返し怖くて草」「うーん、これは主人公が悪い」「G◯ogleは隠せてなくて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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