第15話


晴天、風はなく日頃より暖かな空気が寒気の終わりを告げていた。

葬儀には町中の人が参加した。

それだけマイルスは愛されていたのだ。

胸を裂かれ、心臓を潰されていたらしい。

そのせいで棺は開けられることなく埋葬された。

埋葬が終わった後も皆が口々にマイルスとの思い出を語り、涙を流していた。

それから数日して人々は元の生活に戻っていた。

それなのに町には暗くジメジメとした雰囲気が漂っていた。

それが嫌になって町の外れへと向かうことにした。

土地勘のないシルヴィに行き先など一つしかなかった。

例の現場を通り過ぎる。

片付けられていたがそれでもまだ荒れている。

足を早めて進んでいく。

すぐに洞窟に着いた。

中に入っていく。

日の光で満ちていた。

中心に立って空を見上げた。

綺麗な青空が見える。

じっと見ていると背後から声をかけられる。


「嬢ちゃん。お前さんも来たのか」


そこにはロブがいた。

静かに、気配も感じさせないほどだった。

ロブの周りには酒瓶が転がっている。


「居心地が悪いんだ。どいつもこいつも」


ロブは悪態をつく。

すでにかなり酒が回っているようだ。

シルヴィはロブの隣にどさりと座った。

飲むか?と瓶を差し出す。

シルヴィが受け取ると続け様にナイフを手渡す。

シルヴィがナイフで瓶を開けると一気に酒を煽る。


「町の奴らが気に食わん。わしはあの坊がこんなに小さい頃から知っとる。それなのにもっと小さい頃の話であの子はいい子だったって話とる。それが気に食わん」


ロブはまた一気に酒を煽る。

シルヴィもつられて煽る。


「分かっとる。みんな悲しんどるだけで悪気などないことは」


ロブは大粒の涙を流していた。


「死んじまったら駄目だろう…」


ロブは空に消えるような声で呟いた。


「ロブ、私は…」


今度はシルヴィが話し始める。


「実感が湧かないんだ。出会ったのもつい最近で、帰るまでの付き合いだと思っていた。宿にいたら今まで通りに訪ねてくるんじゃないかって。話したいって思うともういないのかって感じるんだ」


気づけばシルヴィも涙を流していた。


「私が…もっと早く辿り着いていれば…」


ロブが優しくシルヴィの腕を掴む。


「それは言ったら駄目だ」


シルヴィはまた酒を煽る。

空になった瓶を正面の壁に投げつける。

ガシャンと音がして瓶が粉々になる。


「嬢ちゃん。ありがとうな」


そう言ってロブが新しい酒を渡す。


「何がだ」


聞き返したシルヴィにロブは


「わからん。そう思ったんだ」


それから二人は黙って酒を飲む。

隣から聞こえる嗚咽に何も言わずにシルヴィは酒を煽っていた。

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