第13話


眠りから覚め、シルヴィは伸びをする。

すっかり目覚めが良くなったシルヴィはすぐに着替えて部屋の換気をする。

早朝特有の冷えた空気を肺いっぱいに吸い込み、頭をしゃっきりさせる。

そよ風にあたり、欠伸が一つ出たところで窓を閉める。

すると部屋の扉が叩かれる。


「シルヴィさん、起きてるかい?お客さんだよ」


起きてるよ、とセリナに答えて扉を開ける。

マイルスくんが来てるよ、と伝えてセリナは戻っていってしまう。

ため息をついてロビーへ向かう。

気が重い、とまではいかないがどんな顔をして話せばいいかわからない。

そんなことを考えている間にロビーに到着する。


「おはようございます。シルヴィさん」


「…おはよう。随分と早いな」


「すみません。ご迷惑でしたか」


「いいよ。もう起きてた。いつもこんなに早いのか?」


「いつも朝は訓練していますので。このくらいには訓練を終えます」


「すごいな。私は朝が弱くてな。昔はよく怒られて…」


シルヴィは咳払いをして話を戻す。


「関係なかったな。それで、何の用だ?」


「実は先ほど騎士団の入団試験日の案内が届きました。15日後です」


急だな、と思ったが試験だけならそんなものだろうか。

それで、と話を続けようとするマイルスをシルヴィは遮った。


「分かってるよ。外を歩こう」


シルヴィはマイルスを連れ出した。

行き先が思いつかない。

結局は崖の方に向かって歩く。

しばらく無言で歩いていく。


「15日後だったか?」


「ええ、なので10日後には出発しようかと思っています」


「王都の案内は引き受けるよ」


ありがとうございます、とマイルスは裏表のない笑顔で答えた。

その笑顔を見て胸の奥がざわめく。


「一つ聞きたいのだが…」


シルヴィは前置きをして話し始める。


「この前の言葉は本気か?」


「ええ、勿論。変わらずに本心です」


むぅ、とシルヴィは黙ってしまう。

木々の隙間から空を見上げる。

鳥が2羽飛び去っていった。


「正直、悩んでしまっている。私はそんな事を言って貰えるような人間じゃないんだ」


感情的になったシルヴィにマイルスが優しく尋ねる。


「聞いてもいいですか?」


シルヴィは頷き話し始める。


「私は今、何もかもを投げ出して来たんだ。私はハンターだと言ったが本当はギルドにいるんだ。友人と、仲間と立ち上げたギルドから逃げて来たんだ」


マイルスは何も言わない。


「何もかもが嫌になったんだ。経営が上手くいっていなくて、仲間とも揉めてばかりだった」


シルヴィはため息を吐く。


「揉めていた、というより私が怒鳴ってばかりだったんだ。それなのに私が嫌になって逃げ出して」


シルヴィはまたため息をを吐く。


「帰って謝らないと。謝って、許してもらえなかったら」


どうしようか、と口に出して何かがスッと抜けていった。

それから仲間の顔が浮かぶ。

みんな笑っている。

そんな顔しばらく見た覚えがない。


「きっと、許してもらえますよ」


「どうしてわかるんだ?」


「あなたの仲間ですから、素敵な人たちに決まってます」


「いい加減なやつだ」


そう言ったがマイルスの言葉が嬉しかった。

マイルスの言葉だから嬉しかった。


「シルヴィさんはどうしたいんですか?」


「え?」


「戻りたいんですか?それとももう帰りたくないのですか?」


「私は…帰りたい。もう一度やり直したいんだ。みんなで一緒に過ごしたい」


「なら帰らないといけませんね」


シルヴィは頷く。


「私も一緒に行きますよ。許して貰えるまで謝りましょう」


シルヴィはギルドのメンバーに想いを馳せる。

帰って謝れば何も言わずに許してくれるような気もする。

怒鳴られ、追い出される気もする。

そんな光景を空想する。


「マイルス…」


シルヴィはマイルスを小声で呼ぶ。


「ちゃっかりついて来ようとするな」


二人は大笑いした。

二人とも普段の姿からは想像できないほどの大笑いだ。

ひとしきり笑って目尻の涙を拭う。


「わかったよ。一緒に行こう」


マイルスは目を見開いた。


「本当ですか」


「本当だよ。王都の案内もしてやる。でもそれ以降のことはお前が騎士になった後だ」


「はい、必ず騎士になります」


気合いの入った返事をするマイルスを笑い、それから少し王都の話をした。

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