第10話
『ーーーー!』
耳元で怒鳴り声を上げられ、シルヴィは跳び起きる。
夢、とても嫌な夢だ。
額、首回り、背中が汗でびっしょり濡れている。
立ち上がった額を手の甲で拭いながら部屋の窓を開ける。
すーっと冷えた空気が流れ込む。
冷たい風が汗をひにゃりと乾かしていく。
辺りは暗く、夜明け前だ。
シルヴィは持って来た椅子で窓の正面に座り、窓枠に肘をかけて町を眺める。
良い町だった。
出会った人は皆暖かく、もっとここに居たいと思うようになった。
(それなのに…)
後ろ髪を引かれてしまうのは何故だろうか。
元いた場所にいい思い出などなかった。
それなのに切り捨てられない。
矛盾とは違う、身動きが取れなくなるような感覚。
どっちつかずでどっちも捨てられない。
ため息を吐く。
一瞬だけ圧迫する胸の圧迫が取れる。
また、町の方へ視線を向ける。
何人かの顔が思い浮かんだ。
皆が優しく、幸せそうだった。
来てよかった、本心から思える町だった。
(本当に)
シルヴィは目を細めさらに遠くを見つめた。
ケンカばかりだった。
ギルドの経営方針で揉めてばかりだった。
優柔不断で周りの意見に流されてばかりのやつ、黙って話を聞いているだけのやつ、消極的で現状が分かっていないやつ誰も彼もが腹立たしかった。
だから私は
(怒鳴ってばかりだった)
怒鳴って、否定して、それで私は…。
(どうしたかったんだろう)
怒鳴って、否定して、悪化する状況に焦ってまた怒鳴って。
ずっと胸の奥に生まれた芋虫がうぞうぞと這い回る。
喉を掻きむしりたい衝動に駆られて爪を食い込ませて引っ掻いて。
爪に挟まった皮膚と血を見て私は嘆いていたのだ。
シルヴィは身震いをした。
きっと身体が冷えすぎたのだ。
窓を閉めて椅子をもとの場所に戻すと布団に潜り込んだ。
◇
今年最後の妖精の祝福には多くの町の人達が集まっていた。
相変わらず美しく降り注ぐ光は優しく包まれるようだ。
彼らの歌も素晴らしかった。
反響し、光と共に降り注いでいるようだった。
初めて見た時のような心を震わすような感動はなかったが身体の芯に沁みていくような気がした。
この時間が永遠に続けると願う。
そんな願いは叶うはずがなく、月は隠れていく。
皆がそれを惜しむ声を上げ、割れんばかりの拍手を送る。
それぞれが余韻に浸っている。
シルヴィも少しの間見上げていたがその余韻が寂しさを増幅させるだけだった。
帰ろうと思って立ち上がる。
続いてサーシャも立ち上がった。
帰ろうか、とサーシャに言ったところで後ろから声をかけられた。
「シルヴィさん」
「なんだ?」
振り返るとマイルスがいた。
その顔はどこか誇らしげだった。
「あの、狼の魔物、討伐出来ました!」
「本当か!随分と手際がいいじゃないか」
「ええ、おかげさまで。それで例の、食事の件ですが明日の夜はどうでしょうか」
「いいよ。楽しみにしている」
「はい、お願いします!」
マイルスが嬉しそうに答えた。
よほど魔物を討伐出来たことが嬉しかったのだろう。
サーシャもそれを感じ取ったのかマイルスを見て笑っていた。
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