第8話


夕方、日が落ちかけた頃、シルヴィは魔物退治を終え、帰ってきた。

頼まれた魔物は聞いていた通り大した強さではなく探す方が手間取った程だ。

町に戻って宿へ向かっている途中、マイルスが駆け寄ってきた。


「シルヴィさん!お帰りなさい。どうでしたか?」


お帰りなさい、と言われて少しむず痒くなる。


「見ての通りだ」


そう言ってシルヴィは担いでいるウサギの魔物をマイルスに渡す。

マイルスはうお、と言う声を漏らす。


「しかし大きかった。こいつを退治してほしいと聞いた時は騒ぐほどかと思ったが、この大きさなら危険だ」


マイルスが魔物を肩に担ぐ。


「本当に大物ですね。こんなに重いのは初めてかもしれません」


だろう?とシルヴィは少しだけ自慢げに言う。


「それで?そっちはどうだったんだ?狼だろう、そっちの方が危険な相手だろう」


マイルスは視線を落として、首を振る。


「空振りでした。見つけることすら出来ませんでした」


「それは残念だったな」


「ええ、罠は仕掛けておきましたがおそらく駄目でしょう。以前一匹捕まえることができましたがそれ以来警戒されてしまって全く駄目なんです」


「む、それは厄介な」


「ええ、本当に賢い魔物です。しばらく手こずりそうです」


手を貸そうか、と言いかけてやめる。

ここで自分が出しゃばるのはどうかと思ったからだ。


「まあ、頑張ってくれ、報酬の件はそいつを退治した時の祝勝会にしよう」


「それは…一層頑張らないといけませんね」


マイルスは意気込む。


「種類がわかっているなら生態を調べてみたらどうだ?なにか役に立つかもしれない」


それを聞いたマイルスは目を丸くして驚いた。

そんなに驚くことか?と思う程だった。


「ハンターの方はそういうことも調べるのですか?」


それを聞いたシルヴィは笑い出しそうになった。

いつかの自分を思い出したからだ。


「当然だろう。武力や経験も大事だが同じくらい知識も大事だ。知っていれば防げるもの、知っていれば倒せる相手、それを知らなかったと言って許されるか?ハンターなら仕事が失敗するだけで済むかも知れない、でも騎士のような誰かを守る立場ならなおさらだ」


マイルスは真剣な表情で聞いている。

固唾を飲むように聞いていた。


「そう言われて私は納得したよ」


シルヴィは戯けて見せた。

それに反応しながらもマイルスの表情は曇っていた。

気に触ることでも言ってしまったかと次の言葉を探そうとしているとマイルスが口を開いた。


「おっしゃる通りです。自分の視野の狭さが恥ずかしい限りです」


「素直に受け入れるのだな。私は身に染みるまで随分かかったぞ」


すると今度は照れながら言う。


「実は、騎士になりたいと目標にしているのです。ですからその通りだと納得してしまって」


それを聞いて以前、騎士に憧れていると話していた事を思い出した。


「騎士か、いい目標だ。応援するよ」


マイルスはまた嬉しそうにした。


「ありがとうございます。そう言って貰えると嬉しいです。早速帰って色々調べてみようと思います」


「ああ、あまり無理しないように」


はい、と言って去ろうとしたマイルスが思い出した、といった仕草で振り返る。

あとでウサギの肉を分けて持ってくると言われたので宿に渡してくれと言った。

しばらくしてから自警団の一人がウサギ肉を持って来た。

その肉で作られたミートパイは柄にもなく特別な美味しさを感じた。

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