第7話
相変わらずシルヴィは宿屋の手伝いをしていた。
サーシャがいい回ったせいで定着しつつある妖精の祝福は4日目ともなれば見に来るひとはまばらになっていた。
それでもシルヴィは毎日通い続けていた。
毎日欠かさず来ているのはシルヴィと皮職人のロブくらいだ。
ロブは背の低い、古枝のように細い腕の老職人だ。
常に酒を持ち歩き、気だるそうにしている。
自分はロクでもない人間だと言う。
話を聞いているとわかった。
きっと自分に失望して、何かに後悔しているんだろう。
それに共感してしまった。
あと数日、崖の月が見られる日が終われば帰らなければならない。
そう思えば思うほどこのまま帰りたくないという気持ちが強くなる。
しかし、そうは言ってられない。
全てを投げ出して来たのだ。
(すぐに帰って、謝って、それから…)
考えるだけで嫌になる。
一体何を言われるのだろうか。
心配したと言われて歓迎されるのも想像できる。
激昂し、怒鳴られるのも想像できる。
ため息が出そうになるのを押し殺し、代わりに冷たい空気を肺一杯吸い込む。
そもそも謝って許してもらえるのだろうか。
もしも、自分が残っていて誰かが突然いなくなったら許せるだろうか。
自分なら怒り、何かに当たり散らしているだろう。
それよりももし…
(見放されていたらどうしようか)
その時はまたどこかに行こう。
きっともっと別の人生があるはずだ。
今のままで過ごさなければならない決まりはない。
自由に、気ままに生きればいい。
そう、自由に…。
はあ、とため息を吐いてしまった。
私はどうしたいのだろうか、そんな事を考え始めたころどこかから名前を呼ばれた。
「マイルスか。また鍛練か?」
「いえ、今日は頼みがありまして…」
マイルスがバツが悪そうに言う。
「私に出来ることなら手伝おう」
「その、シルヴィさんのハンターとしてのお力をお借りしたいのです」
「構わないが厄介ごとか?」
「いえ、自警団が手一杯になってしまいまして。シルヴィさんにお願いしたいのは簡単な魔物退治です」
シルヴィは少しだけ考える。
「わかった。何を退治すればいい?」
「はい!あ、その前に報酬ですが…」
「いいよ。気にしなくて、私はこの町を気に入っているんだ」
シルヴィがマイルスを遮って言った。
「そう言うわけにはいきません!」
マイルスが強く言った。
「そうか、なら…一杯奢ってくれないか?」
「そ、それは喜んで!ですがそれだけでは…」
シルヴィはマイルスの胸を軽く叩く。
「楽しみにしている。準備をしてすぐに退治に向かうよ。問題ないか?」
「は、はい。もちろん!」
シルヴィは何故か緊張しているマイルスにふふふ、と笑いかける。
「なら詳細を教えてくれ」
すると今度は何故かマイルスは恥ずかしそうにした。
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