第一話『初仕事は幽霊退治』その5
ガシャン、という骨の音。
動く
骨の隙間から、黒い
そんな奴、
「っていうか、
「間違いないでしょうね」
「誰だよ、その可能性はないって言った奴!?」
「それはアンタ――」
「全く酷い奴だ。これはきっと敵の罠だな、間違いない」
「あ・・・・・・うん、そういう事にしておこう」
イーディスは力なく応える。
心なしか、疲れているように見える。きっとこの探索で疲労が溜まっているのだろう。
「
此所は恐らく、屋敷の回廊だろう。
しかし
オマケに四方を囲まれている為に動きにくく、近距離からの火球や礫を避ける余裕はない。
「でもわたし、
「僕も持っていない」
アレ、高いし。
使い捨てのくせに、銀貨一枚もする。
「じゃあ、どうする?」
「決まっているだろう」
剣を構えた亡者を見据え、僕は斧を振り上げる。
「魔法を使われる前に、ぶっ倒す」
「同感ッ!」
床を蹴り、イーディスはナイフを放つ。
けれども亡者から吹き出る瘴気によって距離感が掴めず、空を切ったナイフは闇の中へ消えていった。
「拙い、魔法が飛んでくる!」
「召喚魔法!? なんかヤバいのが出てくるぞ!」
しかし、僕らに魔法を止める術はない。
完成された魔法円は光を帯び、中から
それらは直ぐに僕らを敵と見定め、錆びだらけ切っ先を僕らへ突き付けた。
「火球よりはマシだけど・・・・・・脅威なのは変わらないな」
狭い空間で
単純二倍差の戦力である。
特に
「先に倒すのは、やはり
「倒せるものならね!」
現状、かなり難しい。
「まあ、でも――」
やるしか、ない。
僕はイーディスの前に出た。
攻撃力は彼女が上だが、防御力は僕の方がある。
「僕を使え!」
「最初からそのつもり!」
ひでぇ奴だ。
腕に
「ああ、クソ・・・・・・!」
それにしても、瘴気が濃い。
視界が確保出来ない。
「ゴブリンの時みたいに、急に耳が良くなれば・・・・・・」
そういえば、アレ何だったんだろう。
刹那。
ガツン、という衝撃。また僕のヘルムがぶっ飛んだ。
普通頭は急所だから狙われるのは当然だが、それにしても一日に二回も吹っ飛ばされるのは気分が悪い。
「気を抜くな! こっちは一体倒した!!」
「ああ・・・・・・そうだ、あの時もそうだった」
僕はイーディスの声を背中に、記憶を手繰る。
床には頭が二つ。
一つはヘルム。
もう一つは
「・・・・・・つまり、こういう事か」
僕は徐に、
「遊ぶな、この状況で!」
「大真面目だ、この僕は!!」
虚幻の頭に、
点と線が繋がる感覚。
あの時は突然でよく分からなかったが、今なら漠然と仕組みが理解出来る。
「イーディス、君の位置から右二ヤード先に
「え、何急に!? ちょっと待って、今換算――」
口では混乱しているが、身体は冷静だった。
僕が指示したポイントにナイフを打ち込む。
正確無比。
奇襲を狙って油断していた
「何コレ、どういう事? というか顔ドクロ怖ッ!?」
「
「もしかしてゴブリンの時も?」
「多分そう」
恐らくこれが、
地味だ。地味過ぎる。
「僕はこの瘴気で視界を奪われる事はない。僕は変わらず盾に徹するから、僕の声を頼りに
「偉そうに命令するな」
けど、とイーディスはナイフを二本、両手で構える。
「アンタの眼、遣ってあげる」
右は順手。
左は逆手。
二本のナイフが、彼女を中心として風車のように回転を始めた。
同時。
魔法円が宙空に浮かび上がり、門を形作り火球が放たれる。
それは瘴気を照らし回廊を焦がして、敵である僕らへ向けて顎を広げた。
だがしかし。
「視えている」
全部。
魔法が放たれる瞬間から、着弾する位置まで全て。
風車が斬り裂いたのは、
術者の魔力供給が途絶え、着弾する予定だった火球は僕の手前で鎮火した。
「・・・・・・まさか
「正直、ギリギリだった」
血糊の代わりに付いた瘴気を払い、イーディスはナイフを仕舞う。
「ねぇ、何で
「さてね。ただまあ、この
薄らと瘴気が
「あ、また
「本当だ。どうやら一定時間が経つと能力と、一緒に消えてしまうらしい」
「え、使い捨ての能力なの? ショボっ」
「ほっとけ」
僕はヘルムを拾い上げ、被り直しながら奥を見つめる。
回廊がゆっくりと形を成し、その最深にある扉が僕らを誘うように姿を現した。
「どうする? いっそ、この
「冗談でしょ。此所まで来て、途中で帰れる訳ないでしょう。それに帰るにしても、この
「それもそうか」
「待ちなさい」
扉へ向けて歩き出した僕をイーディスが呼び止める。
彼女の手には、
「必要でしょ、
「・・・・・・そういや北の蛮族は、倒した奴の頭を鎧に刺して飾り立てるんだったか」
自嘲気味に嗤い、僕は
これでは、どちらが悪者だか分からない。
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