第2話 腹から腸が落ちる

 レイは屈強な男達に連れられて街の外れにある建物への招待された。そこではやはり屈強な男達が煙草を吸っていた。煙草を吸う男達はレイを興味深そうに見ていた。


「こいつが白銀の幼女レイか。芯人なんだってあんた? 体、頑丈なんだろ?」


 するとレイは落ち着いた様子で話した。


「そうですね。首から下を切り落とされようが一晩で元通りになります。体の傷はよくわからないけど治らなくなって残ったものですが……」

「ふーん。治らなくなった、ね」


 男達は煙草をプカプカとふかしていた。やがて周りに何やら指示を出す。するとレイの周りにいた男達がレイの体を担いでとある部屋に放り投げてしまった。乱暴に投げられて痛がるレイ。部屋はガラス張りで音が聞こえるように小さな穴がぽつらぽつらと密集して空いていた。部屋の中央には柱が立っていた。煙草をふかしていた男が立ち上がり、ガラスの近くに来てレイに話しかける。


「お前の再生能力を見るついでに鑑賞させてもらうよ。抵抗はするなよ。報酬は払うから」

「……わかりました」


 レイはパンをくれるからと男達に言われ、言われるがままについてきたのだった。どんな事をされようが覚悟は出来ていた。

 すると部屋の中に二人の男達が入ってきた。男達はそれぞれ両手に注射器、電動ドリルを持っていた。まずは電動ドリルを持った男が前に出て電動ドリルの電源を入れる。ギュイーンとドリルが回転を始める。ドリルの音が部屋中に響きわたった。レイは恐怖を感じていた。意識しなければ体が震え出しそうになる。背中は汗でびっしょりと濡れていた。


「行くよレイちゃん。叫ぶなよ」

「……はい」

 

 レイは柱に固定されてしまった。そんなレイに向かって男はドリルを向けて突っ込んでいく。高速回転するドリルがレイの胸を抉った。肉と血が辺りに飛び散り、鈍い音が響く。レイは声が出るのを必死に耐えた。レイの胸には大きな穴が空いてしまった。男は更にレイの全身にドリルを突き刺していく。レイの口から血が溢れ出る。凄まじい激痛に頭が破裂しそうだった。涙が流れる。それでもレイは耐えていた。注文に従い、叫ばないように。

 

「……っ! ……っっ!! っく!!」


 ドギューンドギューン! 電動ドリルはレイの体に穴をいくつも空けていく。床は血で染まってしまった。レイは大きく息を乱す。涙を流しながらフーフー、と肩で息をする。肉片が辺りに飛び散り、部屋中が真っ赤に染まる。男達は返り血を浴びながら眉一つ動かさなかった。

 その後も男はレイの体に穴を開けていった。レイは激しい痛みと恐怖で体がガクガクと震えていた。それでも声は上げないように抑えていた。痛みのあまり気が狂いそうになる。それでもパンのために耐えた。殴られるよりもずっと激しい痛み。楽になりたいと思えるような絶対的な鋭い痛み。レイは涙を流した。

 次に腹に穴を開け始めた。内臓が損傷し腸が腹から零れ落ちていく。気持ち悪くなるような痛みにレイは必死に声が出るのを耐えていた。


「ふぅぅうう!! ふぅうう!!!」


 更に腹を何度もドリルで突き入れる。鋭い痛みに気絶してしまいそうだった。レイは歯を食いしばり、耐える。目から涙をポロポロと流しながら。男達は無表情。部屋の外で様子を眺めていた男達も煙草をふかしながら見守っていた。男の一人、リーダー格の男は椅子に座り、足を組んでコーヒーを嗜む。コーヒーを飲みながら笑顔でレイの様子を眺めていた。


「中々頑丈だな。人間ならとっくに死んでる。流石芯人と言うべきか」


 するととなりに座っていた男が口を開く。


「まことに。レイは幼子のような見た目をしていてもれっきとした芯人です」


 リーダー格の男は大声を上げて、レイを拷問する男達に指示を出した。


「お前達、遠慮はいらん。ガキを殺すつもりでやれ」

「はっ!」


 部屋の男達は頭を下げる。するとドリルの手が止んだ。レイが涙を流しながら俯いていた。やっと終わったのかと希望を持ち始める。しかし別の男が注射器を手にレイに近付いてきたので、すぐに絶望に染まった。男はレイの腕に注射針を刺した。そして血管から薬を入れた。それは猛毒であった。硫酸のように肉を溶かす薬であった。更に気絶するような激痛を与えて体内を焼く猛毒であった。そして全身が神経剥き出しになるような敏感な体になるという恐ろしい毒だった。


「ああ! っ……うああ!!」


 レイは痛みのあまり声を漏らす。血管を伝って異物が全身に行き渡る。まるで血管の内側から全身に針で神経を刺したような痛みが体全体に駆け巡る。毛細血管まで行き渡り、体の隅々、脳に至るまで激痛が襲う。そして血管が内側から焼きただれて損傷し、体内出血が所々で起きていく。やがて脳内で出血が起きたのか体が麻痺し始めて痙攣が起こる。目の前が真っ赤に染まり頭痛と目眩と吐き気に襲われる。レイは唸り始めた。口から唾液が零れ落ちる。

 レイが苦しみもがく姿を男達は黙って見ていた。するとドリルを持った男が再度電源を入れてドリルを回す。そしてレイの体に穴を空け始めた。剥き出しの神経になった体にドリルの刃が穴を空ける。レイは遂に耐えきれず叫び声を上げた。


「あああああ!!!!!」


 しかし一度きりでその後は再度我慢する。歯を食いしばり耐えていた。神経が焼き切れそうな程の苦痛。それを耐えている自分を褒めてやりたいくらいである。男達も心の中であっぱれと称賛していたのだった。

 そしてそんな拷問が半日かけて行われた。レイの体は穴だらけになり、内臓は外に零れ落ちて、腹は空っぽになっていた。レイの足元には肉片と腸と真っ赤な血が溢れていた。返り血を浴びて赤く染まった男達は部屋の外へと出ていった。リーダー格の男が口を開く。


「レイ。次はお前の再生能力をテストする。その酷く損傷した体が何時間で元通りになるのかのテストだ。毒も入れられたので治りは遅いだろうがね」


 そして男達は部屋を出た。ガラス張りの部屋にレイ一人が残された。レイは猛毒の痛みもあり、全身が酷く苦痛に苛まれていた。体という巨大な神経、それに鋭い針を千本、隙間無く刺されて更に抉られているような、そんな激痛。レイは痛みのあまり泣き出しそうだったが、鋼の意思で耐えていた。神経がはち切れそうだったが耐えていた。

 男達がいなくなった後で、レイは恐怖に震えていた。彼らが一体何者なのか、そんな事はどうでも良い。パンを貰えるならありがたく頂く。そのための代償なら潔く支払う。レイは覚悟を決めていた。今更どんな酷い目に会おうと泣き言を言うつもりは無い。それでも、決心していても今回の拷問は酷かった。泣き叫びたいくらいに悪辣だった。逃げ出したいくらいに辛い拷問であった。こんな事をしなくてはパンは貰えないのかと。殴られるのを慣れているレイでさえ痛みのあまり本気で泣き出す程。体に穴を空けられ、腸は零れ落ちる。絶対的な痛み。それはとてつもない苦痛。

 レイはふと自分の腹部に目をやった。腸が落ちて血だらけで穴だらけ。腸が無いせいで腹はぺたんこになっていた。胸も手足も穴だらけの血だらけだった。レイの全身は血で真っ赤に染まり、肉片が飛び散っていた。 

 

「痛い……痛い……」


 レイは泣き面で弱々しく呟いた。




 男達はとある部屋で集まり、コーヒーを嗜んでいた。煙草を吸い、時間を潰していた。リーダー格の男は椅子に座り、煙草をふかす。灰皿に灰を落とし、自らは菓子を頬張る。男達は芯人の耐久力を調査する団体であった。それを軍に報告する義務があるのだ。レイを痛めつけるのも芯人の耐久力をテストするためであった。今、グール帝国では強い兵士を欲しているのだ。グール帝国は敵が多い。異民族、魔族、魔物……。近頃は三人の魔王が出現し、魔族を束ねているとか。これに対抗するために強い兵士が必要なのである。最近力を入れているのが、芯人を兵士とする事。非常に長命で体も頑丈。気の鍛錬をすれば絶大な戦力になると見込んでの事だ。そんな芯人の耐久力を調査するためにレイは選ばれた。幼子のような芯人だからこそ、芯人の下限の耐久力をテスト出来ると踏んだのである。しかし、それでレイを選んだのは偶然である。ある依頼筋からスラム街に体を売る芯人がいるので調査して欲しいと言われたのだ。今日はそのためにレイに会いに来た。結果は中々上等。腸が零れ落ちても死なず、いくら体に穴を開けても気絶もしない。その耐久力は目を見張る物がある。おおいに傷つけたので今度は回復力をテストするのである。

 更に半日が過ぎた。男達はレイの部屋に入ってきた。レイの体を確認する。レイの体は回復していた。体中に空いていた穴は塞がり、腹の穴も塞がって膨らんでいる。触ってみると腸が中で再生されていた。元通りになっていたのだ。男達は流石に回復力だと称賛した。

 ガラス越しにリーダー格の男が声を出す。


「レイよ、中々の回復力だな。大したものだ。後は報酬分、たっぷりと痛め付けてやろう」


 そして男達は再度レイを痛め付けた。また電動ドリルと猛毒がレイを襲う。レイは激しい痛みに襲われながらも、叫ばないようにじっと耐えた。それは夜中になってもまだ続いた。

 やがてレイを十分に痛め付け満足したのが、男達はレイを解放した。報酬はパン二個だった。しかしそれは都市でしか手に入らない高級な、とても美味しいパンだった。レイはそれを受け取るとその場で食した。それはとても美味かった。腐ったパンとは大違いだった。痛め付けられたかいがあったとレイは思った。男達はレイに礼を言って何処かへと行ってしまった。過ぎればあっという間な出来事であった。レイは己の寝床へと帰っていった。

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