第48話 狼使いの荒いエルフ


「あの女には何か策があるみたいよ……私はここを何とかする」

『ったく、狼使いの荒い森人エルフさんだこと』


 マオは狼の姿に一瞬で戻り、何体か半魚人サハギンを食い殺すとそのまま目の前に居た人間族ヒューマンも噛み、要望通りエレナの前に躍り出た。

 エレナは再度襲ってきた変異を一体切り裂いた所で頭につけていた銀のサークレットを外し、マオの首にかけた。


「ルウにこれを渡せ。セラフクライムを完成させるのは、今しかない」

『……こんなのでどうにかなるのか?』


 マオはサークレットを首にぶら下げたままエレナに疑問を返した。これが最良でかつ最高の策と考えているエレナの唇には笑みが浮かんでいた。


「このサークレットには私の魔力が込められている。今、ルウを守っているのは本物のイリアだ。さあ行け!」

『っったく、本当に狼使いが荒い森人エルフめ』

「ふっ……お前の足を信用しているんだよ。頼む」


 あまり他者を信用しないエレナが零したその言葉にマオは一気に気合いを入れ直した。かつてアルカディアを救った英雄に信用された事は名誉でしかない。


『ギギ──あのウェアウルフ……コロス』

「させるか……!」


 エレナから受けとったサークレットが彼女と同じ魔力を放っているのだろう。

 黒い人間族ヒューマン達はターゲットを分散され統率を乱し始めた。勿論、動きの定まらない変異などエレナの敵にはならない。

 マオもただ走るだけではなく、向かい来る変異人間族ヒューマン達を躱しては蹴り、最後は高くジャンプし先にメルルの下まで戻った。



「あぁんもう最悪っ! ほんっと、鬱陶しいったらないわ」

「おーおー、何とか頑張ってんな」


 元の狼人族ウェアウルフに戻ったマオは再び剣を抜くとメルルに襲いかかる黒い半魚人サハギンに斬りかかった。


「それでダーリン、首尾は?」

「なんかよく分かんねぇけど、コレをルウに渡せって」


 マオは犬じゃねぇんだよと言いつつ、自分の首にかけられた銀のサークレットを指で示した。


「銀のサークレット……それはエレナが【有り余る魔力】を封印していると言われてるアレかしら……?」

「ほー、やっぱりあの英雄はすげーんだな。さて問題はこっからどうやってルウの所まで行くかなんだよ……」


 ガードを抱いたまま光に包まれているルウの周辺には黒い半魚人サハギン狼人族ウェアウルフの変異がまだ大量に湧いていた。しかもマオが移動している間にまた数が増えたように見える。


「……あのレンって奴は魔力が無限なのか? 倒しても倒してもこの黒いやつが復活してきやがる」

「いいえ、無限の魔力なんて絶対にありえないわ。多分この黒い空間が力を与えているんでしょうね。後は強行突破で小人族ドワーフの所まで行くしかないわ……!」

「だよな。道作れるか? メルル」


 マオは軽くストレッチをすると最後に突っ込んできた半魚人サハギンを斬り捨てた。

 メルルはマオに頼りにされた事が嬉しいようで、いつも以上に張り切って魔力を貯めている。再び〈水龍〉を出せる程に。


「一気に纏めて祓ってあげるわ……ダーリン、直線上にしか道は出来ないから、タイミングは任せたわよ」

「了解、頼んだぜ」


 マオは再び速く走る為に狼の姿へと戻した。何度も変身するのはかなり体力を使ってしまうが長時間狼のままで居られない為仕方が無い。

 メルルの魔力を感知したルウ側に固まっていた半魚人サハギンの一部がくるりとこちらを向いた。


『魔力の増幅確認──ターゲット2、シフトチェンジ。レベル8へ移行、目標捕捉……』

「ウフフ、こんな所で雑魚に負ける訳にはいかないの。行くわよ──〈水龍〉!」


 メルルの両手から強力な魔力と共に細長い水の龍が召喚される。それは次々と向かってくる半魚人サハギンを呑み込んでいった。

 数多の黒い変異を呑み込み、直線上に出来た道をマオが走る。

 まだ何体か半魚人サハギンの成れの果てが残されていたが、飛びかかってくるそれらを一切無視してとにかく光を目指した。


『ルウ……!』


 聞き覚えのある声にルウは一瞬だけビクリと身体を強ばらせたが、マオの姿を捉え、漸く胸を撫で下ろした。


「マ、マオ……! 良かったぁ、どうしたらいいんだろうコレ……周りにサハギンがいっぱい飛んできては消えて、飛んできては消えてで怖いよ……」


 無意識にセラフクライムに願った事で中にいるイリアがルウの周辺だけ完全防壁を貼ってくれているらしい。

 が、解除の方法までエレナに聞く時間も無かったのでマオにもこれをどうしたら良いのか分からない。


『とりあえず、お前にこれをってあいつから預かってきた』


 マオは再び狼人族ウェアウルフの姿に戻ると首輪になっていたサークレットを外した。


『膨大な魔力感知──防衛システム起動、8、7、6──』

「うるせえよ!」


 機械のようにカウントダウンを始めた半魚人サハギンを斬り、まだ飛んでくる追っ手がない事を確認した所でマオはサークレットを持ったままルウが匿われている光の壁に手を当てた。


「いってぇ!」


 それは何者をも弾くのか、光の壁は無慈悲にマオの手を焼いた。

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