第45話 創世神の現界


「機械兵器の癖によく動く……」

『ターゲット変更・エレナ。レベル3へシフトチェンジ……』

「レベル3か……何処まで上がるのか楽しみだ、な……!」


 エレナはくるくると回転しながら機械兵器を左右に切り刻んだ。エレナの〈召剣〉は見た目小さいものの切れ味は抜群。

 彼女の魔力を糧として威力を増すので、森人エルフの彼女には最高に相性の良い武器だ。


『エネルギーチャージ完了、発動──』

「遅い!」


 先程グランに放った強大なエネルギーを瞬時に口へ溜め込んでいたが、それよりも早くエレナは動き、機械兵器の口の部分を粉々に打ち砕いた。


『損傷拡大、損傷拡大──自己修復モードオン……レベル4、5、6……』

「カウントなどさせるものか」


 再びジャックザリッパーを構え直し、エレナは機械のコア部分に魔力を放ち本体の中から爆発させた。

 それでも機械兵器は痛覚を持たないのでボロボロになっても尚ガクガク動いている。


『セイレイ、石破壊──』

「あぁ、まだ壊れるな。お前には聞きたい事がある。何故機械が喋れる? お前の脳はレンの差し金か?」


 グランが最も危惧していた機械兵器。これを軽々と従えて扱える種族はアルカディアには居ないはずだ。

 二足歩行でも四足歩行でも、機械であればグランら小人族ドワーフの手によって十分組み立て可能なレベルだが、先程のように自身で判断し成長する〈知性〉を持ち、さらに自分を更に強くすべく変異したグランを飲み込んだ……。

 これを誰かが操っているのか、最初からインプットされているのか確認する必要がある。


『精霊石、破壊する──全てはイリア様の為に』

「……どういう事だ、何故イリアが精霊石を破壊する?」


 そもそもルウに精霊石を集めてこいと言ったのはイリアのはず。エレナの中で別の疑問が沸いた。


「まさか、あいつは──」


 エレナが再度機械に問いかけようとした瞬間、壊れかけていた回路がバチバチと電気を放出し、爆音と共に木っ端微塵に吹き飛んだ。


 常に防護壁を周囲に張っているエレナは服に飛んできた機械の残骸を片手で払い落とし、肝心な事を聞き出せなかった機械の破片を忌々しいと睨みつけた。

 くるりと後ろを振り返ると死人のように顔色を無くしているルウと、その横で心配そうに佇むマオとメルル。


「ルウ……」

「アタシ、全然役に立たなくてごめんなさい。──もう……大丈夫だよ!」


 取り繕ったルウの笑顔はかなり引きつっていた。──無理もない。目の前で父親が機械兵器に飲み込まれたのだ。

 しかも機械兵器がバラバラになった事で呑み込まれた遺体の回収も出来ず、満足な会話もままならないままの別れ。


「無理はするな。役に立つとか立たないじゃない。自分の信念を曲げなければいい」

「エレナ、サマ……」


 他者に介入しないエレナだが、無意識のうちにルウを抱きしめていた。


「あの……! セラフクライムは……?」


 エレナに抱きしめられて一瞬我を忘れかけていたルウだが、すぐさまガードの事を思い出し、今まで入れなかった鍛冶場へと急ぎ足を進めた。

 先程まで同胞達とここで鍛治をしていた痕跡がある。そしてグランが己の命を賭けて残したガードはひっそりと台座の上に置かれていた。


「いつもここに来るとオヤジに怒られて、テメェが来るには早いってんだって……結局、何も教えてくれなかったじゃないか」

「──グランはお前の未来を守りたかったのだろう」


 エレナは台座にあるガードを手に取るとその出来を確認すべく左右に振った。


「型は問題ないな……後はルウ」

「は、はい!?」


 突然名前を呼ばれてルウは変な声で返事をしてしまった。てっきりマオ以外は自分の名前など覚えてくれていないと思っていたのだ。


「グランの槌と、残りの精霊石を台座に置きなさい」

「は、はい」


 言われる通りにルウはグランの使っていたボロボロの槌を台座に置いた。そして火の精霊石、水の精霊石も。

 その次にエレナが胸元から風の精霊石を取り出し、同じ台座へと置いた。4つの石が共鳴してキラキラと光り始めた。


「私がこれに魔力を送るから、お前がイリアをここに呼べ」

「アタシが……イリアサマを!?」


〈創世神〉と呼ばれる神がそう簡単に現界するのだろうか。ルウにはエレナの言うことが理解出来なかった。


「最初からお前にしか無理なのだ。そもそも、イリアが居なければセラフクライムは完成しない」

「よく……分からないです」

「セラフクライムは神の剣。これを打つにも振るうにも神の許可が必要。グランはかつてこの【調整】を行ったが、それもイリアに頼まれての事」

「つ、つまり……オヤジってもの凄いの?」

「ああ。グランが居なければリーシュは異形いぎょうを封印する事は出来なかっただろう」


 英雄の本にグランの希望で彼の活躍は殆ど書かれて居なかった。しかしセラフクライムの【調整】となればよく考えてみるとかなりの大仕事だ。

 改めてエレナにグランの凄さを言われ、ルウは自分の功績のように嬉しくなった。


「さて──あまり世界に残された時間も無いからな。始めるぞ、イリアを呼ぶんだ」


 エレナは瞳を閉じると森人エルフの言葉で詠唱を始めた。4つの精霊石が共鳴してさらに光り輝く。


「イリア様……どうか、どうか──セラフクライムを甦らせる力をお貸しください──!」

「は〜い」


 ルウもエレナの魔力と共にガードに向けて祈りを捧げると、4つの精霊石の間から見覚えのある少女が出現した。

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