第6章 甦れ、セラフクライム
第44話 グラン
「くそっ……《グラビティウォール》」
機械の口から強烈なビーム砲が放たれる。そのエネルギーが何なのかルウには分からなかったが、その激しい熱量に吹き飛ばされそうになった。
「ぐ、ぐぐ……お、オヤジっ……!」
「グラン……! あの体では持たない……《ウインドブロウ》!」
遅れてやってきたエレナはグランの障壁の横から機械に向けて風の弾丸を連続で放った。
それはビーム砲を打ち消す力は無いものの、グランへの攻撃対象を変える事に成功したようだ。
機械本体にも何発か直撃したようで、ビーム砲を放ったそれは電池切れのように突然動きを止めた。
「オヤジ! 大丈夫!? なに、何なの今のは……!」
「おう、バカ娘……やっと、帰ってきやがったか……」
グランは完全に左腕を失っており、腕から血がダラダラと滴り落ちていた。嫌な予感と同族の血の匂いは彼のものだったのだ。
しかし──最愛の父の身体はここを出る前と何かが違う。ふと視線を動かしたルウはグランの左腕の先でバチバチと電気のような何かが動いているのを見つけた。
「オヤジ……その腕……?」
「……」
「どうして何も教えてくれないの、ねぇ。オヤジの腕はどうして鉄になってるの?!」
「……エレナ、居るんだろソコに。後の事は頼むや」
グランは自分の身体を揺するルウを引き剥がすと、既に〈召剣〉しているエレナに覚悟を決めた様子で頭を下げ膝をついた。
「──土の精霊石は、俺の槌の中だ」
「……分かった」
「ま、待って、待って!」
エレナとグランの間でしか分からない会話が繰り広げられている。ルウは嫌な予感を感じ、エレナに必死でしがみついた。
「ねぇ、オヤジは大丈夫なんだよね!? 何で、オヤジが……
「グラン、どうする……?」
流石にここまでルウに接近されては〈召剣〉を振るう事は出来ない。エレナの出した選択にグランは動く右手で自分の頭を殴りつけ、最後の気力で声を振り絞った。
「ちっ……バカ娘、気付けや! 俺ぁもうテメェのオヤジじゃねェんだ!」
「ど、どういう……」
「グランはここを守る為に命を賭けた。既に心臓まで機械兵器に侵食されている。」
「そ、それって……」
機械兵器というものが何か分からないルウはエレナとグランを交互に見つめた。
しかし彼には理性を保つ時間も残されていないようで、失った左手部分から真っ白な
『ガッ──アアッ……エレナ、俺を早く、殺せ……!』
「……最低の仕事依頼だな」
エレナは瞳の色を無に変え、ジャックザリッパーをグランへと何度も振り下ろした。
「う、ああああああっ……オヤジ、オヤジを……やめて……ねえやめて、やめて……もう、やめてよお……」
目の前でまだ意識のあるグランが切り刻まれる姿にルウは発狂していた。耐えられない光景に何度も地面に嘔吐し、それでも気力で目の前を見るとまだエレナが剣を収めていない。
変異したモノをそのままには出来ない。例えそれが何よりも大切な肉親であったとしても。
何も出来ないルウは血が出るほど唇を噛み締め、自分の手を何度も握り締める。
一思いに、というのがエレナの優しさだったのかも知れない。一度もグランの悲痛な声は無かった。
「くそ──、アレもまた動くか」
エレナは変異したグランから離れ、少し距離を取った。すると先程まで動きを止めていた機械が高速で突進し、大きな口を開いた。
「お前達可能な限り離れろ、またアレが来るぞ……!」
エレナは再びビーム砲が放たれるかと危惧していたが、機械はそのまま転がっているグランを丸呑みした。
機械に知性があるのか。変異したモノを取り込む事で己の力を成長させる。エレナは機械の想定外の行動に目を泳がせた。
「まさか……こんなものが。話が違うぞイリア……!」
『目標、変更──エレナ』
機械はくるりと首を回転させると目の部分から色々な映像を出し、エレナの写真らしきものでストップした。
すぐさまエレナは戦力外の3人から距離を取り、四足歩行をする機械の塊へと飛んだ。見えない速度で再びジャックザリッパーを振るっている。
「一体何が起きていやがるんだ……おい、ルウ、大丈夫か……?」
「オヤジが……」
ルウの瞳には何も映って居なかった。目を閉じても開けても父の遺した血の匂いと死神と呼ばれたエレナの短剣の音だけが過ぎる。
「しっかりしろ、お前しか〈創世神〉を呼べないんだぞ……!」
「オヤジが……オヤジが……」
「──」
黙っていたメルルがルウの頬を思い切り叩いた。それでも反応が無い様子に再度反対側からも頬を叩く。
「お、おい……」
「マオは黙って」
珍しくダーリンではなく名前で呼びマオを牽制した。
メルルとて、ただルウが気に入らなくて叩いている訳では無い。彼女に自分の使命を思い出させるしか無いのだ。
何度目か分からない往復ビンタの後でルウが漸く口を開いた。
「……痛いよ……メルル」
「痛いでしょう、それはあんたが生きている証よ。あんたのお父様は何の為に戦ったのか分かって?」
「……」
「まだ何も終わっていないのよ、シェルターの中にまだお仲間がいるでしょう? ここをどうにかしないと、あんた達の一族はみんな死んでしまうのよ?」
ルウはメルルに諭されて漸く思い出した。鍛冶場にたどり着くまでに幾つものシェルターが発動していた事。
このままあのよく分からない機械を放置していたら、こんな小さな穴倉は一瞬で崩壊するだろう。そうなったら仲良く全員生き埋めだ。
「ありがとう、メルル。マオ。」
「ふふっ。そうでなきゃ、私のライバルには到底なれなくてよ……!」
「そうだね、メルルみたいに綺麗にならなきゃ……後はエレナサマに加勢を──?」
ルウは再びエレナの方に視線を向けたが、そこは既に自分達が介入出来ないレベルの戦いへと発展していた。
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