第41話 禁呪2
『マオ──たすけ……て』
「……っち」
流石に幻覚だと理解しても親友の声と身体で話しかけられたら攻撃出来るわけが無い。マオは深く項垂れたままだらりと両手を下げた。
「マオ、しっかりして! あれは幻覚だよ、メルルも!」
ルウは穴倉生活だったので、幸いな事に仲間が|異形[いぎょう》によって殺されたことは無い。彼女だけが術にかかっていない事にエレナは驚いていた。
「──無駄だ。あの2人は完全に術にかかっている。我々の声も届いていない」
「そ、そんな……じゃあ2人はこのまま……?」
メルルは黒い杖の放った魂に取り込まれており、黒い瘴気にほぼ覆われていた。何度ルウがその瘴気を木槌で叩いても弾き返されてしまう。
マオもついにタオの幻覚に堕ちてしまい、メルル同様に黒い瘴気の中に包み込まれてしまっていた。
「そんな、ダメだよ……! みんなで一緒に、精霊石を持って、セラフクライムを……!」
「……」
無駄と分かっていても何度も何度も仲間を救おうと瘴気に挑むルウをエレナは黙って見つめていた。
(あいつは、本当にセラフクライムを甦らせるのか……? リーシュも居ないと言うのに。一体イリアの意図は)
「うわっ……!」
一際大きな衝撃にルウは転がった。それでもすぐさま起き上がり、何とかメルルを冥界に引き込もうとしている瘴気を叩く。
「メルル! そこには仲間なんて居ないんだ……! ミラルダサマはそんな所に居ない。帰ってきて!」
「うる、さい……」
「メルルー! 早く、こっちに!」
「ああ、うるさい
ルウの必死の呼びかけがほんの少しだけ瘴気にヒビを入れたらしい。そこから大声が聞こえたのか、僅か数秒でメルルは黒い魂の塊を振り払った。
「──悪いわね、私は貴方達のように冥界には行きたくないの。折角ミラルダ様に陸で生きられるように手足を貰ったんですもの。ダーリンと沢山世界を謳歌するのよ!」
完全に復活したメルルは両手で印を結び召喚魔法を詠唱し始めた。それに動揺したのは彼女の仲間を形取った黒い魂達だ。
『メル、ル』
『私達を、また見捨てるのか……?』
また、という言葉にメルルはふっと口元だけで笑った。
「見捨てる? いいえ違うわね、冥界でゴタゴタ迷子になった貴方達をしっかり祓ってあげるわ──〈水龍〉!」
両手から放たれた強力な魔力と共に細長い水の龍が召喚された。
『ひっ──』
黒い魂達は水龍の放った一撃により、一瞬でかき消された。しかし魔力消耗はかなりのもので、メルルはその場に崩れ落ち、そのまま意識を失っていた。
「メルルっ!」
「そっとしてやれ、魔力が空になっているのだ。これで迷えるヌヴェールの魂は救われたという事か……残るは──」
エレナは戦意喪失しているマオと、その周囲に纏わりつくタオの黒い魂に視線を向けた。
彼女はタオ一体なら消せると考えているようですぐさまジャックザリッパーを〈召剣〉していた。
「ま、待って、タオは……タオはマオにとって大切な仲間なんだよ……!」
「ならばお前にどうにか出来るのか? 先程みたいに障壁が複数であれば破れる可能性はあるが、一体であれば無理だぞ」
「そ、それでも……アタシに時間をください……!」
「──勝手にしろ。5分以内にどうしようも無ければ、お前諸共消すぞ」
エレナの瞳は本気だった。彼女は彼女なりにルウが本当に精霊石の担い手なのか確認しているのだ。
何度もメルルを救おうとしている様子をただ眺めていたのも試練なのかも知れない。
(ここで──タオを見殺しにしたら、きっとマオは一生後悔する。アタシはこれ以上誰かが死んだり悲しむのは嫌だ……!)
「マオ──! 目を覚まして……」
「俺は……タオを……」
「こんのおおおおおおっ……これでも、喰らえ!」
ルウが取り出したのはレノアから譲り受けた布袋。その中に入っているのは彼らの好物だ。
「ほ、ほしにく──!!」
ルウが障壁に向けてほしにくを放った瞬間、俯いていたマオに生気が宿った。子供のように瞳を輝かせ、
「ま、まさか……そんな原始的手段で……?」
エレナは驚きを隠せないまま顔を左右に振っていた。幻覚から解き放たれたマオにとって、黒い魂はただの黒い魂にしか見えない。
例えその状態でタオの声真似をしようとももはや同じ術は通じないのだ。
「おまへ(え)、ひょくも(よくも)タオの真似を……!」
「マオ、せ、せめて食べ終わってから……」
ほしにくをかじりながら黒い魂に剣を向けるマオ。ルウに諭されて一気に残りを食べ尽くし、体力を満たした所で瞬撃を放った。
勿論、マオの速さにたかが黒い魂が勝てる訳もなく砕け散る。
メルルとマオの活躍により全ての魂を消したと思いきや、今度は全員に見える
『エレナ、様……』
『あ、ああぁ……熱い、ここは、熱い……』
冥界に堕ちた同胞達は灼熱の大地に居ると言う。美しい顔は醜く溶け、必死にエレナの名を呼ぶ姿にルウは心を痛めた。
「やめろおおおっ……! なんで、こんな酷い……」
黒い杖からは次々と朽ち果てた
「唸れ、ジャックザリッパー」
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