第35話 精霊石の力
「わわっ、なんだアレ!? 」
『セイレイセキ、ヨコセ』
変異した
先程から白く覆われたこの息苦しい空間は彼が作ったものなのだろうか。ルウは1人にされた事と得体の知れない不安に顔を強ばらせた。それでも──。
「ヤダよ! イリアサマに頼まれたんだ。絶対オヤジの所に持っていくんだから」
『オマエ、ツカエナイ。シネ』
「ひええぇっ!」
ルウはただ逃げるのみだ。桁違いの魔力を放つ
幸いな事に敵は魔力を溜めたり、エネルギーを放つ時は時間がかかるようだった。攻撃も今のような直線であれば十分勝機はある。
「オマエは何者なんだよっ! マオとメルルを何処にやったんだ!」
『アイツラ、ツヨイ。オマエ、ヨワイ』
速度は早いが決して避けられないものではなかった。
「いたっ……!」
『バカメ、オマエヨワイ』
回避したはずだったが、
「早く帰らないと、オヤジが精霊石を待ってるんだからっ……!!」
『ナニ──』
ルウの願いが通じたのか、魔力を持たない彼女でも2つの精霊石が呼応した。火と水の精霊が一時的に現界する。
『まさかドワーフ如きにオレ様が呼ばれるなんてな。あの小せぇ石っコロに入れられて暴れ足りなかったんだよ!』
『ウフフ。わたくしの姿を見て生き延びた者はいませんわ。あのダークエルフには地獄の底まで後悔させてあげますわよ』
気合い十分に準備運動をする火の精霊と、妖艶な笑みを浮かべたまま対照的に物騒な言葉を放ち錫杖に魔力を溜める水の精霊。
どちらも本の中でしか見た事のない存在に、ルウはこのような状態でも瞳を輝かせていた。
「す、凄い……! ホンモノの精霊サマだ!」
精霊2体を目の当たりにしても変異は動じる様子もなく鼻で笑っていた。
『フン、コウツゴウ。オマエラ、ケス!』
精霊石は元々〈創世神〉の力を分散させたもので、精霊石の中にいる精霊を倒してしまえばただの石でしかない。
まだ何か秘策を持っているのか、
『それは時間がかかるって知ってんだよ!』
待ちきれない様子の火の精霊は先に炎を溜めたパンチを変異に繰り出した。しかしそれは黒い魔法障壁によって弾かれる。
砕けなかった事に疑問を抱いた火の精霊は距離を取り自分の両手を見つめた。
『ハン、何か分かんねぇけど、面白ぇ技使うじゃんか』
火の精霊の両手は黒く焦げていた。しかし精霊は痛覚も傷も出来無いので、一瞬でそれを再生させる。
『……全く。得も知れぬ相手に対して適当に行動するなんて』
『いいじゃねぇかよ、久しぶりなんだ暴れさせてくれや!』
『愚かな……イリア様に後でお叱りを受けても知らぬぞ』
水の精霊は一瞬だけ火の精霊を咎めたが、自分も久しぶりの現界で気分が高揚していたのか既に魔力を満たして戦闘態勢に入っていた。
蚊帳の外にいるルウはどうにかここから出てマオらと合流する案を模索したが、術を展開しているのがあの
「わわっ、ここに居るだけでも結構怖い!」
変異と火の精霊のぶつかり合う魔力残滓が火の粉となり落ちてくるので、ルウは避けるのが精一杯であった。
どこかに隠れた方が良さそうなのだが、結界のような空間にそのような場所は無い。
『レンサマ──! チカラヲ!!』
『またボス頼みかよっ……そういう雑魚は成長しねぇぞ』
『──! 狙いはあちらか』
水の精霊は魔力の防壁をルウに向けて瞬時に放った。それとほぼ同時にルウの目の前で巨大な爆発が発生する。
「うひゃああああっ!!」
突然発生した熱風は魔力防壁により守られたものの、衝撃に耐えられずルウは何度も地面を転がり土まみれになった所で止まった。
『おいテメェ! 無抵抗のドワーフを狙うなんて、随分お行儀が悪いんだなっ』
『クソ──コノチカラ、レンサマへ……!!』
火の精霊の放った強烈なパンチは変異を完全に焼き尽くした。断末魔の声もなく、変異は黙々とレンと呼ぶ者へ祈りを捧げている。
不気味な程のレンへの崇拝。彼は燃え尽きる事無く、死した魂は黒い瘴気へと変わり空へと吸い込まれた。
「なんだろう……すごく、気持ち悪い……」
魔力を持たないルウですら気分を害する程、空に浮かぶものは不気味な黒い渦だった。
『ちっ。これだけじゃ全然暴れ足りねぇな〜。また呼べよ、ドワーフ』
『全く……勝手に現界する事はイリア様に禁止されておると言うのに……とりあえずそなたが無事で良かった』
「精霊サマ! あ、ありがとうございます!」
ルウへ微笑むと2体は再び石の中へと戻っていった。再び精霊石が淡く輝く。
変異が消えた事で魔力に覆われていた部分が晴れて先が見えるようになり、ルウはほっと胸を撫で下ろした。
「はぁ……これでやっとマオ達を探せるよ、2人共ホントどこに行ったのかなあ?」
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