第29話 ミラルダ様の下へ
本物の精霊石を見せても信用して貰えない。他に彼女を納得させる術を持たない2人は顔を見合わせた。
「呆れた……あんた達、そんな勢いだけで行動していたの? そもそも、イリアなんて私は信用していないのよ」
「むぅ。イリアサマを……!」
「侮辱するな、と言いたいのでしょう? でも所詮穴倉暮らしをしていた
「そ、それは……そうだけど……」
確かに穴倉から出た事のないルウは世界のせの字も知らない。今も外の世界で見聞きする事が全て新鮮で楽しさしか無いのだ。
それが、知らない所で争いをしていると言われてもピンと来ない。そもそも、
「何が気に入らねぇのか知らないけどよ、あんまりルウを虐めんなよ」
「マオ……」
「何よぉ、私には全然話しかけてくれないくせに、この
話がややこしくなり、マオは深く溜息をついた。別にルウだけが特別な存在な訳では無い。ただ、彼女が穴倉から出たくても出られなかった事くらいマオは理解していた。
そして、ルウはどの種族に対しても分け隔てなく優しすぎるくらい優しい事。
飢えていた自分に食べ物を分け与えてくれた事は決して忘れない。
「ルウは頑固な親父さんの言いつけを守って穴倉から出なかっただけだ。お前らみたいにちょっとした価値観の違いだけで喧嘩しあってるのとは違うんだよ」
「えっ! マオ、何でオヤジの事知ってるの!? 確かに頑固だけどさぁ、それに外には出るなって言われてたのと、オヤジの弟子さん達が絶対出してくれなかったし……」
「本気の話だったのかよ……」
マオは思わず天を仰いだ。
世界について何も知らず全てが始めてで目を子供のように輝かせているルウを見て“何となくそうだろうな“と適当に話を合わせたのにまさかの核心をついてしまった。
「別に、私だって
メルルは心底悔しそうに唇を噛み締めた。
「でもね、あいつらヌルヌルしてて気持ち悪いのよ! あんた達も見たでしょう!? ヌルヌルよ、あれで触られると暫く気持ち悪くて鱗が固まっちゃう。冗談じゃないわ、あんなブサイクに好かれるのはお断りなのよ……!」
「……」
メルルの熱い回答に2人は言葉を失った。
特にルウは本の世界でしか知らない優雅で綺麗な被写体を想像していただけに、非常な現実を突きつけられ、妄想がガラガラと音を立てて崩れていた。
「お、おいルウ……大丈夫か?」
「ショックだよ。マーメイドは綺麗な歌声で、周りを癒すって聞いていたのに……みんなメルルみたいな性格なのかなあ?」
「どうだか……あの女だけが特殊だと思うぜ」
ショックから全然立ち直れないルウは悲しそうに俯いていた。
メルルという水の精霊石の場所を知る手がかりに何を言っても通じない。
それならば、ここで時間を潰すよりも違うルートで先に風の精霊石を取りに行くべきか悩む。
「マオ、エルフの方に行こうか?」
「だなあ、こいつに聞いても無駄っぽいし。地図確認するか……」
「ちょっと待ちなさいよぉ!」
「ミラルダ様が、あんた達を呼べって」
「ミラルダサマ?」
ルウは知らない名前に小首を傾げる。メルルは耳にそっと手をあて、誰かと話をしているようだった。
「……ミラルダ様は、私達
「そう言えば、メルル以外のマーメイドって何処にいるの?」
「言ったでしょう、私達は何百年も
何百年も戦っていた事にも驚きだが、最近突然強くなった事が引っかかった。先程の
姿は元を成していないのに、自我はギリギリまで保っていた。
今回はマオが居た事で全員生還出来たが、あれがメルルだけで対峙していたら最初取り込まれたまま攫われていただろう。
「あの
メルルは佇む2人にそこを覗いてみろと緑色に変色した湖を顎で示した。ルウは言われるまま顔を近づけた。
「げっ……何これ、臭い! これは泥……?」
「泥と毒ね。変異したら
毒に侵された湖を潜りヌヴェールへ抜けるのは例え
「心配要らないわよ、ここ以外の湖からヌヴェールに抜ける方法はあるんだから──ねっ」
「うわっ、寄るな……!」
メルルは再び懲りずにマオの腕にしがみつき豊満で柔らかい胸を押し当てた。
再び真っ赤になりたじろぐマオは女性に対して免疫が無いように見える。
「マオが一緒ならぁ、ミラルダ様のお言いつけ通り、
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