第27話 マオの強さ

「でも、まさか全然関係ない小人族ドワーフ狼人族ウェアウルフが一緒に居るなんてね。2人は一体どういう仲なのかしら?」

「いちいちうるせぇ女だな……ごちゃごちゃ言ってねぇでやるぞ。6本同時に刺しゃいいんだろ」

「ウフフ、イケメンの狼人族ウェアウルフちゃん頼んだわよ、私は今のうちに全力で魔力を溜めるから」

「……分かった。お前こそしくじるなよ」


 マオはスピード重視にする為、両手で頭を押さえると姿を狼へと変えた。例え狼とは言え、黙っているだけならば愛くるしい瞳に整った毛並み。

 再び興奮して瞳の色を変えたメルルを見て慌てて傍に居たルウが止める。


「い、今は魔力に集中してよ!」

「くっ……小人族ドワーフに諭されるなんて不覚だわ。貴女には負けないからね」

「?? よく分からないけど、うん」


 ルウは理解しないままメルルの激しい嫉妬の睨みを受け止めた。彼女は多分ルウがマオと近しい関係だと勘違いしているのだろう。

 小人族ドワーフは皆家族。誰かに妬まれたり、逆に誰かを妬む事なんて無かったルウ。メルルが抱く嫉妬というものは理解出来ない感情であった。


『メルルウバウノ、ゼンブコロスコロスウウウウゥ!!』

『んだよ、お前はもうマトモに喋れねぇんだな。変異っつーのも良い事ねぇな』

『ウルサイウルサイウルサイイイ……! オデノ、メルル、メルルメルルメルル……ツレテカエル』

『殺れるモンならやってみろ』

『オアアアア!! オマエ、ニクイニクイニクイ……オデヨリモ、メルルスキ、ニクイニクイィィィィイ!』


 スライムはマオとメルルのやり取りを拘束されたままずっと見ていたのだ。

 傍から見ているとメルルが一方的にイチャついていただけなのだが、彼の嫉妬を限界まで昂らせるには十分であった。

 本来もう少し長い間スライムを拘束する力があったはずなのだが、彼は嫉妬とマオへの憎しみだけで更に怨念の力を出しメルルの魔法を破ったのだ。


『メルルウウウウゥ!』

『うるせぇな……そんなにあの女が好きならてめぇらで勝手にやってろ』


 6体のスライムは巨大な外見に反して重量は少ないのか高く飛ぶ。しかも全て半魚人サハギンの意志が残っているのかそれぞれが別の動きを見せた。

 同じ動きであればナイフを投げて止める事は容易い。しかし不規則なその動きは。


『ちっ……』

『ハハハハハ! コレデ、メルルオデノモノオオォ!』


 スライムは緑色の液体をボタボタ零しながらマオに向けて体当たりしてきた。

 見た目はブヨブヨの身体だが瞬時に硬質化出来るのか、直撃を食らったマオは木を3本程自分の身体で薙ぎ倒して止まった。


『ハヒハヒハヒィ〜! メルル、コレデ、オデノモノオォ!!』

「嘘……マオっ!!」


 木に激突したまま動きを止めたマオに慌てて駆け寄る。かすり傷で所々出血はしていたが、致命傷は受けていないように見えた。

 ルウがホッとしたのも束の間で、魔力を溜めていたメルルがスライムの中に拘束されたのだ。


「ちょっと! 出しなさいよクソ半魚人サハギン!! こんな臭くて汚い所になんて居たくないわよっ!」

『メルル、スグニゲル。コノママ、ツレテイク』

「く、苦しい……やめて、やだぁ……もうっ」

「ど、どうしよう。マオ、マオ! マーメイドが攫われちゃうよぉ!」


 ルウはどちらを見ても何も出来ない事に唇を噛んだ。

 メルルを拘束している一体のスライムを殴る事は出来るかも知れないが、中にいる彼女がどうなるか分からない。


『大丈夫だ……奴の動きはもう、見切ったからな』

「マオ、大丈夫? 痛いよね、どうすればいい……?」

『ここは……任せろ。俺は、狼人族戦闘種族だからな』


 よろよろと起き上がった狼は真っ直ぐに合体しかけているスライムを見据えていた。大好きなメルルを手に入れて隙だらけになっている。


『──おい、不細工。俺と勝負しろ』

『ダレニイッテル、オデハカッタ』


 不細工と言われて反応したのか、スライムは一斉にマオの方にギョロギョロと目線を投げつけてきた。


『その女は俺の戦利品なんだからな、横取りは赦さねえ。どうしても本気で欲しいなら俺を殺してからにしな』

『メルル、オデノモノ……オマエ、イラナイ……!』

『そうだ。その女は俺のモンだ。だから、憎い俺を殺してから持っていけ』

『オオオオオオオ! メルルオデノモノ! ダカラオマエコロスウウウウゥ!』


 スライムになった事で思考回路がかなり単純になっているらしい。簡単にマオの挑発に乗ったスライムはあっさりとメルルを体内から吐き出した。

 彼女は臭い匂いと空気の悪さに吐き気を催して完全に意識を失っていた。だが、このスライムを始末するにはメルルの莫大な魔力が必須になる。


「ね、ね大丈夫? マオがアイツを挑発してる間に、何とか頑張って……」

「うっ……ゲホッゲホッ……あんのクソ野郎、ふざけやがってえぇぇ!」

「ほぇっ!?」


 ルウは突然言葉も荒々しく豹変したメルルに驚き、少しだけじりじりと後ずさると距離を取った。

 自慢の端麗な顔は醜く歪み、美しい金髪は緑色の体液を浴びたせいでまだらになっている。


「ちょっと! 失敗したら承知しないわよ!」

『はっ。よく分かんねぇ女……誰に命令してんだか』


 マオは高く飛ぶと自慢の足でスライムを1匹ずつ蹴った。一瞬だけ足に当たった触感はゼリーのようで、少しでも体重をかけると中に吸い込まれてしまう仕組みのようだ。

 マオは体重をかける前の一瞬でスライムを踏みつけ、口に咥えていたナイフを敵の中へ押し込んでいた。

 完全に怒りで我を失っている6体のスライムはそのナイフが体内に残されている事すら気づいていない。

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