第26話 変異スライム
「んもう、貴女のせいで湖に被害が広がったじゃない!」
「ご、ごめん……だって、初めて見たものだからつい……」
しゅんとしたルウにメルルは少しだけ語気を和らげた。
「……まぁ、そうよね。噂だと
「あれ? 怒ってないの?」
「……貴女にいつまでも怒った所で仕方ないでしょ、これはねぇ」
メルルは右手と左手に6本の銀色に光るナイフを挟んだ。手品のように一瞬で増えた事にルウの瞳はまた輝く。
「このナイフには私の使える水の爆発呪文が入っているの。あれは多分無限に増える生き物だから、トドメは“同時“に」
「同時に?」
ルウはきょとんとしたまま小首を傾げた。あの巨大なスライムを6体同時に攻撃するのは流石に難しい。
それでもメルルは当然出来ると自信があるのか説明を続けた。
「さっきの針で爆発させて全部弾け飛ぶかと思ったんだけど、思っていたよりもサイズが大きかったからダメだったみたい。今度は手加減しないわ」
あのスライムにまた地震を起こされたらこの一帯は巨大な深い地割れで誰も住めなくなるだろう。
先程の体液で湖も変色した所を見ると、水と共に生きる
これ以上無駄にアルカディアを破壊されるのは阻止しなければいけない。
「……じゃあさ、6体同時に攻撃するとアレは増えなくなるの?」
たった3人で同時に倒す等ルウは無理だと分かっていてもメルルの説明を聞いた。
「えぇ。コレそのものに攻撃力は無いわ。刺さったら私が外から全力で魔力を送ってバケモノを中から爆発させるってワケ。私の全力魔力よ、あれは絶対に弾け飛ぶわ」
鼻息荒く自信満々にそう言い放つメルル。ルウは自分に6体同時攻撃は出来ないと目線を下げてしょんぼりと項垂れていたが、メルルは最初から彼女に全く期待をしていない。
代わりに木に寄りかかったままこの事態を静観しているマオに向けて熱い視線を投げた。彼がこの作戦の要なのだ。
「ちょっと、そこのイケメン」
「え? マオの事?」
メルルはルウをガン無視してこちらに寄ろうともしないマオをじっと見つめていた。
「ふ〜ん……あのイケメン、マオって言うのね。マオ〜、ちょっと手伝ってぇ」
「そういや、マオはなんでそんなに離れてるの?」
ふとルウは最初の事を思い出す。
よく考えたら
3人の不思議な空気を壊したのは部外者扱いされている6体のスライムであった。緑色の身体を怒りで赤く染め上げ、さらに激しい地震を起こす。
「わわっ……落ちる、落ちる」
『メルルウウウウゥ! オデイガイノ、オトコ……ブチコロスウウウウゥ!』
「はぁ。これだから空気の読めないブサイクは大嫌いなのよ。ほんっと煩いわね……今取り込み中なのよ!」
スライムとマオに対して向けるメルルの声音が真逆過ぎて怖い。
ルウは誰に対しても態度を変えることが無いので、彼女の豹変ぶりに少しだけ驚いた。
興奮したスライムがまた攻撃を仕掛けるかと思いきや、既にメルルが放っていた銀色の針がスライムの身体を地面に繋ぎ止めていた。
これは先程の爆発とは違い、敵を動けなくする魔法らしい。
「──そこでお前はダサく這いつくばってなさい」
『アフウ……メルルメルルメルルウウウウゥ……』
攻撃されても動けなくされても健気に彼女を呼び続ける
ここまで自我を保ったまま身体だけを化け物に変えるケースは見ていない。
それにルウ達は外に出て日も浅い。
(せめて、長老にもう少し話が聞けたら良かったな……)
スケベジジイと言ったのがまさか最後となってしまったのが本当に悔やまれる。
短命であっても膨大な知識を受け継ぐ
「──そうよね、
「ちょ……そ、そんな薄布で近づくな……! 分かったよやりゃいいんだろ、やりゃあ!」
マオは真っ赤になりメルルから再び距離を取った。メルルはその態度も可愛いとクスクス笑っている。
「ヤダぁ〜可愛いっ。耳まで真っ赤になってる、それにこのモフモフした綺麗な毛並み……
「こ、こらっ、どさくさに紛れて尻尾に触んなっ!!」
「あんっ、凄いフカフカ。もうっ、可愛すぎる〜ずっと触っていたい」
「……」
ルウはぽかんと開いた口が塞がらないままだった。先程の優雅に魔法を唱えていたメルルと、マオにじゃれついているメルルがとても同一とは思えないのだ。
「えっと……マオ、とりあえず良かったね?」
「ちっとも良くねぇよ!! お前のアタマはバカなのかっ!」
「ぶー。いちいちバカバカ言わないでよ……」
ルウはメルルの豊満な胸に抱きつかれているマオを見て、普通の男性ならきっと喜ばしい光景なのだろうかと思って言っただけなのだ。
マオの拒否に気分を害したのは自分に対して自信しかないメルルの方だ。
「私に抱きつかれても嫌がるなんて……マオは土臭い
「……どっちでもねぇよ」
マオは一気に面を引き締めるとメルルから銀のナイフを奪い取った。
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