第25話 サハギン
妖艶な笑みを浮かべるメルルをもう一度見る。
腰まであるサラサラの金髪に、胸元には綺麗な谷間がハッキリ強調される貝殻のような白い胸当て。そして同じ白の腰布のようなものを身につけていた。
さらに下へ目線を下げるとほっそりとした
「あ、あれ……足?」
「……何か問題でもあって?」
容姿を褒められる事は素直に喜ぶが、怪訝そうな顔で見られた事がメルルにとって相当不愉快だったらしい。突然ムスッと膨れた顔でルウを睨みつけてきた。
「何でヒレじゃなくて足?」
「ああ、その話は後よ。とにかくあのケダモノを
悦びの世界に浸っていた
先程から黒い禍々しい気を放っていたのがその前兆だったのだろう。
『メルルちゃんメルルちゃんメルルちゃんメルルちゃんメルルちゃんメルル──オデノモノニナレエエエ!!!』
口から緑色の液体をゴボゴボ零し、黒い鱗からは真逆の白い煙を放つ
彼が立っている周囲の地面が白く溶け、ドスドスと暴れる度に大地が割れ、さらに周辺の空気まで灰色に淀んでいく。
『メルルちゃんは、オデノ、モノだアア!』
最後に叫びながら緑色の液体を広範囲に放った所で
「げぇっ!? 何アレ!」
「ケダモノがバケモノに変わった所で変わりないわ。ほんっと最悪っ!」
女子2人は目の前で黒い瘴気に覆われた
何と
動きは左右にドロドロした身体を揺さぶるのみ。見た目は完全に最弱なのだが、元
しかも何故かスライムからは黒い瘴気と共に秘めた魔力めいたものを感じる。
「ほんっと最悪……あんなの絶対触りたくないんだけど」
「でも、さっきより弱そうだよ! これで──!」
「あ、バカ! 鈍器なんかで殴ったら……!」
メルルは汚いモノを心底触りたくないようだったのでルウが先に動いた。地面を這うだけのスライムならば、こちらの方に十分地の利がある。
「これでもくらえっ!」
確かな手応え。
ルウの鈍器で殴られたスライムは真っ二つにぐにゃりと割れたが、血走った大量の目玉がギョロギョロとルウを追尾する。
「ひえぇ……き、気持ち悪いっ……」
『メルルハオデノモノダァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!』
「な、何!? 何?」
突然スライムは巨大な風圧を巻き起こし、断末魔とは違う咆哮でメルルの名を呼んだ。
呼ばれているとうの本人は不愉快極まりないと不機嫌なままだ。
『オオオオオオオッ……メルルメルルメルルッ──!!』
「ケダモノにもバケモノにも私は名前を連呼されたくないの。目障りだから消えて」
メルルは不機嫌な表情のままスライムに向けて銀色に光る針を投げつけた。
それはただの針ではなく、何か魔法が練り込まれていたのかスライムの目玉を爆発させて潰した。
『オオアオオオオゥ……メルルノコウゲキ……オデノ、モノオオオオオオオ!』
目玉を潰されて痛みに悶えるのではなく、メルルに攻撃された事で快感を覚えたのか、スライムはさらに興奮した。
とても飛べるとは思えない巨体でジャンプを繰り返し、何度も地面を揺らす。あまりの衝撃にルウは尻餅をつき、バランスを崩してコロコロと転がった。
「ふ、増えた!?」
びちゃびちゃとさらに汚い音をたて、緑色の液体を周辺にばら蒔いたスライムは6つに弾け飛んだ。
変異とは体液だけでも増幅するのか、小さく分裂したそれは一瞬で最初と同じサイズに変わる。周囲には収集のつかない巨大な緑色のスライムが大量の瞳でルウとメルルを凝視していた。
「ど、どうなってんのコレ!」
「ああもうっ……貴女が殴ったから興奮したじゃない。何もしなければアレで
「いや、アタシが何もしなくてもアイツはアンタに執着してたし、変わらないと……」
「うっさいわね! いい事? 貴女は関係ないのだから、余計な事はしないで頂戴」
明らかにあのスライムはメルルにしか興味が無いので、ルウの攻撃で興奮したかと言うと違う気がする。
ただ、見た目の美しさに反して意外と血気盛んなメルルにそれ以上苦言を呈する事は出来なかった。
「針でダメならこっちはどうかしら」
メルルは詠唱もなく右手から先程の針と同じく銀色に光るナイフを〈召喚〉した。
ルウは初めて物体の召喚魔法を目にしたのでスライムよりも遥かに興奮していた。
「す、すごおおおいっ!! 何、今のどうやったの?!」
「ちょ、ちょっと……邪魔よ。余計な事はしないでって──」
『メルルウウウウゥ!!』
ルウがキラキラ瞳を輝かせてメルルに抱きついているのを見て怒り狂ったスライムは6匹同時に身体を激しく揺さぶった。
周辺の木々は根こそぎ倒れ、湖の水はスライムの飛ばした緑色の体液のせいで一気に変色していく。
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