第12話 貴族街と貧民街
日は既に高く登っていた。昨日に引き続き、太陽の位置が異なる事にルウは首を傾げた。
「ねぇ、レノア。何で太陽ってやつは時間が経つと移動するの?」
「太陽が移動しているのではなく、この世界が動いているからですぅ〜」
「そっかあ、でも時間で明るさが変わるのって面白いよね。アタシの居た所はずーっと真っ暗だったし」
別に穴倉生活が嫌いな訳では無いが、外に出てから面白い発見が多い。
ルウは今も貧民街に向かう途中と言うのに足取り軽く楽しそうにしていた。
「ん? 何かあったのかなあ」
「……あまり私達が近づかない方が良いと思いますぅ〜」
貧民街は貴族街の横を通り抜けて西へ向かうとある。
途中何ヶ所かテープのようなもので仕切られており、侵入禁止と記載された紙が貼られていた。
どうやら昨日、事件が起きたようだが、野次馬のように2人が行った所で何か解決出来る訳ではないのでそこは無視しディオギスの司令通り道を急いだ。
西の貧民街は貴族街と比べて建物はボロボロ、中に住む
昨日の夫人らがあのようなドレスを着るならば、少しでも皆に分けてあげたら良いのにと思う。
「おぉ、貴方はレノア様ですな。本当にディオギス様には感謝の言葉しかありませぬ……」
よろよろと杖をつきながら近づいてきたのは初老の老人であった。
本来であればもう少し若いのだろうが、餓死寸前の如くガリガリになっている。
レノアの持つ巨大な袋に入っていた食べ物の匂いに釣られたのか、チラチラと周辺から子供達も顔を覗かせていた。
ルウがニコリと微笑むと子供達は一瞬驚いたようにビクッと身体を強ばらせ、建物の影へと消えた。
「なんか、あの子供達も痩せているね」
「……これがメタトロン帝国の闇ですぅ。」
「闇?」
一瞬だけレノアが目を細め寂しそうにそう話したが、直ぐにいつもの話し方に戻ると業務用笑顔を浮かべ、周囲に持ってきた大量の食事を並べ始めた。
ルウが何か手伝おうにも袋の入口は狭いので結局見ているしかない。それにこういう作業は慣れている者がやった方が失敗しないハズだ。
「はぁい、これが今回の分でぇす。皆で仲良く分けてね〜! ディオギス様が必ずメタトロンの内政から変えてくれるはず。此処で育った私の出来る事ですって伝言でしたぁ」
「おぉ、有り難や有り難や……ディオギス様は神のような御方ですじゃ」
老人がレノアの前で膝をついたと共に、先程隠れた子供達も少しずつ寄ってきた。確認し合いながら並べられた食事に手を伸ばす。
「あの子達、食べ物無いの?」
ルウと見た目の変わらない身長の子供も居た。
では
メタトロン帝国の位置する場所は肥沃な土地であるので作物も育ちやすい環境のはずだった。
「この食料も、多分3日持たないんですぅ……お師匠様は此処で育ったので、幼少期は生きる事も苦労なさったようですぅ」
「ディオは……どうやってあんなに強くなったの?」
「お師匠様は機械工学の知識に長けているお方なんですぅ。記憶力が抜群に良くて、魔法も法力も天性の才能があったようで、帝国内部からスカウトがきたみたいですぅ」
「何で同じヒューマンなのに、こんなに違うんだろうね?」
「──
権力という言葉は穴倉から出る時にディオが例えた物だ。精霊石を
確かに同じ種族でも仲良く出来ないならば危険因子になる可能性は大いにあるだろう。
精霊石とは〈創世神〉の力の欠片であり、自然界に存在する精霊の力を込めたものなのだから。
「
老人はルウに向けて頭を下げた。
「じっちゃん、アタシ別に嫌な思いしてないよ? ディオはいいヒトだし、レノアもいいヒトだもん」
「ルウ様……」
「ドワーフは皆仲良くって教えられて家族のように育った。喧嘩したら納得いくまで話し合いして、最後はオヤジが両成敗してた。ヒューマンは話し合いで解決しないの?」
「残念な事に権力社会で生きる我々に、かような力はありませぬ。この貧地に住まわせてもらうだけでも皇帝の慈悲なのですじゃ」
近隣にも
魔法防壁に覆われている分外敵からの侵入を防ぐ事が出来るため、生存率は高い。
これが何もない外での生活に変わると彼らは直ぐに違う種族や魔物に食われてしまうだろう。
彼らは外に出るのではなく、権力に食われても外敵から身を守る生活を選んだのだ。
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