第3話 ショパン

あなたの手は水底で光る魚の腹みたいな色をしてる

なまら白くて小さくて、すこし骨ばった手

あなたが愛するピアノを薄暗いホールの真ん中の列で私は聴く

前列にいるあなたの恋人に見咎められないように

自分では気づいていないと思うけど

いつもは温度が感じられないほど淡白で感情を露わにしないあなたは

鍵盤に向き合う時だけ情熱を剥き出しにする

あなたの周りだけ青白い火花が飛び散っているように見える

跳ねるような少し性急で難解で無邪気な音色

教えないけれどペダルを踏むのが下手だ

音の重なりが濁って

それでも止まらず突き進む

小さなショパン




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