第4話 「幕間」

王宮の夜は静かで、月光が白雪姫の歩みを照らしていた。彼女は王宮の裏門を抜け、目的の家へと向かう道すがら、夜風が彼女の髪を優しく撫でていた。彼女の足元に落ちる影は、夜の静寂と共に長く伸び、孤独な旅路を示しているようだった。


彼女が若き学者の家に到着すると、ドアを軽くノックした。ドアが開くと、彼女は深く一礼し、心からの賞賛を込めた声で話し始めた。「あなたの最近の論文を拝読しました。その洞察力と独創性には本当に感動しました。あなたのような才能ある学者との議論を通じて、私も多くを学ばせていただければと思います。少し時間をいただけますか?」


彼の目は興味と驚きで輝き、白雪姫を招き入れた。彼らは居間に移り、白雪姫は静かに彼に向けて微笑みながら、自らお茶を淹れ始めた。部屋には穏やかな火の光が揺れ、暖かく柔らかな照明が彼女の顔を優しく照らし出していた。お茶の蒸気が静かに立ち上り、ほのかに甘い香りが部屋に広がった。


白雪姫は彼にお茶を差し出し、彼の研究についての質問を投げかけることで会話を続けた。彼は自分の知識を惜しみなく語り、白雪姫は熱心に聞き入れた。


「私、あまりよくわからないのですが、学者様は論文もお書きになられているのですか?」「それはもちろん」そう言って彼は現在書いている論文について早口で説明を始める。

「こういった機会はなかなかないので、実物を見せて頂いてもよろしくて?」「光栄です。ぜひお願いします」

学者は机の中から引っ張り出すと白雪姫に手渡す。彼女はじっとその論文を見て、彼が持つ文字の癖について頭にいれる。そして再現出来ることを確信する。学者からの話は続き、夜も更けてくる。だがそろそろ頃合いだろうか。


「こんな時間まで、ありがとうございました。そろそろ失礼いたします」と、白雪姫が言ったときだった。


学者は自分の体が少しずつ重くなるのを感じ始めたが、それが何故かはわからなかった。彼の意識が薄れゆく中、白雪姫は静かに彼を見守り、最後には「お母様だったら、決してこのようなことはしないのでしょうね」と静かに告げる。毒であったものを薬にして、人を生かす。そのために力を使う。けれど私はその反対だった。薬だったものを毒として扱う。疑惑を晴らすための研究者同士の話し合いを聞き、私は毒の作り方を学んだ。


白雪姫は登壇した女王の姿を思い出す。人々の称賛を受ける彼女。光を歩くその姿は、眩しくて美しい。「けれど私はお母様とは違うの。ごめんなさい」その声も視線も冷たい。これから目覚めることのない、永遠の眠りにつく学者を見下ろす。なぜ彼は事件を起こしたのか。優秀な彼女はその考えに気づかないかもしれない。自らを研鑽し、前を向き、ただ人のために尽くす。足りないのなら、足りるまで積み上げれば良い。そういう考えだから彼のような者には気が付かない。女王が優秀であればあるほど、生まれる側面について。人々が持つ感情について。

――今までの役職者達は何をしてきたのか、と。その評価を恐れ、嫉妬して彼女を排除しようとした。

人々の嫉妬、怠惰、他者にのみ向ける視線。誰よりも綺麗な彼女はその暗さは届かない。けれどそれでいいと思う。それこそが私の愛した姿なのだから。

白雪姫は彼の家を後にし、王宮へと戻った。歩みは静かで落ち着いており、夜の風が吹き抜けていった。

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