第3話

「……愛してる〜♪」一瞬の静寂が訪れた。


 そこから、ザワザワと聞いていた皆にザワメキが広がる。


「何これ、うっまっ!!」「これ、プロ並みじゃね?」「カラオケ部凄っ!!」


 女の子達が、僕の歌を聞いて大騒ぎしている。


「流石、うちのエース」水玉が、僕の肩口にショルダータックルをかまして来た。


 まぁ僕にとってはこれ位は何でも無いんだけどな。水玉と笑いながらハイタッチをした。


 高校の頃から友人達とバンド活動をしていて、ずっとボーカルをしていた。


 最初は、ジャンケンで決まったボーカルだったんだ。ボーカルと言ったらバンドの花形、みんなやりたかったくせに、いざとなると尻込みをしてさ。


「たまには、歌わせてくれよ?」って言われた時は笑ったな。


 その後は、お互いがお互いの楽器にドハマりしてしまったのと、僕の地声が高いのもあってボーカル固定に、ギターを教えてもらおうと友人に頼んでも、

「お前は歌ってりゃいいんだよ!!」だって?酷くない?

 それから、ボーカルとギター少々でやってきたのだけど、高校の三年間ボーカルの大変さをつくづく思い知ってしまった。


 肺活量に音域、ボイストレーニング。歌の上達に上限なんてない。少し休めば音域が下がる。


 ボーカルはバンドの個性であり顔だと言った方もいたけど本当にその通りなのだ。


 バンドを休止して、(辞めた訳では無い)大学でカラオケサークルに入った今でも、ボイトレは続けている。


「凄いなカラオケ部!!」小豆田先輩が僕の首に手を回してヘッドロックをしてくる。


 小さな小豆田先輩のが当たってもな?と思ったのだが?おっ、意外にある?ダボッとした上着のせいで分からなかったけど意外に立派な物をお持ちで……。


 シゲシゲと先輩の顔を見てしまい、先輩と目が合う。


 ため息一つ。


「先輩って、成人だったんですね?」


「当たり前じゃあ!!」


 怒られました。


「で、判定は?」採点機能を眺めるけど、中々変わらない……?


「あれ?林田?」


 傅く様に、小豆田先輩の横に膝立ちをする林田さん。


 しばらく黙った後、


「……設定ミスりましたな」


「林田ーー!!」小豆田先輩が片手を振り上げツッコミを入れる。


 あやー、どうやら設定ミスで今回の採点は駄目だった様だな?採点機能付きカラオケのあるあるだな。


「この盛り上がりをどうするって言うのだ!?」怒る小豆田先輩に顔色一つ変えない林田さん。何となくブーイングをしている美術部のみんな。


「まぁまぁ、別に一度くら……」しょうがないじゃないか?と笑いながら慰め様とする僕の言葉は、林田さんの言葉にかき消される。

「今の楠木殿の歌声、私的には、百点でした!!いえ、私のフェイバリットソングでしたので、百二十点と言った所!!」いえ、林田さん採点は百点満点です。


「ミスを含めまして私、二枚脱ぎましょう!!」

 は?何言ってんのこの人?顔を見上げると、林田さんが直立不動で敬礼していて、どこの軍人だと突っ込みたくなった。


「ちょ、ちょっと待って下さいよ!!流石に冗談でしょ?」慌てて僕は隣の小豆田先輩の肩を掴む。


 キョトンとした顔で僕の顔をジッと見る先輩。


 うん、齧歯目の小動物みたいで可愛い……じゃねーの!!


「先輩!!ここに男がいるの分かってます!?」


「知ってるよ?証拠は見たこと無いけど」


「何ですか?証拠って!?」


「そりゃあ、オチン……」


「言わせねぇよ!!」何をこの身なりで言おうとしてるんだ、あんたは!!僕は先輩の口を塞いだ。

「だーってー!!」ブーブー不貞腐れる小豆田先輩に軽くチョップで突っ込みを入れると、

「その可愛らしい身なりでそんな事言ってんじゃねぇよ」つい言葉が荒くなってしまった。


「水玉!!お前からも、何とか言ってくれよ」僕からの言葉に対面のソファーに座っている水玉はすまなそうな顔をして梅酒のソーダ割グビグビやっている。

「ごめんねココロ、林田さんが脱がないと、脱ぐの私になっちゃうし……」バツが悪そうな顔をしている水玉。


 そっか、冗談でも僕が失敗すると水玉が脱ぐ事になるんだった。


 まぁ、最悪僕が代わりに脱ぐ位には考えていたけど


「では、脱ぎまーす!!」軽い声で、ハーイと手を上げて服を脱ごうとする林田さん。


 まぁ、あれだな最初だもん靴下辺りを脱いで終わりだろうし対した事無いか?そして、林田さんの方を見る。


「……上から脱ぐんかーい!!」そう突っ込んでしまうほど、潔くと言うか男らしいと言うか(女性だけど)上着を二枚脱いでブラ上半身ブラのみになっている林田さん、ヤバいヤバい!!何の躊躇も無かったぞ今。最後林田さんは上着を「フーッ!!」という掛け声と共に投げ捨てた。

 紫色のちょっと透けたブラをした林田さんは、

「部長、落とし前はつけました」と小豆田さんの傍らに跪いてニヤリと笑う。


 僕は顔を覆いながら、

「ちょっと勘弁して下さいよー!!」と叫ぶと、小豆田先輩が一言言った。


「安心しろ!!林田は露出狂だ!!」


「安心出来ねぇよ!!つーか、できる訳が無いよ!!」この先、どうなってしまうんだよ?


 慌てて、アワアワしている僕はこの時の美術部の皆がニヤニヤしているに気付きもしなかった。









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これは友達の話なんだけど…… まちゅ~@英雄属性 @machu009

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