第6話 それから4年後
転生英雄ユウが王都を離れてから4年の月日が過ぎた。
4年という年月は短いようで長い特に腐り始めてからはあっという間である。
帝国や共和国が領地を大きく広げ2国が戦争を始めて相手の領地を奪ってより多くの領地を得ようと考え始めるのも。王国が城壁に回す補修予算を減らして少しでも懐に収めようとするものが現れるのも4年という時間は十分だった…。
悲劇とは常に急に訪れるものだ、4年が過ぎて誰もが魔王等というものを意識しなくなったころ急に森から沢山の魔物が暴走し、帝国と共和国へと襲い掛かった。
魔物に対して強力な城壁を持たず、人間同士で争うための軍事編成をしていた両国は一月と持たずに壊滅し難民が王国へと押し掛けた。
王国も両国への援軍派遣の相談をしていたがあまりに早い両国の滅亡は王国も予想することができずに結果的に見殺す形になった為王国としても難民を放置することはできず城壁の内側にて生活をさせることになった。
「嫌になるな……」
ハルトは城壁の上に立ち、城壁の周りを囲む魔物の群れを見下ろしため息を吐く。
相手が魔物だけでも手に負えないというのに、問題は内側でも起きていた。
帝国共和国両国から亡命してきた人間の一部が亡国の特権階級であり自国を取り戻すように動きだしそれによって難民たちが待遇への不満を訴えて混乱が起きた。
「救いようがない…」
言葉少なくだが怒りを隠さずにルナが言う。
彼女の後ろには彼女の部下兼右腕のレオと魔術学園魔法科の卒業生たちがローブを纏い杖をもって待機している。
数は少ないが全員が一騎当千の魔法使いであり、ルナから魔法使いとして認められるほどの生徒たちである。
「予算もケチらずそれなりの生活ができるようにしてたんですけどね」
ため息をついて度し難いと呟くのはルーだ。
父と共に王国の金を動かしていた彼女は帝国と共和国が滅亡した際難民に回す為の食料なども備えておいた、これもユウからのアドバイスである。
城壁を持たず人の生存権がむき出しの帝国と共和国など魔王との戦争が始まればすぐに滅ぶと考えたユウは、その後難民が王国へのなだれ込んでくると想像し、備えておくべきだとアドバイスを受けたのだ。
内部の面倒な問題はギルドを中心に対応してくれている貴族に対応させたら身内で庇うかもしれない、その為貴族との関係がよくないギルドの特に高齢者に対応を任せている。
ギルドの高齢者は所属こそギルドではあるが半分王家に属しているようなものであり、今回は王様から様々な特権を与えられ多くの者たちが狩られることとなった。
狩られた中にはこの混乱状態で王家に氾濫を起こそうとした王国貴族も所属しておりその中には元騎士団長や魔法師団元団長なども含まれているあたり救いようがない。
「ハルト騎士団長殿、冒険者ギルド特級戦力集合した」
そういってハルトの前で膝をつくのは雷剣のアレックスと炎剣のアインの二人だ。
その後ろにも十人程の冒険者が続き膝をつく。
雷剣のアレックス、この4年ほどで名を上げた冒険者だ。
元々は大剣を構え、炎剣のアインをライバル視していたのだがユウが王都を出てからの4年間で使用する武器を大剣から長剣に変え雷の魔力を持つ長剣を振るう姿から雷剣の特級冒険者として任命されたのだ。
「ありがとうございます、皆さんには騎士の援護という形で戦ってもらいたいと思っています」
ハルトがそういうと冒険者たちは顔を上げると。不敬を失礼の上で我らを前線にて使っていただきたいと反論をする。
「我らは皆ユウ様のおかげで特級戦力へと至ることができました、我らにとって特級冒険者とは生涯の目標であり、その名を得るために命を捨ててもかまわないと思うもの、そこへの道筋を照らしてくれたユウ様のご子息であるお三方よりも後に戦うなどありえないことなのです」
雷剣と炎剣二人の特級戦力は強い視線を3人へと向ける。
炎剣のアイン、転生英雄のユウからのアドバイスを受け大剣を使うようになるとめきめきと実力をあげ、炎の魔剣を手に入れ炎剣と呼ばれる特級戦力へと駆け上がった青年だ。
そう彼もまたユウの弟子であり、三人の兄弟子とも言える存在なのだ。
雷剣のアレックスもまたユウが王都を離れるその日ユウから指南を受けて大剣から長剣へと武器を変え特級戦力へと上り詰めた。
彼ら以外の者もまたユウから助言を受け生涯の夢を叶えたそんな英雄の弟子たちであり、彼らのために命を捨てる為に駆け付けた者たちだ、
「おいおい、何言ってるんだ?お前らよりも先に死ぬのは俺らの仕事だっつうの」
そう言って特級の後ろから階段を上がってきたのはギルドマスターと年老いた冒険者たちだった。
「いいか、今回の魔王復活は3代目に匹敵するほど人口が減ってもおかしくない、故に命の選別が必要だ、まず死ぬべきは俺達年寄で次にお前達若い冒険者、最後に死ぬのがハルト達優秀な貴族だ」
自分を指さしたあと、冒険者、貴族と指さしていく本来であればそのような行為は貴族に対する不敬でだがこの場で気にするものは誰もいない、何よりもギルマスの笑顔の中に強い覚悟を感じ誰も口を開くことはできなかった。
「転生英雄はすげえよな、俺はこれから一度死ぬのだってこええっていうのに何度も死ぬ運命を受け入れ、それでも人類のために戦っているんだ、何度も生き返れることが羨ましいなんて思えねえよ」
ギルマスの言葉に多くの老人が頷き、それから笑う。
「それじゃあ俺達は配置につくぞ、あまり多く俺たちの後に続くんじゃないぞ?」
ひらひらと手を振り彼らは門へと向かって歩いていく、次に門が開けば彼らは命の限り戦いうだろう……
「ハルト兄さん、マナ姉さん、どうにもならないのでしょうか……」
戦う力を持たないルーは二人の兄に尋ねるが、二人の兄姉も苦虫を噛んだような顔をする。
二人がどれだけ強いと言っても大陸の8割が魔の領域でありそこからあふれたモンスター相手に2人で勝利することはできない。
それどころかこの二人が安易に死ねば王国全体の被害も馬鹿にはできないものになるだろう。
「何か、何かないの何か……」
ルーは弱い、だからこそできる限り頭を巡らせるのだ、何か形勢を逆転する一手が欲しい、神に祈るように手を重ねて膝をつく。
その場にいる全員が逆転の一手を考えつつ周囲を見渡す。
そんな中最初にそれに気づいたのはマナであった。
南側魔王が封印されている方角の敵陣の後方、そこがわずかに乱れた。
最初は小さな混乱だったが、その混乱は少しずつ王都の方向へと近づいてくるとそのたびに乱れは大きくなる。
その魔物の乱れる姿を見て3人は同じ考えが浮かぶ。
「父さんだ!」
「父だ…」
「ユウ様です!」
確信があるわけではない、確認をしたわけでもない、それでも三人は自分たちの父が魔王を打倒してこちらに向かっているのだと確信を持った。
「騎士団総員突撃準備!冒険者は魔法使いの護衛を!」
「魔法使い部隊……魔力を使い切るつもりでいく……」
「負傷者の収納は後方支援部隊で、私が指揮を執ります許可は得ています!」
3人は慌ただしく動き出す、もちろん騎士団も冒険者も魔法使いも指示を受けてすぐに動き出す。
開門を待っていた老冒険者たちが何があったのかと尋ねてくるが、ただ一言、転生英雄の帰還だと言えば、全員がその言葉に答えるように声を上げる。
「開門だ、突撃するぞ!父上と合流するんだ!」
ハルトが剣を振り味方を鼓舞すれば先頭に立って突撃する。
ハルトに負けるなと全員が彼を追い越そうと駆け出し魔物たちをうち滅ぼす
後方からの混乱とハルト達からの突撃を受けた魔物は指揮系統が崩壊し逃亡するものが現れる。
魔王の指揮下にあれば絶対に起きない現象に彼らは魔王が討伐されたことに確信を持ち、さらに深く斬りこんでいく。
ふとハルトたちの目の前から敵が消える、ハルトたちが顔を上げればその先には彼が望む相手がそこにいた。
転生英雄、ユウがそこにいたのだ。
ただその姿は決して傷のないものではなかった。
鎧はボロボロであり、顔や腕等甲冑を纏っていない場所は傷が治りきらずに深く残っており、剣も刃こぼれしていてもはやただの棒としての価値しかないだろう。
ハルトもマナも二人もここが戦場であるということを忘れ目の前の父に飛びついた。
ユウの周りには剣姫、アマゾネスの将軍、オーガの戦鬼等名立たる戦士が周りを固め、彼らのもとには部族の戦士が続いていた、彼等もまた激戦を潜り抜けた傷を全身に残し、それでもまるでほほえましいものを見るようにユウと子供達の抱擁を見守るのだった。
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