第4話 長女(魔術師団団長)

私は母親と別れて城の敷地内にある魔術師団の塔に来ていた。

魔術師団、魔法の杖を使って魔術・・を使い戦うことをメインにする戦力だ。


魔術とは、人の知恵によって編み出された学問であり魔法陣を用いて間法現象を発生させる技術だ。

さらに言えば間法とはこの世界と別の世界の間の法則であり、魔法陣を用いることで間法を技術的に発生させる。


父が使う魔法・・・・・・とは別物であり、父が最後に転生英雄として死んだとき・・・・・にはなかった技術だ。


「改めて考えると恐ろしい」

’’転生’’英雄、人によっては何度も転生できることを喜ぶ人間もいるだろう、だが自分の身に起きたらと考えると恐ろしいことだ、何度も死ぬ・・・・・人の精神はそんなことに耐えられるものなのだろうか?


「父はすごい、人類のためなんて理由で何度も死を乗り越えて何度も魔王と戦い傷ついてそれでも人類を守ってきた、まさしく英雄だ貴族なんて目ではないほど人類に貢献している」


私は口下手だ、人に話すのは得意ではないだが思考することや思考したことを口に出すのは好きだ、なのでどうしても独りでいると独り言が多くなる。

そして考えることと言えば父のことや父から教わった魔法・・のことが多くなる。


魔法、それは別世界の法則だ、魔力が全ての世界であり、物理現象も自然現象も全て魔力によって管理されている世界、その世界の法則。

火が燃えるのに必要なのは、物理世界であるこの世界は燃えるもの、酸素、熱源が必要なのに対して魔法世界では魔力これ一つである

そのため水の中だろうが酸素がない空間だろうどこだろうと燃やせるのが魔法だ。


魔法の劣化再現である魔術だが父は魔術を見て感動していた。

魔法は才能あるものが研鑽を積まなければ使うことができない、だが魔術は違うのだ、誰でも使えるうえに魔力がないものでも魔石を杖にセットすることで使うことができる。

そのおかげで父が最後に死んだときに比べてこの時代は庶民の生活の質は大きく向上している。

水は水の魔術具で作れるため川の近くにしか作れなかった畑は作れる範囲は拡大した。

火をおこすための苦労は火の魔術具によって軽減されたし、長時間火を起こせるようになったことで塩の安定供給につながった。

風の魔術具は船に、土の魔術具は土木に他にも単一属性ではなく複数の属性の魔法陣を合わせることもできる。


「そんなことを考えながら歩いていたら父親の待つ執務室は目の前…か」

あまりいい気分ではないが顔を出さないわけにはいかない、それに兄は今頃騎士団を掌握しようとしているだろう。


「私も頑張らないと」

父の代わりに王国を守るのは私達だ、そのためには今の魔術師団ではだめだ、今の師団長に代わってか私が師団長になり、魔術ではなく魔法が使えるように師団を作り直しを行わなくてはいけないのだ。


「父上、失礼する」

私が言葉少なに挨拶をすると父親は机の上に置かれた書類から目を離しこちらを見る。

「よく来たな娘よ、今日からは魔術師団副師団長とし魔術師の地位向上と財務大臣からの予算増加のために尽力してもらおう」

名前も知らない父親はそれだけ言うと書類に目を落とした。

これが今の王国戦力の片翼そのトップかと思うと眩暈がしそうだ。

これは早々に国のためにもこの男には後方に下がってもらうべきだろう。


「団長単刀直入にいう、師団長の座を渡しに渡すべき」

私のそんな言葉に父親は眉をしかめるが相手にする気はないのかこちらと視線を合わせる気はないようだ。


「だめだよ姉弟子、そんな言葉少なでは誰も理解できないって」

そういって私に声をかけたのは部屋内にいた師団長とは別の男であり私の弟弟子だ。

なるほど私は確かに言葉が足りないとはよく言われるつまりもっと言葉を尽くすべきということか……


「師団長は無能、無能がこのままトップに立つと今後魔王復活後に王国を守る際に多くの無駄な犠牲が出る、だから無能な団長は無能をさらす前に私に団長の座を渡すべき、今なら娘であり有能な私に団長の座を譲り隠居し後方支援に徹するためと名を汚さずに隠居することができる」


私は早口でそういうとむふーっと満足し息を吐く。

私は確かに口下手ではあるけど、喋ることができないわけじゃないしわかりやすく説明することもできるのだ。

ただなぜか師団長は顔を真っ赤にしぷるぷると震えているし、弟弟子は顔に手を置いてあちゃーなんて言ってる。


何故だろう、これほどわかりやすく説明したというのに父ならもっと簡単に理解してくれるのに……


「よかろう……お前が言う通りお前が私よりも有能だというのなら師団長の座はくれてやる、いくぞ」

そういって師団長は専用の王国から与えられた杖を持ち訓練場へと歩いていく。


「姉弟子よ、さすがにあれはちょっともっと言い方なかったんです?」

生意気にも弟弟子が私の言動にだめだししてくる。


「父なら最初の説明でわかってくれた」

つーんと私は弟弟子から顔を反らして立ち上がる。

師団長が訓練場で待っていてくれるならさっさと倒して役職を譲ってもらおう、私は魔法で弟弟子を捕まえると首根っこを掴むように持ち上げてそのまま弟弟子と一緒に訓練場へと向かう。


「嫌なんで俺まで?俺関係ないじゃない?師団長と姉弟子の話じゃん?絶対行ったらめんどくさいじゃん?離してハナシテ」

「離してほしいなら自分で解除する、このくらい解除できなくて魔法使いは名乗れない」

魔法、父がずっと使って戦ってきた技術、それを現在習っているのは私と弟弟子だけだ。

といっても私は父には及ばないし、弟弟子は基礎の基礎をかじった程度で魔法使いを名乗るのもおこがましいレベルなのだが。

どうにか私から逃れられようともがくが魔法の制御が未熟すぎて私の魔法から逃れることができない弟弟子を引き連れて訓練場へと向かう、訓練場が近くなるにつれて弟弟子の顔が死んでいくが、いい反応をしてくれる弟弟子は私のお気に入りだ。


「ちょうどいいから見せてあげる、本当の魔法使いの戦いを」

魔術などという玩具では決して及ばない本当の魔法というものを弟弟子に見せるのも姉弟子の優しさだろう私はなんて優しいんだ、そんなことを考えながら私は訓練場に足を踏み入れた。



「来たか…それでお前はなぜそこにいるレオ副師団長」

訓練場には師団長が杖を構えて立っており周りには魔術師団の者たちが立っている。


「戦うのは私とお前の二人だ、他のものは見届け役だよ魔法などというカビの生えた技術と魔術という人の作り出した技術どちらが優れているかのな」


師団長はそういうとニヤリと笑い、最新の魔術杖を構えなおす

魔術杖は戦闘用に作られた魔法陣が刻まれた杖だ。

私が学んだ魔法とは比べ物にならないほど使い勝手は悪いがそれでもかろうじて戦闘用として使えるレベルの魔術を使えるのがこの杖である。


「なんでもいい、魔法と魔術の違いよく見てるといい」

魔術師団に向けて指を向け私は胸を張る。

私は杖を使わない、魔法は脳内で現象を想像し、それを魔力を使って創造するからだ。

私の言葉が開始の合図となり、師団長は杖に魔力を込める、複数の魔法陣が空間に浮かび上がると少しずつ魔力が満ちていく。


「マジッククラッシュ」

私は脳内で展開された魔法陣が壊れることを想像し、魔力を込めてその現象を創造する。

空中に投影された複数の魔法陣はぱりんという音を立てて砕け散るとそのまま魔力は霧散する。


「っ…まだだ」

師団長は続けて別の魔法陣を起動する

空間にわかりやすく魔法陣を浮かべるため、何をしたいのか簡単にわかる、だから魔法使いからすると簡単にその魔法陣を破壊することができる。


「マジッククラッシュ」

「マジッククラッシュ」

「マジッククラッシュ」


その後も師団長が使おうとする魔法陣を砕き続けると、魔法陣の連続展開によりオーバーヒートを起こした杖がひび割れそして折れた。


「ば、馬鹿ななんだこれは……」

師団長は折れた杖を見て愕然と膝をつく

あの杖一本で国の国家予算何か月分もかかる高級品であるため、量産には向かず、それこそが、魔術師が戦闘に向かない理由でもある。


「これからは魔法の時代、魔術は民間の生活を便利にする形で研究するのがいい」

私がむふぅと息を吐きながら伝えるとぱちぱちという手を合わせる音が聞こえる。


「確かに魔法は素晴らしいものだな…だが魔法は簡単に使えるようになるものではないのだろう?」

私の後ろから聞こえてきた声はこの国の王子、第一王子ソレイン様のものだった。

「お、王子なぜこのようなところに」

師団長が王子の来訪に驚き折れた杖を背中に隠す。

もう折れたところを見られてるから無駄だと思うけどと思っていると王子は笑みを浮かべてこちらに向かって歩いてくる。


「うむ、ユウが育てた子供たちが配属されたと聞いてな挨拶ついでに様子を見ておこうと思ってな?」

「ソレイン久しぶり、この間は父に剣を教わりにきた半年前だっけ?」

私がそう言ってソレインに手を振ると周りの全員がまるであごは外れたかのように大きく口を開いて目を白黒させる。


「ソレインは父のファン、何かにつけて遊びに来て父に剣を教わったりお菓子を食べにきたりした、魔法のセンスはなかったけど」

だから弟弟子にはなれなかったと残念そうにため息を吐くと、ソレインも悔しそうな顔をする、魔法が使えればもっと父と会う理由ができたのにと。


「それよりもさっきので分かったと思うけど魔術は戦闘に向かない…私ほどの魔法使いではなくても上位の魔物には魔法の使い手が多くいると聞く、魔術師では戦闘魔術で援護するのは難しい。」


私の言葉にソレインはふむっと頷いて何かを考えている。

そんなソレインに待ったをかけるように師団長声をかける。


「第一王子もおっしゃられたように魔法使いの育成には膨大な時間と優れた才能を持つものしか使い物になりません!そもそも長年魔術を扱ってきたものは魔法を改めて学ぶことは難しいのです、ですからどうかお考え直しを!」


「ふむ、それに関してはマナ何か考えがあるのだろう?」

私に対してソレインが尋ねてくる、もちろんそれについても考えてある。


「ん、魔術学校にいき魔法科を新たに作りそこで新人に教えるここに来るまでは魔術師団に教えるつもりだったけどそっちの方が効率いいかもしれない」

私の言葉にソレインはふむっと頷き、師団長は難しい顔をする、魔術師としてここまで生きてきたプライドが新たに魔法を学ぶことを拒むがかといって魔術と魔法で別れてしまえば魔術に回される予算が減る、どうにかしなくてはと考えているのだろうが私は魔術に軍事費・・・をかけるつもりはない。


「魔術については今後戦闘用の技術を研究するのではなく後方支援としての技術を高めてもらうべき」

父は言っていた、魔術の技術は素晴らしいと、例えば土の魔術具は瞬時に土の壁を作ることができる。

風の魔術具は複数の魔術具を束ねることで気流を乱して空を飛ぶドラゴンやハーピーなどを叩き落とすことができる。

水の魔術具は重たい水を手軽に生み出すことで荷物を減らすことができる。


「…そんなことは民間にさせればよかろう」

不満なのだろう師団長が反論してくる、だがそれではダメなのだ、民間で研究されるのはあくまでも民間で便利に使えるものであり、軍事に使う不便なものが多い。

その為戦場を知る魔術師団が戦場で使うものを作るべきなのだと私にしては熱弁を振るうと、ソレインも理解してくれたのか、わかったと言ってくれた。


「それからこの弟弟子も持っていく、師団長との約束で私が勝ったので師団長の座は私がもらうが、隠居した元師団長には私が魔術学園での仕事を掛け持ちしている間は団長の仕事を手伝ってもらう」


「え?俺っすか?なんで?俺もう魔法使いっすよ?!」

再び魔法の腕で持ち上げると不満を言ってくる弟弟子。こんな魔法を解除もできないダメな弟弟子の分際で何を言っているのか聞く耳を持つ気はない。

そもそもこの程度の魔法は片手間で解除できないくせに魔法使いを名乗るなどありえない、この弟弟子は魔法学校で一人前の魔法使いになれるようにみっちりと鍛え、その後私の代わりに魔法使いとして生徒の育成をさせるのだ。


「え、待ってください姉弟子、ねぇ姉弟子、あねでしいいいいい」

さぁ、父が帰ってくるまでに一人前の魔法使いをたくさん作ろう、そして父が帰ってきたときに驚かせるんだ、そんな楽しい未来のことを考えるとついつい頬が上がってしまう。

兄も妹も頑張っているはずだ、私も負けられない頑張ろう。


この後魔術師団の予算は軍事予算ではなくなり研究費となり、大きく削減され国の財源を助けることになるのだが、それは少し先の話。

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