第2話  そして英雄の物語は始まる

ギルドマスターであるダンカンに呼ばれて僕はそちらに向かっていく。

彼は昔は土の民と言われ現在ではドワーフと言われる種族の、元特級冒険者である。


「どうしたダンカン、僕に何か仕事か?」

基本的には僕が仕事を受けるのは上の階だが、今日は僕がここにいるからわざわざダンカンが来てくれたのだと思うので、こちらから近づいていく

ちなみに僕がダンカンと呼び捨てにしてるのは彼の方から名前を呼び捨てにしてほしいといわれたからだ。


「ああ、アマゾネスの森を知っているだろうユウ」

アマゾネスの森、この王国の外にある共和国近くにある森であり、強い女性が産まれやすいアマゾネスという種族の暮らす森だ。


「子供達も手を離れたし、一度向かいたいと思っていたところだな、あそこには前世・・で倒しきれなかった魔王軍の幹部の一人が封印されてるからな、僕が転生したことを考えても近く目を覚ましてもおかしくない」


僕の言葉にギルドがざわつく、そもそも僕が前世の記憶をもって生まれるときはいつだって近く魔王軍が活動を活発化させる前だった。


つまり今回も魔王がいつ活動を再開してもおかしくないと僕は考えている。


「なるほど、ではギルドマスターとして依頼を出す、ユウお前には国外各地を回って魔王軍の動向を確認してほしい」


「いいのか、マスター、ユウが王国を離れるのは貴族達が困るのでは?」

後ろから僕の背中に覆いかぶさるようにしてシャルが尋ねてくる。

女性らしい体の凸部分が僕の背中に当たるからやめてほしいのだが、そんな僕とシャルを見ながらダンカンは、はんっと鼻を鳴らし


「問題ない、ユウを馬鹿にするようなこの国で無理に働く必要もあるまい」


「そうはいきませんよ、ダンカン殿、王国貴族としてそのような話は見過ごせません」


ダンカンの後ろからダンカンに声をかけたのは、確か副ギルドマスターの何とか子爵家の人間だ、次男だったか三男だったか……?


「その男は王国の特級戦力簡単に国外に出してもらっては困ります、ギルドマスターにもそのことはお話したはずですが?」


副ギルドマスターは眼鏡をくいくいしながらこちらに向かって歩いてくるがその眼鏡を割られながら顔面にギルドマスターのこぶしが突き刺さる、えぇ……?


「ちょっとダンカン?!さすがに殴るのはダメなのでは?」

一応冒険者ギルドだけではなくどこの国にでもあるためどこかの国家に属しているわけではない、とはいえ、そんなことを国の権力者としては戦力を持った集団が国に属さず自由にしているのは認められない。

その為ギルドは必ず所属する国の貴族をギルドの重要役職に就けてある程度コントロールできるようにしているわけだ


「いいんだよ、そもそもユウにあんな罠を仕掛けてきた王国貴族なんぞにこちらが配慮する必要はねぇ、これでギルドと国の関係が悪化するのならそれでいいじゃねえか」


そんなことを言いながら腕を組む鼻息荒く副ギルマスを見下ろすダンカンを見ながら僕は思い出した。

そういえば彼は僕のファンだとか言ってたっけ……

この後ギルドにいる貴族とギルマスを含めた僕のファンの間でひと悶着あったが、僕はいたたまれなくて内容を覚えていないので省略する。




「それでダンカン、改めて話を聞きたいんだけど僕に国外各地を回ってほしいというのは改めて目的を聞いてもいい?」


あの後ギルドの人間を巻き込んで起きた騒動はシャルによって納められた。

ギルドの特級冒険者であり高位貴族の一族である彼女が武力と権力で納めて落ち着いた後僕はギルドマスターの執務室へと足を運んだのだ。


「ああ、ユウに改めて話すのは剣聖に剣を説くようなものだと思うんだが、ユウは今年28歳だ、歴代転生英雄が活躍した歳はおよそ18歳~30歳前後であることを考えると、あと数年で魔王が大規模な活動をすると考えられるだろう?」


「そうだね、僕の持つ記憶の中ではそのくらいの歳が多いかな……僕の全盛期前後じゃないと魔王や幹部と戦うのは厳しいし……」

歴代の魔王や幹部は強い、人類という種が滅ぼされそうになる程度には強力な敵なのだ。


「そうか、そう考えるとやはり今回いまだに何の兆しもみられないというのは異常事態だ、なので向こうからの動きを待つのではなくこちらから動いて状況をコントロールしたいその為にユウには各国を回り現地で以上に対応してほしい。」


なるほどそういうことか、確かに相手の準備が整うまで待つまでもないし事前に魔王軍の戦力を削れるならその方がいい。


「ならばユウよ私もその旅にはついていかせてもらう、断らないな?」

シャルが僕の後ろで僕の肩に手を置いて尋ねる。

肩に置かれた手に込められた力を考えると断るとどうなるかわからないな……


「わかったシャルなら足手まといにもならないだろう」

「俺も一緒に行きたいのだが、さすがにギルドマスターの立場にあるので簡単に仕事を投げ捨ててはいけない、頼んだぞ二人とも」


ダンカンの言葉に頷くと、ふと自分の精神が高揚していたのを感じる。

今まで家で子供達と暮らす日々は悪くなかった。

だがこうやって改めて外に出る相談を始めると自分はやはり冒険者なのだと実感してしまう。

見たことのない風景、食べたことのない食べ物、あったことのない人々、それを想像するだけで気持ちが弾む


「……一つ心配事がある、魔王が復活するならこの国の騎士団で対応できるのかということだ」

ダンカンがこちらを見ながら首をひねる、現在の王都の騎士団は決して弱いわけではない、ただ、一部を除いて貴族であるということが優先されて騎士団として物足りないのも事実だろう。


「大丈夫だよ、だって今日から王国の中枢には僕の子供たちが入るんだから」


僕が育てた3人の子供はそれぞれ騎士団長の息子、魔術師団長の娘、財務長官の娘だ

あの子たちが必ず国の状況をよくしてくれる、それを信じているから僕は外に出てこの世界のために何かを為すのだ英雄として。


「そうか、分かったそれじゃあユウ、また会おう」

ダンカンはそういって男臭い笑いながら手を伸ばしてくる、その手を握り返しながら、再び英雄として冒険へと向かうのだった。


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