第8話 連続エンカウント、鳴りやまない警告音

 グルーデル近郊、南の浜辺。夜。

 もう! せっかく浜辺に来て、特定クエストを調べていたのに邪魔が入った……。

 しかも、またアクディブモンスター。このタイプのモンスターとは初めて戦ったけど、ブリューゲルがいてくれたおかげて勝てた。

 でも、さっきの戦闘では、私はほとんど何も出来ていなかったんだよなぁ。

 それが一番悔しい。

 だから今回は、さっきよりもしっかりサポートをして、役に立つんだ!

 そのためにはまず、魔弾の確認をしないと。

 カチャ。

 シリンダーには炎の魔弾が六発か。けど、やっぱり走りながらだとやりづらい。さっきもそうだったけど、なるべく早く慣れるしかないよね。それで、他の魔弾は?

 氷、雷、地属性の魔弾、合計十八発。ちょっと少ない。

 ピピピッ!

 対象距離、百メートル。討伐対象、コボルト五体。弱点部位、胴体。

 この音、エンカウント合図だ!

 前方に、うっすらとコボルトが見える。戦闘開始だ。魔弾を生成したいところだけど、詠唱するには足を止めなければならない。それに、今回も五体を討伐か。さっきは、属性を調べて拘束させただけだ。

 だけど、ブリューゲルの殲滅力が高いし頼りになる。でも、私が魔法で援護してもダメージは期待できない。

 やっぱり、拘束魔法でしかサポートできないの?

 いや、他にもきっと出来ることがあるはずだ。まずは、このコボルトを倒す。前方に一体。左に一体。右に二体、残り一体はどこ?

 ダメだ、この位置からじゃ見えない。前を走っているブリューゲルの位置からなら見えるかもしれない。聞いてみよう。

「ブリューゲル! ここからだと、残りの一体がどこにいるのか見えない! そっちはどう?」

「いや。まだ、分からん。でも、このエリアなら大岩の裏にいるはずだ! だから、見えているやつから仕留めていく。だが、奴らは奇襲してくるから用心しろ! まずは、左にいるやつからだ!」

「わかった! ついていく!」

「俺は先に行く。セレスディアは属性を調べてくれ……って、自分の判断で動くんだったな?」

「うん! やってみる!」

 さっきの戦闘では何も出来なかった。だけど、多少はサポートのやり方を学べたかもしれないから試したい気分でもある。でも、私に出来ることは限られていると思う。

 だから、どこまで戦えるか試してみたい。

「それなら、レクチャーその三! 俺の……前衛職が戦いやすいように支援系魔法を詠唱して、隙があれば攻撃に参加! それが、後衛サポート職でのPT戦闘の役割でもあり基本だ! 以上! 俺は先に行く!」

「頑張ってサポートする!」

 なるほど。私は後衛だから、その動き方が基本になるのか。だとすれば、常に魔法の射程距離にいるよう行動しないとダメってことか。魔法の射程距離は、全職業共通で五十メートル。ならば、この距離を保つ!

 それに、隠れているコボルトも気になる。そんなモンスターと戦うなんて初めてだし。

 しかも、奇襲もしてくるのか……注意しなきゃ。

 大岩の裏か。大岩は、ここから左側に3個あるからどれかに隠れているのね。でも、それはあとって言ってるし、このままブリューゲルの後ろをついて行こう。

 対象距離、五十メートル。コボルト、五体。

 徐々に、コボルトとの距離が近づいてる。これで、コボルトとの距離は五十メートル。魔法の射程内。まずは、識別魔法を詠唱して、敵の属性を調べることが先決だ。だけど、動きながら詠唱することは出来ない。ここは一旦止まる。

素性すじょうかし、さらけせ。さすればなんじ解放かいほうされる。自供じきょうせよ。いつわりの真実しんじつ

 属性判別、水。魔法リスト、一。リキャストタイム十秒。

 よし。判別成功。けど、相手は水属性か。やばい、水属性の魔弾を持っていない。

 それに、五体を相手に、合計十八発の魔弾じゃ無理。生成してから合流しよう。

ほのおみずこおりかみなりかぜ。これらの属性ぞくせい魔弾まだんりて、何者なにものをもつらぬく。魔弾精製まだんせいせい

 固有スキル承認。

 これで合計三十六発。シリンダーには炎の魔弾が六発。だけど、詠唱していたからブリューゲルとの距離が大分離れた。2回連続で詠唱すると、どうしても時間がかかって動きが制限されるから出遅れる。早く追いかけないと!


 対象距離、三十メートル。水属性、コボルト。

 セレスディアが属性を調べてくれたか。さっきの戦闘で学んだな。となれば、コボルトと同じ属性を付与しながら単体から撃破していき、複数を倒す。一番最後に、隠れている奴だな。さて、あいつセレスディアが拘束魔法以外でどんなサポートをしてくれるか楽しみだな。

 ……ちょっと試してみるか。

みずまといて刀身とうしんる。みず太刀たち

 固有スキル承認。水属性、付与。

 前方のコボルトまで二十八メートル。一気に距離を詰める!

 グルルルッ! シャァァァ!

 対象距離、二メートル。水属性、コボルト。

 案の定、向こうから近づいてきたな。手間が省けた。すれ違いざまに……斬る!

 ダメージ判定、八ダメージ。コボルト、残りライフ、十二ポイント。

 グルルルッ! グルルルッ!

 次はどう来る?

 ……棍棒を使用しての二連続攻撃。これをバックステップでかわして距離を取る。

 グルルルッ! シャァァァッ!

 モンスターの攻撃ディレイ中に反撃詠唱

神速抜刀しんそくばっとうながれるみず四肢ししをもふうじる。おぼれろ。水流みながれ

 固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。残りライフ、二ポイント。

 他のコボルトまでの距離は手前から、三十メートル。六十メートル。六十メートル。隠れている奴はまだ出てきていないか。

 グルルルッ! シャァァァ!

 また、さっきと同じ攻撃パターンか。残念だが、一対一タイマンなら当たらねぇよ。

 ダメージ調整は済んだ。さぁ、セレスディア。おまえさんは、この状況をどうする?

 

 対象距離、四十メートル。水属性、コボルト。

 ブリューゲルはもう戦っている。だけど、追いつけない。いや、後衛からサポートするから、無理して追いつく必要はないのかも。

 だけど気になるのが、水属性コボルトのライフゲージが残り二ポイント。あと1回、攻撃すれば倒せるのにブリューゲルはそうしなかった。理由は分からないけど、多分倒せってことだと思う。でなきゃ、わざわざライフを残さない。この距離からだと、水属性魔法を1回詠唱。魔弾だと届かないし、当てる自信がない。

 ……銃なら命中補正がないけど、攻撃系魔法ならある程度命中に自動補正が入る。

 それなら!

 対象距離、四十メートル。水属性、コボルト。

大気たいきしずく上空そらあつまりやりる。無数むすうやり大地だいちつらぬけ。白蓮水槍びゃくれんすいそう

 水属性、単体魔法。魔法リスト、一。四ダメージ。リキャストタイム十秒。

 パリィン!

 よし。倒せた。これで残り四体。

 ブリューゲルは四十メートル先にいるけど、遠い分、全体がよく見える。ブリューゲルが、次にどう動くか見て行動するんだ!

「見事だ、セレスディア! 次、俺の位置から見て、近い順番に倒していくから全力でついてこい! 何事も経験と慣れだ!」

「わ、分かった!」

 ブリューゲルから近い順ってことは、手前にいるコボルトだ。だけど、この位置からだと七十メートル離れている。有効射程を維持しつつ、全体を把握しながら行動するためにも、五十メートルまで近づく!

 

 対象距離、三十メートル。コボルト。

 次の標的はあいつだ。先に属性を調べて、速攻で倒す。

われまなこすべてを見通みとおし、さらけす。さらせ。先見せんけん真実しんじつ

 属性判別、炎。魔法リスト、一。リキャストタイム十秒。

 炎か。また属性を付与せねばならんか。システム上、ランダムで決まるから致し方がない。……そういやぁ、本格的にこうして魔弾銃士とPT組んだことって今までなかったな……ちょっと新鮮だ。それに、あいつセレスディアはRPG系をやったことが無いとか言っていたが、スジはいいし覚えも早い。こりゃ鍛えがいがあるな。

 しっかりついてこいよ、セレスディア!

 対象距離、二十五メートル。炎属性、コボルト。

渦巻うずまほのお刀身とうしん宿やどれ。炎刃えんじん

 固有スキル承認。炎属性、付与。

 このコボルトは気性が荒いな。攻撃対象と判断すれば、即座に向かって来る。面白い。近接戦は望むところだ。距離、二十三、二十、十五……五メートル。

 グルルルッ! シャァァァ! シャァァァ!

 対象距離、二メートル。炎属性、コボルト。

 一騎打ちだな。頭上から……斬る!

 ダメージ判定、八ダーメジ。コボルト、残りライフ、十二ポイント。

 次の攻撃に備える!

 グルルルッ! シャァァァ! シャァァァ!

 三連続攻撃か。全てかわしてから、ラストの攻撃ディレイ後に斬る。

 1回、2回、3回、今!

 ダメージ判定、八ダーメジ。コボルト、残りライフ、四ポイント。

 これで、相手モンスターのライフは残り四。

 他のコボルトとの距離は、三十メートルが二体。さっきよりも距離が縮まった上に、同時に向かってきている。ってことは、すでにもう俺に狙いを定めて攻撃してくるか。上等だ。それに、俺にタゲターゲットが向けばセレスディアが安全に魔法を詠唱出来る。

 だが、まだ隠れているやつがいるな。どこに身を潜めているかは知らんが、見えているやつから順に倒していき、二人で一緒に探せば問題はない。

 ……セレスディアは?

ほのお――』

 魔法を詠唱中か。それなら、これコボルトはセレスディアに任せて、俺は三十メートル先のコボルト二体に接近する。


 対象距離、五十メートル。炎属性、コボルト。

『――火弓かきゅうりてつらぬく。はなて。業炎ごうえん一撃いちげき

 炎属性、単体魔法。魔法リスト、一。四ダメージ。リキャストタイム十秒。

 パリィン!

 残り三体! ブリューゲルは次のコボルトまで行った。だけど、私の位置からじゃ、同じコボルトまで八十メートルあるから魔法が届かない。

 急いで追いかけよう!

 魔法射程の五十メートルを保っていたら全体はよく見えるけど、前衛職に置いて行かれて魔法が届かない。PTメンバーとモンスターの距離感と位置、この両方を調整するのが想像以上に大変。おまけに、ブリューゲルは次から次へとすぐに行動に移すから、追いかけるのが大変だ。

 これが前衛職の戦い方。おまけに、詠唱が絡むとその分また離される。詠唱時間と距離も把握しながら動かないと、サポートどころじゃない。

 でも、状況は見える。コボルトが二体同時に、ブリューゲルに向かっている。これなら、あと少しで追いつける。射程に入ったら、即座に魔法でサポートする!

 対象距離、五十メートル。コボルト、二体。

 射程に入った。ブリューゲルは、二体のコボルトを相手に戦うところか。

 それに、コボルト同士の間隔が近いし、ブリューゲルもすぐ側にいる。それなら、コボルトとブリューゲルを範囲詠唱でサポート出来る……かも。違う効果の魔法を同時に詠唱するのは前にも一度だけ試したことがあるけど、その時は成功した。

 でも今回は、ブリューゲルにも協力してもらわないと成功しない。いや、そうでなくても成功するかは分からない。

 けど、やってみる価値はある。となれば――。

 

 対象距離、二メートル。コボルト二体。

 魔法がこないな。となれば、射程圏外。まぁ、しょうがない。

 グルルルッ! グルルルッ! シャァァァ! シャァァァ!

 俺はこいつらコボルトに専念。二体に増えたと言え、今まで通り回避しつつ、互いコボルトの攻撃ディレイ後に詠唱、反撃。俺にとってはいつもの流れだ。

「ブリューゲル! お願い! 私の詠唱が終わるまで、なるべく同じ位置で密集させ続けてほしい! 試したいことがあるの!」

 密集? 試す? 詠唱? こいつセレスディア。突然、何をいいだすんだ?

 ……だが、面白れぇじゃねぇか。何を考えてるかは知らねぇが、あいつセレスディアが何をしようとするのか見てみてぇ。

「密集させればいいんだな! 任せておけ!」

 グルルルッ! グルルルッ! シャァァァ! グルルルッ!

 ほら。こっちだ。こっちへこい。

 グルルルッ! グルルルッ!

 この感じ。まるで、盾職をやっている気分だな。……たまには、いいか。あとは、あいつセレスディアの詠唱が終わるまでこの位置で固定。

われなんじ自壊じかいする。なんじ拘束こうそく地獄じごくいざなう。全知全能ぜんちぜんのうれる術無すべなし。自白じはくせずともすべてを見通みとおし、なんじさばく。さばきをくだすはなんじ眼前がんぜん一太刀ひとたちびればなんじ消失しょうしつ一太刀ひとたちびればなんじ滅却めっきゃく複合魔法ふくごうまほう全能ぜんのうさばき、無慈悲むじひなる一刀いっとう

 属性判別、炎。属性判別、雷。拘束魔法、コボルト、炎、雷。十秒間、行動不能。

 拘束魔法。リキャストタイム終了まで、詠唱不可。

 付与魔法、ブリューゲルに付与。十秒間、固有スキル、二ダメージ追加。

 魔法リスト、三。リキャストタイム十秒。

「……おいおい、ウソだろ。拘束、識別、付与魔法を同時に詠唱しやがった……」

 試したいことって、これのことかよ。このゲームスペルマジックは、職業毎に固有魔法が決まってる。

 だから、それ以外の魔法は詠唱できない。だが、セレスディア魔弾銃士はそれが可能……。

「ブリューゲル、ありがとう! おかげで成功した! 私は隠れているコボルトを探しに行くね!」

「あ、あぁ。分かった」

 ふぅ。全く……大した新入り初心者だぜ。あいつセレスディアが作ったこの時間十秒間は無駄にしちゃいけねぇ。

 一人で行動させるのはちと心配だが、これだけ機転が利けば、多分一人でも大丈夫だろう。俺もこいつらコボルトを倒して、残りを探すとしようか!

 対象距離、一メートル。炎属性、コボルト。行動不能。

神速抜刀しんそくばっとう剣技けんぎまえひざまずけ。ほふれ。二ノ太刀にのたち

 固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十八ダメージ、追加ダメージ二。

 パリィン!

 対象距離、一メートル。雷属性、コボルト。行動不能。

雷纏かみなりまといて刀身とうしんる。雷刃らいじん

 固有スキル承認。雷属性、付与。

神速抜刀しんそくばっとうとどろ雷鳴らいめいほとばし雷神らいじんれ。神雷一閃じんらいいっせん

 固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十八ダメージ、追加ダメージ二。

 パリィン!

 よし、片付いた。残すは一体。さて、セレスディアはどこに行った?

 ……左側の大岩らへんか。それにまだ、エンカウントはまだしていないみたいだ。良かった。奇襲を受ける前で。

 いや……まて、その近辺の森はコボルトの住処だ。

 今、奇襲を受けたらエンカウント率が高くなる。セレスディアとの距離は、八十メートル。早く伝えねぇと!

「セレスディア! 今すぐ、その岩から離れてこっちへこい! その周辺は、コボルトの住処だ!」

「分かった!――きゃっ!」

 ドサッ!

 ダメージ判定。セレスディア、六ダメージ。残りライフ、十四ポイント。

 ダメージ判定だと! ちぃ、奇襲を受けたか! 遅かった!

「セレスディア、大丈夫か! どこから狙われた!」

「わ、わからない! システムに表示されない!」

 うかつだった。最初に伝えておくべきだった! それにあの時、呼び止めておけばこの事態は防ぐことが出来た。この失態は、完全に俺のミス。

 指導者、失格だ。

 ピピッ! ピピッ!

 対象距離、八十メートル。コボルト。

 奇襲告知! 八十メートルってことは、セレスディアのすぐ近く。

 急げ!

「セレスディア! 今は、避ける事だけ考えろ! すぐにそっちに行く!」

「う、うん!」


 ピピッ! ピピッ!

 対象距離、一メートル。コボルト。

 どこから攻撃されたか、全く分らない……。たしか、岩の裏を覗こうとして、気が付いたら――。

 グルルルッ! シャァァァ!

 危ないっ! 何とか、避けられた。今は考えるな!

 グルルルッ! シャァァァ!

 またっ! こいつコボルト、ベアウルフよりも……強い!

 これじゃあ、詠唱や攻撃もしている暇がない。おまけに、動きが速くて狙いがあわせられない。エンカウントして、システムが教えてくれるから何とか避けられるけど、押されている!

 グルルルッ! グルルルッ! シャァァァァ!

 棍棒を振り上げた? え? 3回? 3回も一気に攻撃?

 システムはどこを示している? どこ? はっ、足元! 後ろに下がる!

 次、やばい。一気に距離を詰められた。……ダメ。避けきれない!

 ダメージ判定。セレスディア。二連続攻撃、ヒット。十二ダメージ。

 残りライフ、二ポイント。

 ビッ! ビッ! ビッ!

 ピンチだ。もう、ライフが二ポイントしかない。ブリューゲルは、こんなのを二体同時に相手していたのか……しかも、変な音が急に鳴りだしたし。

 グルルルッ!

 考えるな! 避け続けろ、私!

 接近戦は、合気道とエレメントフィストで鍛えたでしょ!

 ビッ! ビッ! ビッ!

 1回だけの攻撃なら避けられるけど、致命的なのはエレメントフィストのように上手く身体アバターを動かせない! これは想定外!

 ビッ! ビッ! ビッ!

 あぁ、もう。さっきからうるさいなぁ。この音。

 グルルルッ! シャァァァ!

 音で気が散る。でも、この音、今は無視。気にしちゃダメ。

 集中するのはコボルト!

 グルルルッ! グルルルッ! シャァァァ!

 狙いが定まらないけど、数撃てば当たるかも。ぐぅ、銃口は向けられるけど、動きが早すぎて狙いをつけられない。この、右から左へちょこまかと。動かないで止まってぇ。はっ、少し動きが止まった……今しかない!

 だけど、私まで止まっていたら確実に狙われる。動きながら、感覚で撃つしかない!

 ダメージ判定。コボルト、回避。

 全弾……外れた。やっぱり、動きが早すぎて狙いがつけられない。

 グルルルッ! グルルルッ!

 今度は、2回も攻撃してくるんかい! 気合で避けろ! 1回、2回。ギリッギリ、避けられた。やばっ、体勢が……次、攻撃されたら、多分避けられない。ちょっとヤバイかも……。

 ビッ! ビッ! ビッ!

 グルルルッ! グルッ? グルッ?

 えっ? コ、コボルトの動きが、止まった?

 ダメージ判定、四ダメージ。コボルト、残りライフ、十六ポイント。

 え? ダメージ判定? ……あ、ブリューゲルが、来てくれた!

「すまない! 遅くなった! 後は俺に任せて、ここから離れた場所で回復魔法を詠唱!」

「わ、分かった! ありがと!」

 助かった! もう少しでやられるところだった! 早くここから離れて、回復魔法だ!


 対象距離、二メートル。コボルト。

 グルルルッ! シャァァァ! グルルルッ!

 三連続攻撃。当たらねぇよ。その攻撃パターンは、すでに把握済みだ。

 ……まずは、左の足元へ棍棒、反復して右の足元へ棍棒、最後は棍棒で腹部を突――く! ヤバイ! もう一度、足元だと! かわし……きれねぇ!

 ダメージ判定。ブリューゲル、六ダメージ。残りライフ、十四ポイント。

 こいつコボルト……俺の行動を学習して、攻撃パターンを変えやがった……けどな、連続攻撃後のディレイ連続攻撃した後の隙までは変えようがねぇよなぁ!

 ダメージ判定、四ダメージ。コボルト。残りライフ、十二ポイント。

「ブリューゲル!」

「俺は大丈夫だ! それよりも、グルーデルの方へ行き早く回復を!」

「う、うん!」

 くそっ! 想定外の攻撃で、咄嗟に詠唱出来なかった。俺のライフはまだ余裕あるが、セレスディアが危険だ。早めくコイツコボルトを倒さなければ。俺の行動を学習されたのだったら、俺もまたコイツコボルトを学習すればいいだけの話。……ふぅ、仕切り直しだ。

 俺自身でパターン行動パターンを見極めて、システムに学習させないと表示はされなくなる。

 次の攻撃を見極め、かわし、コンボ連続攻撃を叩き込む。

 それでこいつコボルトのライフは残り二。そしたら、通常攻撃で仕留める。

 グルルルッ! グルルルッ!

 来た。お次は、二連続攻撃か。どの攻撃パターンでくるか、見極める。

 1回、2回。よし、かわせた。ここは、いつものパターンに似ている。セレスディアは……二十メートル圏内……グルーデル方面。ひとまず、安心。ちょっと遠いが、回復後、即座にグルーデルへ移動だ。

 グルルルッ! グルルルッ!

 だが、その前にこのコボルト。これは単発だけの攻撃。バックステップでかわして攻撃。

 ダメージ判定。コボルト、回避。残りライフ、十二ポイント。

 かわされた、だと……はっ、俺の行動を学習したからか!

 ピピピッ!

 対象距離、五十メートル。コボルト、五体。

 ちぃ、このタイミングで連続エンカウントかよ! どこからだ!

 ……後ろ側にある森の方。幸いにも、セレスディアとは反対方向だ。それなら俺がタゲターゲットを取りにいき、あいつセレスディアグルーデルまで避難させよう。

 ……まずい!

 今ここであいつセレスディアが回復使ったら、ヘイト稼い敵対値上昇でそっちにタゲターゲットが集中しちまう!

 グルルルッ!

 はっ! あぶねぇ。ギリかわせた。早く伝えないと!

生命せいめい息吹いぶき神秘しんぴなる――』

 やばい! もう、詠唱している!

「まて! セレスディア! 詠唱を」

『――かがやきをってわれいやす。祝福しゅくふくいのり』

 完治魔法。セレスディア、二ポイント回復。残りライフ、四ポイント。

 セレスディア、敵対値ヘイト上昇。魔法リスト、一。リキャストタイム十秒。

 しまった! 遅かった!

 「ブリューゲル! 回復したよ! それに、またエンカウントした! 今度も同じ五体!」

「距離は!」

「七十メートル!」

 グルルルッ! グルルルッ! シャァァァ!

 はっ! いかん! 二連続攻撃! 気を取られて対応が遅れた!

 1回、2……くっ。

 ダメージ判定。ブリューゲル、六ダメージ。残りライフ、八ポイント。

 ちぃ。俺としたことが不覚。

 グルルルッ? グルルルッ? グル?

「ブリューゲル! ライフが!」

「問題ねぇ!」

 とは言ったものの、この状況をどうするか。

 いや、待て。コボルトが俺への攻撃をやめた……ってまさか!

「今から、拘束と付与魔法でサポートする! そいつを倒して、新しいコボルトをやっつけよう!」

「速攻でグルーデルへ逃げろ! エンカウントしたコボルト全部が集団でそっちに行く!」

「え、え、どういうこと?」

「話している暇はない!」

 くそったれ! これは完全に想定外だ! 急いであのコボルトを追いかけねぇと!

 俺がタゲ取ってヘイト敵対値稼いでいるから、タゲが飛ばず別のプレイヤーに攻撃するに回復を使っても大丈夫だと思っていたが考えが甘かった。あの職魔弾銃士は、全ての魔法効果が半減するんじゃなかったのかよ! これじゃまるで、防御系と回復系魔法並みのヘイト敵対値上昇じゃねぇか!

 中途半端にしやがって。ヘイト敵対値上昇だけをみれば、元々の効果が適応されるってか!

 回復職だってまとも――。

 ……………………

 ………………

 …………

 ……いや。悪いのはそういう仕様に設定した運営であって、セレスディアは悪くない。

 それに、回復魔法を詠唱しろって言ったのは俺だし、セレスディアはまだ最近始めたばかりの新入り初心者だ。……ここは冷静になれ。

 セレスディアとの距離は八十メートル。前方のコボルトは五メートル。新手のコボルト五体は、四十メートル。俺一人で何とかしねぇと。

 何が、いっちょ前にレクチャーしてやる。だよ! 急げ!

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