第9話 魔弾銃士の可能性と限界値
対象距離、六十メートル。コボルト、五体。
ビッ! ビッ! ビッ!
何でか分かんないけど、エンカウントしたコボルトが一斉に私の方へ走ってきてる……。取り合えずブリューゲルから言われた通り、グルーデルに向かって走っているけど、状況が理解できていない。
何でこうなった? 私は新しいコボルトを倒そうと思っていたのに。
……直接、聞いてみるしかないか。
「ね、ねぇ。ブリューゲル、さっき集団で襲われるって言ってたけど何でなの?」
「回復魔法の
ビッ! ビッ! ビッ!
……回復魔法にそんな効果があったのは、知らなかった。……だから、コボルトからいっぺんに襲われているのね。それでブリューゲルは逃げろと。
だとすると、これは私が招いた結果……ってことだよね。でも、この状況で私に出来ることと言ったら何が出来るだろうか。
ビッ ビッ ビッ!
もう! 考えたいのに、さっきから鳴りっぱなし。この音が気になって全然集中できないよぉ。
「ねぇ、さっきから変な音が鳴ってる! 何でなの?」
「ライフが八ポイント以下になると鳴る! 音は気にせずひたすら走れ!」
「わ、分かった!」
八ポイント以下か。今の私のライフは、残り四ポイント。……ってことはだよ、完治魔法をあと3回詠唱しないと消えないのか……長い。もし回復しようとすると、魔法の効果でさらに襲われるってことだよね。はぁ、気になるけど、無視するしかないか。
ビッ! ビッ! ビッ!
とりあえず、今のところはグルーデルまで走ってるけど……敵前逃亡みたいで何だか嫌だなぁ。ちょいちょい、後ろを振り返りながら走ってるけど、めっちゃ追いかけてくる。
魔法でサポートしたいけど、ここからじゃ届かない。でも、ブリューゲルもこっちへ走ってきてる。もしかしたら、今ここで私が拘束魔法を詠唱すれば、ブリューゲルが倒してくれるかもしれない。距離は離れてるけど、走るスピードを少しだけ落として詠唱すればまだ大丈夫。だとしたら、ここは。
「ブリューゲル! これから、近くにいるコボルトへ拘束魔法を詠唱する! そうすれば数を減らせる!」
「正気か!」
「うん! だって、これは私が回復魔法を使ったからこうなったんでしょ? 大丈夫! 距離はまだ離れてる!」
「……分かった。俺は、それに合わせてスキルを使う。ただし、その後は走れ」
これは、私が招いた結果でもある。これ以上、ブリューゲルに迷惑はかけたくない。大丈夫。例え残りライフが少なくても、近づかれなければダメージは受けない。だから、せめて考えられる方法を試す。
対象のコボルトまでは、五十五メートルか。少し詠唱を遅くすれば魔法は届く。
『
拘束魔法。十秒間、コボルト、行動不能。リキャストタイム十秒。
リキャストタイム終了まで、詠唱不可。魔法リスト、一。
「ブリューゲル!」
「おう!」
『
固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。
「もういっちょう!」
『
固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。
パリィン!
……すごい。私が拘束したコボルトを、あっという間に倒しちゃった。しかも、属性を調べてない状態でだよ。いや、それだったら私にだっても……できる。
「走れ!」
残りは五体か。走れって言われたけど……さっきと同じように順番に拘束させていけば、ブリューゲルなら倒してくれるよね。きっと。
……コボルトまで五十メートル……この距離なら、詠唱5回分の時間はある。
「何をしている! そのまま
「やだ! やっぱりここで倒そう! 追いつかれるまで、まだ時間はあるから平気! 拘束魔法を連続で詠唱するから、あとはお願い!」
「何を! 同時に相手にするのは危険だ! ここまで来たら、他に逃げ場はないぞ!」
「分かってる! だからお願い!」
「分かっているなら」
『
対象距離、三十メートル。コボルト、五体。
『
『――
拘束魔法。十秒間、コボルト、行動不能。リキャストタイム十秒。
リキャストタイム終了まで、詠唱不可。魔法リスト、一。
「ブリューゲル!」
……俺があの時、回復魔法を詠唱しろって言わなければ、防ぐことは出来た。これは俺のミスでもある。でも、セレスディアは倒すと言った。戦うとなれば、俺が
「早く! 拘束させたよ!」
こんな時、俺が拘束魔法を詠唱出来れば、一番いいんだが。
……拘束魔法か。そういやさっき、なくても困ったことがないとかセレスディアに言っていたっけか。……前言撤回。制限付きだが、この場では極めて重要な魔法だ。
「早く! 拘束終わっちゃうよ! もう! 次、詠唱するよ!」
セレスディアが今の状況をどれだけ理解しているかは知らんが、それでも戦うことを選んだ。
「ごめん! 詠唱出来なかった! どうしよう!」
……だから、逃げろって言ったんだがな。いや、魔法についての説明とかしていなかったからな。……バカなのは俺か。
……アイテム
「ねぇ。、ブリューゲル! どうしたの!」
「いや。ちょっと、考え事をな。……セレスディア、二人でコボルトを倒すぞ! コボルトとの距離は、最低でも十メートルは維持しろ!」
「わ、分かった!」
まさかコボルト相手に、こんなにも苦戦をするなんて思いもしなかったぜ。……これは、
だが、今はいい。
まずは、状況を整理。
「セレスディア! 順番に拘束させて時間を稼いでくれ!
「分かった!」
まず最初に狙うは、セレスディアが拘束させたやつ。一気に、距離を詰める。
……だた気がかりなのは、同じ攻撃を繰り返す戦い方になる。俺がやられたように、セレスディアの行動を
対象距離、四十メートル。コボルト、四体。
ビッ! ビッ! ビッ!
『
拘束魔法。十秒間、コボルト、行動不能。リキャストタイム十秒。
リキャストタイム終了まで、詠唱不可。魔法リスト、一。
これで一体を拘束できた。問題なのは、この十秒間で何をするかだよね。ブリューゲルは、連携が大事って言っていし、十メートルまでは接近されるなとも言われた。
『
……私が魔弾で攻撃するためには、三メートルまで近づかないとダメ。
今は、魔法だけで何とかするしかない。
『――
固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。
コボルト、行動不能。残りライフ、十ポイント。
……ブリューゲルの行動は速い。拘束させたと思ったら、すぐに固有スキルを詠唱した。倒しやすいように属性を調べようにもランダムだから、今この場で詠唱するべきではないよね。
ビッ! ビッ! ビッ!
……迷っている暇なんてない!
こうして考えているあいだにも、コボルトは私に向かってきている。今はまだ、拘束魔法を詠唱できないけど、別の魔法を詠唱すれば拘束魔法のリキャストタイムが終わる。ブリューゲルをサポートしたあと、終了と同時に詠唱しよう。
『
付与魔法、ブリューゲルに付与。十秒間、固有スキル、二ダメージ追加。
リキャストタイム十秒。魔法リスト、一。
「助かる!」
ビッ! ビッ! ビッ!
コボルトとの距離は三十メートル。まだ、安全な距離。少し距離が縮まっちゃうけど、ここで詠唱しなければ倒せない。
『
識別魔法。属性判別、風。リキャストタイム十秒。
拘束魔法。風属性、コボルト。十秒間、行動不能。リキャストタイム十秒。
リキャストタイム終了まで、詠唱不可。魔法リスト、三。
「ナイスだ! セレスディア!」
ビッ! ビッ! ビッ!
これで二体拘束。近づかれちゃったけど、属性を知ることが出来た。……最短で詠唱すればあまり近づかれない。詠唱できるのは2回だけか……だけど、ここで詠唱しないと……ブリューゲルと連携できない。迷ってる暇……ないよね。
対象距離、二十メートル。風属性コボルト、行動不能。
『
ダメージ判定。単体魔法。八ダメージ。残りライフ、十二ポイント。
リキャストタイム十秒。 魔法リスト、四。
『
ブリューゲルも同じコボルトに詠唱した。これで倒せる。
『――
固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。追加ダメージ二。
パリィン!
対象距離、二十メートル。コボルト二体。
ビッ! ビッ! ビッ!
やっと一体倒せた。これで、残るコボルトはあと四体。リキャストタイムは?
よし。1つ終わった。これで魔法リストは三。だけど、拘束魔法が詠唱できない……ここは。
『
識別魔法。属性判別、雷。リキャストタイム十秒。魔法リスト、四。
「ラッキーだな! 同時に仕留めるぞ!」
やった! 雷属性! あとは、リキャストタイム終了と同時に拘束魔法だ。
…………
……これで2つ終了した!
『
拘束魔法。雷属性、コボルト。十秒間、行動不能。リキャストタイム十秒。
リキャストタイム終了まで、詠唱不可。魔法リスト、二。
「任せろ!」
『
ブリューゲルが詠唱しているあいだに、距離を取って次の詠唱に備える。
『――
固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十八ダメージ。
雷属性、コボルト。行動不能。残りライフ、二ポイント。
『
単体魔法。雷属性、コボルト。四ダメージ。リキャストタイム十秒。
魔法リスト、三。
ビッ! ビッ! ビッ!
パリィン!
これで、二体倒せた!
「セレスディア! この先、最悪は拘束魔法が通用しなくかもしれん! もしそうなったら、別な方法で倒すぞ!」
ビッ! ビッ! ビッ!
対象距離、十五メートル。コボルト、一体。
魔法リストは三……これなら、拘束と識別魔法を詠唱できる……けど、コボルトとの距離が近い。
でも……間に合う!
『
識別魔法。属性判別、炎。
拘束魔法。コボルトが解除魔法を詠唱し、拘束を無効化。
リキャストタイム終了まで、詠唱不可。詠唱上限。
ビッ! ビッ! ビッ!
『
……え、ウソ……でしょ? モンスターが魔法を、詠唱したなんて。……聞いてないよ。あ、さっきブリューゲルが言っていた通用しなくなるってこれのこと。
だけど、コボルトの動きが……完全に止まった?
『――
固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。
「
……それで動きが止まったのか。ここで倒せれば、コボルトはいなくなる。出来る限り、最短で詠唱しないと! でも詠唱……できない。
ビッ! ビッ! ビッ!
…………
……1つ、終わった!
対象距離、十メートル。炎属性、コボルト。
『
単体魔法。炎属性、コボルト。四ダメージ。残りライフ、六ポイント。
リキャストタイム十秒。詠唱上限。
残り六ポイント! だけど、ダメージ量が少ない……もう一度、攻撃魔法を詠唱したくてもできないし、倒せない。……どうすれば。
属性を調べてダメージ量を増やしても、効果は期待できない。
『
ブリューゲルはいいなぁ。固有スキルをたくさん使えるし、攻撃回数も制限がなくて。たくさんダメージを与えることが出来て。
『――
固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。
パリィン!
「セレスディア! これで三体倒した! 残りの二体を倒すぞ! 拘束魔法は通用しないから、別の方法を探せ!」
ビッ! ビッ! ビッ!
拘束魔法が通用しないんじゃ、対抗することができないかも。だって、私は一体も倒せてないんだよ。
「良く持ちこたえた! 残りの二体を倒すぞ!」
無理だよ……ブリューゲル。ダメージ量が違いすぎるよ。
「しかし、よくあの場で逃げずに戦うことを選んだな! セレスディアの覚悟、見せてもらった! 次は、魔弾銃士の可能性を見せてくれ!」
覚悟、可能性……か。最初は楽勝だと思って意気込んでたけど、今じゃ心が折れそうだよ。……もしも私が
ビッ! ビッ! ビッ!
……………………
………………
…………
……ここで落ち込んでどうすの、私!
最初は逃げろって言われたのに、反抗して倒すって言ったのは私でしょ! だからブリューゲルが協力してくれた。
今は何も出来ないけど、もっと知識をつけて、もっと経験して、
ボードゲームやエレメントフィストでも、最初の頃は1回も勝てなかったじゃない!
それと同じだ!
魔弾銃士は、全職業の魔法を詠唱できるけど効果が半減される。だから、その中で状況にあった魔法を詠唱するんだ!
魔法のダメージ量が少ないのなら、モンスターに近づいて魔弾で攻撃すればいいじゃない!
くよくよするのはやめよう……ブリューゲルはもうコボルトと戦ってる。だけど、さっきみたいにコボルトは私に向かってこなくなった……これなら、安心して魔法を詠唱できる。……いや、私に注意が向いていないのなら、接近して魔弾で攻撃できるかもしれない。モンスターに倒されちゃうかもしれないけど、玉砕覚悟でやってみる!
ブリューゲルが待っている。
急げ!
対象距離、十メートル。コボルト二体。
残すは二体。俺がぼさっとしてたから、一体だけダメージを与えてなかった。だが、残り一体のライフは十ポイント。
最初は、
今度
それに、
……反撃開始。と言いたいところだが、俺のスキルもどこまで通用するか。
……そのためには、俺も
距離、二メートル。コボルト、二体。
まずは、通常攻撃から様子を見る。
ダメージ判定。コボルト、四ダメージ。残りライフ、六ポイント。
回避はされずか。
グルルルッ! グルルルッ!
……二体同時攻撃。バックステップで躱して、スキルを詠唱。
『
固有スキル承認。
ダメージ判定。コボルト、回避。残りライフ、六ポイント。
「ブリューゲル! そのままコボルトの注意を引いていて! 接近して倒すから!」
「それは出来るが……接近って、正気か?」
「うん! だからお願い!」
おいおい、あと1回でも喰らったらお終いだってのに……だがこの展開、さっきとかわんねぇな。面白い。
『
ん? ここで識別魔法? 対象は
『――さらけ
属性判別、風。魔法リスト、一。リキャストタイム十秒。
対象距離、五メートル。コボルト、二体。
ビッ! ビッ! ビッ!
コボルトの注意はブリューゲルにお願いした。あとは、私が魔弾をコボルトに当てることが出来れば、倒せる!
『魔弾装填、雷』
走りながらだと、上手くリロード出来ないから……いや、この動作も慣れないとダメだよね。時間はかかったけど、無事リロードできたし、射程にも入った。この
大丈夫だ。コボルトは私を見ていない。……こうやって、間近で観察していると、攻撃と攻撃の合間でわずかに動きが止まっている。その瞬間を狙えば、当てられる。
……落ち着け……敵に照準を合わせて、トリガーを引く。
……魔弾銃士は、全職業の中で、最も攻撃速度が速い。……今。
ダメージ判定。コボルト、六ダメージ。
パリィン!
『魔弾装填、風』
カチャ。
ダメージ判定。風属性、コボルト。二十四ダメージ。
パリィン!
「ふぅ。全部倒せたぁ! ありがとう! ブリューゲル!」
「よくやった! セレスディア! 流石は、最速を誇る攻撃速度――っと色々と言いたいとこはあるが、話の続きは街へ戻ってからだ。このまま一気に走るぞ。また、エンカントされちゃかなわん」
「わかった!」
始まりの街、グルーデル。酒場、昼。
「いやぁ。宿屋でライフも全回復したら、変な音が鳴らなくなってよかったあ」
「お疲れさん。最後は痺れたぜ。しかもあの芸当は、俺じゃ――っていうか、他の職業じゃ真似はできないぜ。魔弾銃士だけの特権だな」
最後かぁ。あの時は、無我夢中だったからあんまり覚えてないけど、 魔弾がコボルトを撃ち抜いて、砕け散った光景は鮮明に覚えてる。
「……なぁ、セレスディア。あのよ……今回は危険な目に合わせてしまって、すまない。俺がレクチャーしてやるとか言ってたのに、説明しなくて。しっかり説明をしていればこんなことにはならかった……本当に申し訳ない」
え、え。別にブリューゲルが謝る必要ないよ?
「そ、そんな。謝らなくていいのに。だってあれは、私が回復魔法の効果を知らないで使ったからああなった訳で」
「いや、しかしだな――」
「もう。終わったこと。無事に帰って来られたんだし、それでいいじゃん……ダメかな?」
「……すまねぇな。セレスディア。申し訳ない……ありがとう」
「気にしないの」
ブリューゲル、あのこと自分のせいだと思っていたのね。まぁ、あれは私の知識がなかったから。でも、学べたことはたくさんあった。
魔弾銃士は、魔法のダメージ量が期待できない。だから、場面に合わせて魔法を選んで、トドメは魔弾で倒すのがいいのかも。一人でベアウルフと戦った時は、全部魔弾で倒していた。後衛職だからといって、一人でもPTを組んでいても、後ろからサポートをするんじゃなくて、近接戦をメンイに戦う職業なのかもしれない。
けど、それを出来るようになるには、魔弾の射程距離を延ばすこと。
魔弾を確実に、当てられるようになること。
そのためには……まず銃の扱いに慣れるのと、モンスターの動きをよく観察しなきゃだ。あとは、スペルマジックでの
がんばるぞー。
「ん? どうした? そんなに嬉しそうな顔して」
「え、そんな顔……してた?」
「ああ。すごく嬉しそうだったぞ。まっ、またPT組みたくなったらいつでも言ってくれ。いつでも歓迎するぜ」
「うん。その時はよろしくね。ブリューゲル」
やることは多いぞぉ。魔法の追加効果も徹底的に調べないとだよね。
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