第7話 初めてモンスターから襲われました
グルーデル近郊、南の浜辺。夜。
私たちは偶然発見した、謎だらけな特化クエストのことを調べるために夜の浜辺に来た。
太陽の日が沈み、夜の海を照らす月がとても綺麗だ。
ほんのりと明るい浜辺を闇雲に何かを探しているのだが、よく考えたら何を探せばいいのかも分かっていない。
アイテムなのか、モンスターなのか、クエストに関連するキーワードを言えばいいのかさっぱりだ。二人で手分けして、可能な限り浜辺を探索するが、有益な情報を発見することもなければ、その痕跡さえも見つける事さえ出来ない。
だって、特定クエストのリストを幾度となく開いてみても、そこに書かれているのは「海」の一文字だけなのだから。
「もう! なーんにも、分かんない! 海って何よぉ」
「手がかりがつかめねぇ、か。海ねぇ。てかよ、いまさら何だが、ここって浜辺だよな?」
「あ、確かに……で、でも! 何かヒントになるものもあるかもじゃん?」
「まだ、見つけていないけどな」
「言わないで!」
私は少し休憩がてらにその場で座り暗闇の海を眺めた。
「ねぇ、ブリューゲル。海の中に潜れたりするの?」
「いいや。残念ながらそれは無理だ。一応、入れるがひざ下までしか行けない」
「よし、行ってみよう!」
「行くなら朝になってからにしてくれ。この時間帯じゃ何も見えん」
「で、でも!」
ピピピッ!
「え、この音、敵? 何で? クエストは受けてないよ!」
「アクティブモンスターだ。気をつけろよ。そいつらは、
「え、ちょ、聞いてない! ちょっと心の準備が」
「切り替えな。……丁度いい。レクチャー開始だ。PT戦での基本的な立ち回りを教える。俺が倒すから、セレスディアはサポートに専念。指示は伝える。だが、攻撃出来ると思ったら参加してもいい。できるな?」
「う、うん。分かった! そ、そういえばさ、ブリューゲルの職業って、何?」
「ん? あぁ、そういえば言ってなかったな。俺の職業は、前衛近接職の侍だ!」
ブリューゲルがそう答えると、彼の腰の辺りから一本の刀みたいなものが表示されたとともに、かすかに見えるモンスターに向かって一直線に走っていった。
ピピピッ!
対象距離、十五メートル。討伐対象、五体。
「レクチャーその一! モンスターとの戦闘状況やあらゆる情報はPTメンバー全員に共有される。表示のされかたは
「わ、わかった! で、でも、何で十メートルなの?」
「全職業共通で、固有魔法の最大射程距離だからだ!」
「はい!」
私は、急な展開だったのでちょっと焦っていた。だけどこうして、ブリューゲルの背中を見ながら走っていくうちに、段々と落ち着いてきて不思議と安心もできた。となれば、まずは状況を整理しつつ、
そうすれば、私の職業が他の職業よりもどの部分が劣っている理由が分かるかも。
……ブリューゲルは腰に手を当てたまま走ってる。よし、私は銃を構えよう。
私がホルスターから銃を抜くと、所持している魔弾の合計数が表示された。
炎、水、氷、雷、地属性の魔弾、合計三十六発。
ふむ。って、ことはシリンダーには風の魔弾かな? 残弾数は?
シリンダーを開いてっと。
カチャッ。
風の魔弾が二発、か。中途半端だなぁ……。しかも、毎回こうやって確認するのか……もしかして。あと、走りながらだとやりづらい……。うん、慣れよう。
対象距離、十メートル。
ん! この距離。戦闘開始だ! それに、モンスターがはっきり見えてきた! 前方に三対。左に二体。ど、どうすれば!
「レクチャーその二! セレスディアは、そこから左側にいる二体の属性を識別魔法で調べてくれ! ゆっくりでいい! 調べ終わったらまた伝える! PT戦闘中も距離がはなれていても会話は出来るし、聞こえるから問題はない!」
「わ、わかった!」
わあぉ、そのまま突っ込んでいった。……って、当たり前だよね。私も、ちゃんとサポートしないと!
対象にする二体のモンスター同士の間隔は約一メートル。ここは確実に決めないと!
一呼吸ついたあと、私は詠唱した。
『
属性判別、炎。属性判別、氷。魔法リスト、二。リキャストタイム十秒。
対象モンスター、コボルト。弱点、胴体。
よし! 上手くいった!
「上出来だ、セレスディア。まさか、範囲詠唱をするとは思っていなかった。嬉しい誤算だ」
「ありがと。待機したあとはどうすればいい?」
「いや、予定変更だ。俺のところまで来たら、範囲詠唱で残り三体の属性を判別。ただし、詠唱中は動けなくなるから場所を選んでくれ」
「分かった!」
次は、三体を同時に調べるのか。さっきよりも、より長い詠唱になるから慎重に場所を選ばないと。
私は指示に従い、ブリューゲルの行動を見ながら、詠唱をするのに最適な場所へ全速力で走った。
すると、弱点部位に2回攻撃したあとで彼の動きが止まった。
『炎を
固有スキル承認。炎属性、付与。
……すごい。属性を付与してから弱点部位に2回しか攻撃していないのに、もう
あと2回、弱点に攻撃すれば倒せる。でも、合計攻撃回数は6回で私と一緒だ。わ、言ってるそばからもう倒しちゃった。私ならここでリロードしなきゃダメ。だけど、ブリューゲルはすぐに氷属性のゴブリンに2回攻撃している。しかも、属性が違っても弱点部位ならダメージ計算は同じなのか。
これで
『
固有スキル承認。氷属性、付与。
これで、モンスターと同じ属性を付与した。弱点部位に、あと4回攻撃すれば倒せる。
……あ、しまった! 早く。残りの属性を調べなきゃ!
対象距離、八メートル。
三体を同時に対象するためには、中央にいる奴を狙っても半径五メートル……。それ以外を対象に詠唱するとさらに範囲が広くなり詠唱するのに時間がかかるし、戦うどころじゃない。でも、今ならまだ大丈夫。五メートル……か。さっきよりかなり広い、けど、迷っている暇はない。考えるのは詠唱だ。
私は、深い深呼吸をした。
『
属性判別、水。属性判別、雷。属性判別、雷。魔法リスト、三。リキャストタイム十秒。
よし! 成功した! それに私が、詠唱している間に倒していた。これで残り三体だ。
「よくやった! 俺は雷二体を仕留める! セレスディアは水を頼む!」
「わ、わかった!」
頼まれたけど、水属性のコボルトまでの距離は八メートル。ここからだと、まず魔弾は当てることが出来ない。
攻撃魔法を!
……いや、ダメージが半減する上に、詠唱上限まで残り二だ。それだけでは、弱点部位を狙ってもライフゲージを一気に削れない。それに今は、コボルトの攻撃は全部ブリューゲルに集中している。しかも、三体のコボルトからの攻撃を上手く避けている。
だけど、あれじゃ、詠唱する時間を稼げない。
近づくか? あ、でも、後ろに下がって距離をとった。
対象距離、四メートル。
『
固有スキル承認。雷属性、付与。
対象距離、二メートル。
単体に2回近接攻撃ヒット。対象、八ポイント減少。残り十二ポイント。
あの混戦の中、
だからここは、最初に言われた通り、サポートに徹しよう。……いや、戦う!
このまま黙って何も出来ないのはやっぱり嫌だ。私が詠唱した魔法のリキャストタイムは残り五秒。それに、コボルトがブリューゲルに集まっているから、範囲詠唱で二体までなら拘束出来る。
コボルト同士の間隔は約一メートル。これならいける!
ならば、狙いは水属性と雷属性のコボルト二体だ!
対象距離、八メートル。
『
コボルト水属性、雷属性、拘束。詠唱上限。リキャストタイム十秒。
『魔弾装填、水』
固有スキル承認。
私は、拘束魔法を詠唱したあとにリロードをおこない、シリンダーに水属性の魔弾を込めて水属性のコボルトに向かって走った。
「拘束できたよ! 私も水のコボルトに突っ込む! だけど、魔弾だと三メートルまで近づかなきゃ当てられない!」
「いい判断だ! セレスディア! 雷は俺に任せな!」
対象距離、四メートル。
『
付与魔法。魔法リスト、一。十秒間、固有スキルが2ダメージ追加。
リキャストタイム十秒。
(こいつは残り十二ポイント。3回斬れば倒せる)
パリィン!
(撃破。あとは拘束されている奴だ。1回斬った後に固有スキルで仕留められる)
ザンッ!
『神速抜刀術。刻め。
固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。合計ダメージ、二十ポイント。
パリィン!
(さて、セレスディアはどうだ?)
対象距離、三メートル。
ここまでくれば大丈夫! 狙いは胴体。三発当てれば倒せる!
ドドドンッ!
パリィン! 合計ダメージ、二十四ポイント。
「ふぅ。何とかなったぁ。もういないよね?」
「多分、な。それにしても大したもんだ。だけど、あの長い範囲詠唱をよく出来たな。冗談で三体って言ったけど、まさかホントにやるとは思ってなかった。一応、リロードしておいたほうがいい。また、別なのが襲ってくるかもしれんからな」
「あ、うん」
『魔弾装填、炎』
固有スキル承認。
私は言われた通りにして、何となく選んだ炎の魔弾をリロードした。
「ふぅ。こういった動作があるから大変だ。でも、それよりも、さっき私って何も出来なかったじゃん? 一体しか倒せてないからちょっと悔しいんだぁ」
「あの状況は仕方がない。だが、咄嗟に拘束させたのは見事だ。いい判断だった」
「ありがと。けど、痛感したなぁ。職業によって、こんなにも差があるだなぁって。それに、全職業の魔法を詠唱出来るっていってもどうしても全部の魔法を詠唱する機会がないんだもん。攻撃魔法で援護しようと思ったけど、ダメージが半減されちゃうから意味ないし。たから、咄嗟に拘束魔法を詠唱したのね」
「お、流石に知っていたか。ちなみに、俺の職業の侍は、付与、解除、識別魔法を詠唱できるが、拘束魔法が使えなくても困ったことは殆どない。それに、固有スキルを使う方が多いからな。魔法はおまけ程度だ」
「そう、なんだ。私は、固有スキルが魔弾を作れるだけだよぉ。しかも、攻撃できる回数に制限があるから、ブリューゲルみたいにバッサバッサと攻撃できない……」
「そういう職業だ。おまけに、ほぼ全ての行動に詠唱が必須になるから、行動に制限がかかるのも欠点だ。まっ、成長を楽しみにしているよ」
「うん。頑張る」
「1つ気になったんだが、何故そこまで分かっているのに、何で
「んー、実は私、今までこういったRPG系ゲームをやったことがなくて、
「へぇ。RPG初めてだったのか。それにしちゃ、判断が速いな。それに合気道を習っているのも以外だ」
「ボードゲームでよく遊んでいたからかな? でも、銃で攻撃するのがこんなにも難しいのは……大誤算だった……」
「ほう、ボードゲームをね。確かに原理は似てるからな。でもまぁ、そういったことも含め、殆どのやつらは転職するんだが、セレスディアは違うんだろ?」
「うん! まだまだ練習が必要だけどね」
「成長を期待している。んで、このあとどうする? 続き、やるか?」
「そうだなぁ――」
ピピピッ!
また! エンカウント!
「ね。アクティブってこんなに頻繁に襲ってくるの?」
「モンスターによるな。だが、いい練習になるじゃねぇか。今回も指示、出すか?」
「いや、ちょっとやってみたい。今回も私がサポートする」
「おっけー。さっきのおさらいだな! いくぞ!」
「はい!」
私はホルスターから銃を抜き、ブリューゲルは刀に手を当てた。
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