第5話 監督から課題を出されて、新しい目標が出来ました

「やっと、動画編集が終わったぁ! あとは、これを運営に送ってと」

 私は、昨日初めてベアウルフと戦闘をした時の動画編集を終えて、スペルマジックの運営に編集をした動画を送信した。

 運営側のチェックは厳しく、許可を得られなければSNS等に動画を投稿出来ないのだ。

 プレイヤーは私しか映ってないし、ベアウルフを五体しか倒してない動画の内容だから運営側は許可をしてくれると思う、多分だけど。

 その後、私は昨日の出来事を監督に電話で相談した。

「もしもーし。どうした?」

「すみません、監督。ちょっと、スペルマジックの事でご相談がありまして。今、お時間大丈夫ですか?」

「おお、ちょっとだけなら大丈夫だぞ。何について知りたいんだ?」

「ありがとうございます。プロの立場でどこまでが行動していいのか、もう一度確認したいと思いまして。あと、動画を作る際の注意点などを教えて頂けたらなと思いまして」

「あ、その事ね。前にも話したと思うけど、禁止事項は3つ。ギルドに入るのは禁止だけど、ギルドを設立するなら可能。野良PTに入るのはいいけど、固定PTに参加するのは禁止。動画に関しては、参加してくれるプレイヤーにしっかり許可をもらうこと。これさえ守ってもらえれば特に制限はないよ。でも、ウチサディクションの場合だと自分からわざわざプロですって言う必要ないからね。君が投稿した動画や配信を見ればすぐに分かることだからさ」

「なるほど。じゃあ、参加ではなく、自分で野良PTを募集したり、固定PTを作るのはいいのですか? フレンド登録などに制限はありますか?」

「あ、それなら大丈夫。フレンド登録も制限ないし、自分で募集して固定PTのリーダーになるんだったらギルド設立の練習になるから問題はない。野良PTの募集も同じ。だけど、犯罪者プレイヤーにならないよう注意してね。もし、指名手配リストに君の名前を見つけたら、強制的に呼び出して問い詰めるから覚悟して」

 犯罪者プレイヤー? 指名手配リスト? そんなシステムあったっけ? 聞いてみよう。

「良かったです。それだったら、迷いがなくなりました。ありがとうございます。でも、犯罪者プレイヤーとは? 指名手配リストって何ですか?」

「あぁ。そこまではまだ理解出来てなかったか。でも、それは教えてあげない。自分で調べてね。でないと意味がないから」

「はい。わかりました」

「よろしい。んで、俺からも確認なんだけど、セレスディアは今後、スペルマジックを中心に活動する認識でいいんだよね?」

「はい。面白くってハマってしまいまいした。クエストも推理していく感じで好きです」

「おお、それなら勧めた甲斐があったよ。どの職業を選んだんだ? 多分、魔弾銃士だろうけど」

 何で分かったんだ! まさか、監督も超能力者か!

「……えっと、はい。仰る通りです」

「やっぱりね。君から衣装の変更をしたいって言われた時は何でって疑問に思ったけど、デザインを見たときに、もしやって思ってさ。結構、大変でしょ? その職業」

「はい。めっちゃバカにされましたけど、とっても親切な人もいたので大丈夫です。それに、そのことをきっかけに魔弾銃士を極めてみたいと考えています」

「成るほど。それはいい傾向だ。頑張ってね。んで、その親切な人と友好関係を築きたいから質問してきたわけだ。でなきゃ、わざわざフレンド登録って具体的な単語を言わないもんな。あとPT関連と動画のことも」

 ……監督もやっぱり超能力者だ。

「はい。監督の仰る通りで……。実は、その親切な人からギルドに入らないかって誘われてしまいまして」

「なるほどな。君の職業を知っていてギルドに誘われたか。いい人に出会えて良かったね。そしたら、丁度いいか。そうだなぁ。んーっと、じゃあ、俺から課題を与えよう」

「ん、課題、ですか?」

「そ、課題。セレスディアはその職業を極めて、スペルマジックをメインで活動していくんだよね?」

「はい。そう決めました」

 何だろう? なんて言われるかドキドキするよぉ。

「それなら、魔弾銃士で一目置かれるプレイヤーになること。ギルドを設立した後、上位ギルドになるまで知名度を上げること。ギルド設立のタイミングはセレスディアに任せる。アバター衣装の大幅な変更は禁止。もし、変えたいって思ったら理由を言って報告すること。プロゲーマーとしてのSNS活動は多少ゆっくりになっても構わない。期限はなし。以上」

 おお。めっちゃ大変な課題だ。しかも、期限なし。だけど、あまりのんびり過ぎるのもよくないよなぁ。それに、上位ギルドかぁ。みんなは、どの位の強さなんだろう?

「分かりました! 挑戦してみます! ちなみに何ですけど、他のみなさんはどのくらい強いギルドなんでしょうか?」

「全員、百位以内にランクインしてるよ? と言っても週一のギルド戦の時とか、ちょっとしたお小遣い稼ぎ程度でプレイしているぐらい。だから、メインでやっていくのはセレスディアだけだよ」

 お、お小遣い稼ぎと来たか……。答えてくれるか分からないけど、聞いてみよう。

「ち、ちなみに何ですけど、お小遣い稼ぎってどの位、でしょうか?」

「んー、具体的な金額は言えないけど、最低でも月に5万だよ。あ、先に言っておくけど、早く稼げるようになれとは言わないから安心して」

 週一しかログンしていないのに、そこまで稼げるのか。中学生の私にとって5万円は超大金だ。でも、いずれはそれぐらい稼げるようにならないとダメだってことだよね。どうやって稼いでいるのか、今度みんなに聞いてみよう。

「はい。ありがとうございます。ですが、これで新しい目標が出来ました。でも、プロゲーマーって1つのゲームを中心にチーム戦で戦うとか思っていましたけど、みなさんバラバラに活動しているんですね」

「そこは、チームの方針によって違うかな。ウチサディクションも確かに、初めの頃はチーム戦を練習してやっていたけどさ、全員が全員、同じゲームをやり続けるのって苦痛じゃん? 中にはそれでもやりたいって言うプロもいるよ。だけど、新しく発売されたゲームや気になったゲームはやりたいと思うし。それにさ、やっぱり、ゲームは楽しんでこそ面白いと感じるから。大会が開催されたらその都度みんなに聞いて、やりたいって言ってきたら参加すればいいし、やりたくないって言うのなら参加しなければいいだけの話。だけど、プロゲーマーとしての結果は出してもらうよ」

「なるほど。だから、さっきの課題なんですね。だったら私も、スペルマジックで結果を残さないとダメですね」

「期待しているよ。加入した時の挨拶で、みんなと自己紹介したときに聞いていたと思うけど、セフィラムはエレフィスエレメントフィストの看板選手で広告塔。バレンディッシュも同様に、タクティカルオンラインではサーバーで一位、二位を争うトッププレイヤーで、アクション系RPGといえばバレンディッシュと謳われるほど知名度とプレイヤースキルが高い。あとは――」

「はい。みさなん、すごい人たちで私なんかが加入しても良かったのか? って、内心思っていまして……」

「あはは。でも、セフィラムといい勝負したんだし、過去の成績も良かった。んで、みんなと相談をして全会一致したから誘ったまでだ。自信を持っていいよ。だからと言って、天狗になられても困るけどな」

「はい。パパにも同じことを言われました」

「じゃあ、大丈夫だね。まっ、そんな感じだから頑張ってね。かと言って気負いせず、スペルマジックを楽しむことを忘れずにね!」

「はい! ありがとうございます!」

「じゃ、俺は俺でやることがあるから。また何かあったら連絡して。俺からも連絡するから」

「わかりました! では、失礼します」

「おう」


 ふぅ、監督と色々話せて良かった。私も、みんなに負けないように頑張らないと。

 一目置かれるプレイヤーかぁ。しかも、ギルドを作って上位ギルドを目指すとなれば難易度が高い……。

 でも、ギルドってどうすれば作れるんだろう?

 調べてみよう。ついでに、他のシステムも一緒に調べよう。監督が言っていた犯罪者プレイヤーも気になるし。

 まだまだ、覚えることがたくさんありそうだ。


 んっと、ギルドの設立には二名以上のPTを組んだ状態でギルド管理局へ行って申請をするのね。だけど、PTメンバーの同意が必要っと。ふむ、私自身でメンバーを集める必要があるのね。お金がかからないのはいいけど、メンバーを集めるのが大変そうだ。

 犯罪者プレイヤーと指名手配リストはどうだ?

 うわ、NPCやプレイヤーを倒してアイテム類を奪うことが出来るのか。しかも、窃盗も出来ちゃうと。

 あ、これが悪意のあるプレイヤーのことを言っていたのね。

 確かに、エリアに詳しい人ならゲーム配信者がいるフィールドを特定することが可能なのかもしれない。難易度が高そうだけど。

 これがきっかけで、運営がゲーム配信に制限をしたんだっけか。

 ん、もう一個あるな。

 ふむ。犯罪者プレイヤーを成敗する対策として、指名手配リストのシステムを作ったのか。

 へぇ、指名手配リストに載っているプレイヤーを倒すと懸賞金が貰えるのか。これなら、犯罪者になりたくないからどのプレイヤーもやらないよね。だから、監督は強制的に呼ぶって言ったのか……納得した。

 指名手配リスト、ちょっと見てみるか。


 ……うわ。こんなにいるのかぁ。これは、ちょっと想定外。もっと少ないと思っていた。

 しかも、犯罪をしてもプレイヤーの外見や名前の色とかも変化しないから、指名手配リストを見ていないと犯罪者プレイヤーって区別出来ないシステムか。それに、行動するにも制限されていない。これじゃあ、バレなきゃ完全犯罪に近いぞ?

 さらに、プレイヤーやNPCを倒して奪ったアイテムや窃盗したアイテムもリアルマネーに換金出来ると。こりゃ、犯罪が絶えないだろうな。ある意味、現実世界より犯罪が起こってるかも。

 だけど、窃盗されると警告音が鳴るみたいだから、これならすぐに捕まえられそう。

 野良PTや固定PTの募集、ギルドを設立するときには厳重な身辺調査が必須だな。


 ざっと、これぐらいかな?

 さてと、今日もスペルマジックへログインしますか!


『スペルマジックの世界へようこそ、セレスディア。アバターをグルーデルに転送します』


 始まりの街、グルーデル。中央広場。昼。

「んー、いるかな。ブリューゲルさん。確か、夜ならいるって言ってたけど現実だとまだ昼だし。一応、個人チャットしてみようっと」

 

 ポンッ!

『キャラクター名、ブリューゲルと個人チャットを開始します』

 あ、繋がった。早速、昨日の返答をしようっと。

「こんにちは。ブリューゲルさん。この前の返事をしようと思いまして個人チャットをしました」

「おお! セレスディア。覚えていてくれていたか。どうだ? 入ってくれるか?」

「はい。考えた結果、そちらのギルドに加入は出来ませんが、フレンド登録をお願いしたいと思いまして」

フレ登録フレンド登録してくれるか! ありがとう! でも、ギルドは無理かぁ。入ってくれると期待はしていたんだが。まっ、あんたが考えた結果だから詮索はしないよ。ありがとな!」

「はい。せっかくお誘いしてくれたのにすみません。実は、自分でもギルドを作ってみたくなりまして」

「何? 自分でギルドを作るってっか! 随分と、思い切った行動をするじゃねぇか! いいことだ。ギルドの長ギルドマスターは大変だけど、頑張れよ。応援するぜ」

「はい! ありがとうございます! では、フレンド申請を送りますね」

「おう!」


 ポンッ!

『キャラクター名、ブリューゲルにフレンド申請を送りました。承認されるまでお待ちください』

 ポンッ!

『キャラクター名、ブリューゲルが申請を許可しました。フレンドリストに追加します』

「改めて、よろしくな。セレスディア」

「こちらこそよろしくお願いします。ブリューゲルさん」

「さん、はいらねぇよ。ブリューゲルでいい。あと、もうちょっと自然な感じで頼む。どうも敬語は堅苦しいんでな」

「そうですか。では、今度からそうしますね」

「おう。これで俺たちは友達ダチだ。ここはあらゆる場面で情報が必要になる。だから、俺らギルドの仲間も含めて、セレスディアが知りたい情報を教えるからよ。言うなれば、俺ら黒衣の騎士団がチュートリアルを請け負う。だけど、その分報酬はきっちり頂くぜ」

 友達、か。そういえば、私って現実だと友達って呼べる人、あんまり居ないんだよね。それに、遊んだことも殆どないし。

 でも、ここなら……。今後も交流していって、別のプレイヤーとも遊びたい。それで、まずはこの人たちと仲良くなろう。だけど、報酬を要求してきたな。返答次第では、ちょっと考えるかも。それとなく聞いてみるか。

「ありがとうございます! すごく助かります! ちなみになんですが、報酬ってどうやって支払えばいいですか?」

「ここで会ったのも何かの縁だ。気にするな。俺らも新入り初心者が増えてきて嬉しいんだ。んでだ、肝心な報酬は、セレスディアの覚悟を俺らに見せてくれ。それだけだ」

 覚悟? てっきりお金か、ドロップ品とか思っていたけど。違ったみたい。何だろう?

「覚悟、ですか?」

「おう、セレスディアがこの世界スペルマジックで魔弾銃士としてやっていく覚悟だ。実はよ、昨日おもしれぇ新入り初心者と出会ったことを俺のギルメンギルドメンバーに話したんだ。そしたらよ、全員あんたに興味をもったんだ。だから、チュートリアル的なやつでサポートしてあげようってなったんだ。もちろん、俺らが勝手にそう思っただけだがよ。もちろん、強制はしない」

 なんていい人たちなんだ! 私の知らない所で、そう思ってくれているなんて感謝しかない! あの時感じた、私の勘は間違ってなかったかも。

「いえ! どんでもないです! とっても嬉しいです! 今後ともよろしくお願いします!」

「よっしゃ。決まりだな。時間が合うときに俺の仲間を紹介すっからよ。そん時は、個チャ個人チャットで連絡する」

「はい! 分かりました! ……で、早速なんですが、この後お時間ありますか?」

「ん? あるけど、デートのお誘いか?」

「ち、違います! もう、からかわないでくださいよ!」

「はは、すまん、すまん。んで、どうした?」

「私はこのゲームスペルマジックを初めて日が浅いですし、他の職業とどう違うのかまだ分からないので、どこに差があるのか知りたいのでPTを組んでくれまんせんか?」

「おお、いいぜ。いい傾向だ。こりゃ教えがいがありそうだな。さて、何処にするかな」

「私が決めてもいいですか?」

「構わんよ。んじゃ、PT頼むな」

「はい。今、送りますね」


 ポンッ!

『キャラクター名、ブリューゲルにPT申請を送りました。承認されるまでお待ちください』

 ポンッ!

『キャラクター名、ブリューゲルがPT申請を承認しました』


「サンキューな。酒場で待ち合わせでいいかい?」

「はい。よろしくお願いします」


 私は、ブリューゲルと合流するために酒場へと向かった。

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