第4話 初めてクエストを受注してみた

 訓練所を出た私は、何処に行けばどんなモンスターがいるのか分からなかったので、情報収集のため酒場へと向かった。

 この場所は、プレイヤー同士の交流が盛んで、あらゆる情報を交換する場として利用されているからだ。


 始まりの街、グルーデル。酒場。

「おお、こういった場所は街並みとはまた違う活気であふれているな。んっと、誰に聞いてみよう……あ、あそこ、かなりの人だかりが出来ているな。何だろう?」

 密集している人混みをかき分けながら進んでいき、最前列までたどり着くと目の前には大きな掲示板みたいなものあり、張り紙が貼ってあった。私は、この張り紙が何なのか分からないので、興味深く観察していると隣にいたプレイヤーから話しかけられた。

「なぁ、そこのコートのお姉さん。あんた、どのエリアのクエクエスト探してるんだ?」

 ふむ。この張り紙は、クエストのことだったのか。

「そうですね。グルーデル近郊で何かあればいいと思っていて」

「なんだ。お姉さんも俺と同じPTリーダーか。で、連れPTメンバーは二人? それとも四人?」

 ふむ。どう答えようかな。この前みたいに嫌な思いはしたくないけど、初心者であることを言ってみよう。それで嫌なことを言われたら関わらなければいいだけの話。

「いえ。実はまだ始めたばかりで、初めてモンスターと戦うのに最適なクエストがあればな、と思っていまして」

「え? あんた、新入り初心者だったのかい。こりゃ失礼。けどな、ここには初心者用のクエクエストはないぜ? あるのは、PT用の討伐クエストだけだ。それ以外のクエストならあっちの窓口だ」

 ふむ、この掲示板は討伐クエストだけか。しかも、PT用。この人は意地悪しないで教えてもらったから、ここは言うとおりにしよう。

「分かりました。親切に、教えてくれてありがとうございます。別の場所でクエストを探してみます」

「……お姉さん。あんた、やけに素直だな? 大抵の奴らなら見栄を張るんだが……。まっ、頑張れよ」

「はい。では、失礼します」

「あぁ、ちょっと待て。入り口付近にいるミゲルってNPCに話しかけな。そいつから初心者用のクエクエストを受注出来るからよ」

「あ、ありがとうございます!」

 私は再び、大勢のプレイヤーをかき分けて入り口に戻っていき、教えてもらったNPCがいる場所へ向かった。

 中には親切な人もいるんだな。初日が最悪だっただけかも。

 NPCのミゲルを探しながら酒場を歩いていると、入り口付近に大勢のプレイヤーが集っている場所を見つけた。

 

 あ、多分。あそこだ。行ってみよう。

 んー、ここにも大勢のプレイヤーがいるなぁ。ここにいる人たち全員、初心者なのかな? けど、ふと思った。初心者って言っても何処までが初心者なんだろう?

 区別が分からん。まっ、いっか。

 とりあえず、NPCに話しかけてみよう。

「すみません。初心者用のクエストを受注したんですけど?」

『ようこそ。セレスディア。クエストをお探しですね。あなたに最適なクエストはこちらのリストになります』

 NPCが返答するとパネルが開いて、指定されたクエストの一覧が表示された。

 ん、結構あるな。

 私は、画面をスクロールしながら何かよさげなクエストを探した。

 だけど、表示されているのはクエストの名前だけで、倒すモンスターの名前などの記載が無かった。

 でも、推奨クエスト人数だけは、しっかりと表示されていた。

 しかし、エリアの表記がどれも大雑把で、グルーデル近郊としか表示されていない。

 これじゃ、どこに行けばいいのか分からん。

 

 悩むこと数分。

 私はとりあえず、一番上にあったクエストを選択した。


 『一人用クエスト。夕霧の森林が選択されました。よろしいですか?』

 「はい」

 『クエストを承認しました。ドロップ品を手に入れたら、僕のところに持ってきてください。分からないことがあれば、聞いてくださいね』

 ポンッ!

 『夕霧の森林。クエストを承認しました。クエストリストに追加します』


 へぇ。クエストを受注すると、自動的にバネルが開いて表示されるんだ。って、何にも書かれていないんですけど! これじゃあ、何処に行けばいいのか全く分かんない……。

 ……あ。さっき、分からないことがあれば聞いてって言われたし……もう一度、あのNPCに話しかけてみるか。

「すいません。夕霧の森林は何処にありますか? どのモンスターを倒せばいいんですか?」

『はい。その場所は、ここから東へ行ったところにあります。対象のモンスターは動物です』

「動物?」

『ええ。森林に生息する野生の狼です』

「その、狼はどこに行けば見つかりますか?」

『はい。ここから東にある森林へ行けば会えます』

「東って、何処まで行けばいいの? エリアの名前とかはあるの?」

『エリアの名前はありません。ですが、この街を出て東へ歩いていくと、大きな二本杉が見えてくるのでそこまで行ってください』

「どうも」

 ポンッ!

 ん? 勝手にクエストリストが開いた。どれ、あ、最初は何も書いてなかったけどさっきのNPCから聞いた話が追加されている。

 なるほど。こうやってNPCから情報を聞いて場所を特定していくのか。

 これじゃ、ちょっとした推理ゲーム……に、似ている……って、ああ!

 私はこの時、監督からこのゲームスペルマジックを勧められたときの言葉を思い出した。

 他のRPGよりクエストが特殊で、NPCやプレイヤーから情報を集めながら進行していく方法で、謎解きが重要だってことを。

 私がプロゲーマー活動で悩んでいたときに、謎解きが得意な私にこのゲームスペルマジックを勧められたんだ。

 んで、このゲームスペルマジックを初めて……って、やばっ! そういえば私、最後にSNS更新したのいつだ? 動画の投稿は? 配信は……指定エリアじゃないと出来ないからいいとして。

 魔弾銃士のことで、頭が一杯だったからすっかり忘れてしまっていた……やってしまった。みんなから、お怒りのメールとか来てなければいいけど。ちょっと、チェックしよう。

 あれ? でも、最後のSNS更新は昨日だ。動画投稿は……あぁ、録画していたけど、お蔵入りにしたんだった。配信は……エレメントフィストが最後で配信日は昨日か。んで、監督やメンバーからの通知はないな。思っていたより時間が経ってなかったか。あっぶな……いや、良かったぁ。……じゃなーい! ちゃんと活動しないと! 監督やメンバーに申し訳ないよぉ。

 よし! 丁度これから初のソロクエストだから、動画作りのために録画を開始しよう。音声は後で入れるからいいか。

 おっけ。機材確認よし。……ついでに、戦闘システムも一緒に復習しておこう。多分、戦っている時に確認するの厳しい気がするし。

 

 三十分後。

 よし、復習終了。さぁてと、出発しますか! まずは、この街グルーデルを東に出て二本杉を目指すんだったね。

 と、その前に魔弾を生成して、属性ごとにストックしなければ。

『魔弾作成』

 約一分後。

 ……これで、全属性、四十二発。待ってなさい! 狼!


 グルーデル近郊、東の方角。二本杉付近。夕方。

「あ、あれか。ミゲルNPCが言ってた二本杉は。やっと見つけたぁ。ここまで来るのに、ちょっと迷ってしまった。おかげで、もう夕方だ。さて、森林っ書いてあるぐらいだから、中に入るんだよね? 多分。……一応、いつエンカウントをしてもいいように銃を構えておこう」

 私は、歩く速度を緩めてホルスターから銃を抜き、いつモンスターと遭遇エンカウントしてもいいように戦う準備をした。

 すると、画面の左上に二十の数字と一緒に緑色のバーゲージが可視化された。

 ふむふむ。これが体力ゲージか。

 訓練所で練習していたときは、夢中になっていたから気付かなかったけど意識すればちゃんと見える。

 それに、モンスターもプレイヤーと同じで、体力は二十に固定。モンスターと同じ属性で攻撃をすれば、ダメージが二倍になるからまずは属性を調べることからかな?

 まっ、やってみよう! 何事もチャレンジだ!


 うぅ。ただ、二本杉に向かって歩いているだけなのに、めっちゃ緊張してきた!

 この緊張感、 初めてエレメントフィストで対戦したとき以来だ……落ち着け、私!

 

 ピピピッ!

 ……この音、エンカウントの合図だ。どこにいる? ひとまず、あそこの岩陰に隠れて様子を見よう。

 ガサッ。

 ……いた。二本杉の辺りでウロウロしている。あれが対象の狼か。名前は……ベアウルフ。でも、今のところモンスターは一体だけ。それに、まだこっちに気づいていない。

 このゲームスペルマジックは、モンスターとの位置関係や距離、攻撃してくる箇所やモンスターの弱点部位、ダメージ量は全てプログラムが数値化して画面に表示される。私は、それらの情報を分析しながら戦うだけ。

 

 モンスターとの距離は十五メートル。

 今の私の魔弾の射程距離は、最大で三メートル。ならば、魔法で牽制して近づいてきたら銃で反撃。

 ふぅ、戦闘開始だ!

 私は、岩陰からモンスターの様子を伺いながら魔法を詠唱した。

『凍てつく氷は汝の足枷。凍結。空間氷結くうかんひょうけつ

 リキャストタイム十秒。対象、凍結。二ダメージ。


 よし。最初の詠唱で凍らせることが出来て、動きを封じることが出来た! しかも、ラッキーなことにあいつの属性。ならば、氷属性で一気にライフを削る!

 今のあいつは無防備。その状態で、弱点の顔に攻撃を当てれば、クリティカルを必中で狙える! そうすれば、魔弾三発で仕留められる! 新しいエンカウントはなし。

 でも、この距離からだと魔弾を確実に当てることが出来ない……。かと言って、このまま魔法を三連続で詠唱すれば魔法リストを圧迫するし、魔弾を撃つより時間がかかる。

 ……ここは、突っ込め!

『魔弾装填』

 私は勢いよく岩陰から飛び出し、走りながら氷属性の魔弾をリロードして、狼の顔に銃口を突き付けて氷属性の魔弾を撃った。

 ドンッ! ドンッ! ドンッ! 十八ダメージ。

 パリィン!

「ふぅ。緊張したけど、何とかなったぁ。無属性の魔弾をシリンダーに入れてたから、無駄になっちゃったな。まぁ、しょうがない。でも、まだクエストは終了していないのかな? だとすれば、油断は禁物」


 ピピピッ!

「遭遇した! どこ! ん、正面か!」

 距離、四メートル。弱点は、顔!

 ドンッ! ドンッ! ドンッ! カチッ。カチッ。カチッ。三ダメージ。


 あれ。たったの三ダメージ? しかも、同じ名前のベアウルフなのに、属性が違うの? これは想定外だ。

 くっ、飛びついてきた! 狙いは左腕。よし、腕を引いて避けられた。少し、距離が離れた。今のうちに、せめて魔弾を持って隙を見てリロードだ。

『魔弾装填』

「雷を選択してっと、次に襲ってきたら回避してリロードだ。しかし、戦闘中に属性を一覧から選択するのはかなり危険だな。ん、襲ってこないな。初心者用だから、難易度が低く設定されているのかな? それなら有難い。色々と確かめながら戦える。よし、魔弾銃士の特性を最大限に活かそう」

『透過し、見るもの全てを幻惑せよ。幻影。完全消失かんぜんしょうしつ

 永続魔法。魔法リスト、一。


 これで、完全に姿を消せたはず。その証拠に襲ってこない。今のうちにリロードを……って、襲ってきた!

 狙いは首。これは、入身で入れ替わって背後に回る! その後でリロード!


 カチャ!

 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! カチッ。カチッ。カチッ。


 弾切れ、か。けど、六ダメージ与えられた。これで相手モンスターの体力は残り十一。

 悲しいことに、弱点を属性で狙わないと単発ダメージがかなり弱い。

 それに、弾数制限があるから、隙を見つけて反撃しても連続して攻撃できないのがかなり厳しい。

 けど、モンスターの動きや攻撃速度があまりにも遅すぎる。おまけに、単調な攻撃しかしてこない。

 これはチャンスだ。

 今の私に必要なのは、魔弾を撃った回数を覚えて無駄に撃たないことと、魔弾銃士に最適な魔法の詠唱を探ること。

 さっきの完全消失かんぜんしょうしつは、対象から私の存在を認知させないための魔法。だけど、モンスターに見つかっているときに使っても意味がないことを知ることが出来た。

 だとすれば、動きを封じることが出来る魔法か、攻撃魔法。

 だけど、一番大事なのは、いかに早くモンスターの属性を調べて魔弾を選択し、リロードし攻撃回数を増やすこと。

 今こうしてゆっくり考えられるのも、モンスターから攻撃されても簡単に回避が出来るし、モンスターが一体だけだからゆっくり分析が出来る。だが、もしも、今の現状でも複数体から一斉に襲ってこられればアウトだ。

 今の私だと、魔弾での最大射程距離は三メートル。よし、まずは魔弾での戦闘が基本だから、魔法に頼らず銃で応戦しよう。魔法は後からでも遅くはない、と思う。

 魔弾の残弾数は、炎、地、風、水。合計二十四発。シリンダーは空。魔法のリキャストはなし。同じ名前のモンスターでも属性が異なるからおそらくランダム。これが、一番厄介だな。

 よし。次の攻撃を避けて、属性を調べてから反撃開始だ!


 いや、コイツベアウルフは私を睨んだまま威嚇しているだけだ。襲ってくるのはいつだ? いつでもかかって来なさい。でないと、反撃出来ない。

 もう! いつまで睨んでいるのさ。早く、攻撃してきなさいってば。これじゃ、いつまで経っても攻撃でき……ない、よ。

 ……あれ、そういえば私、何で相手が何もしてこない状態でも攻撃を待ってから反撃しようと思ってるんだろう。

 基本の戦い方が合気道だからかなぁ?

 ふむ。今思えば、エレメントフィストでも合気道で待ち主体の戦い方だったし。FPSでは、敵から隠れて味方の援護ばかりして、自分から先陣を切って前線に出たことがなかったなぁ。あまり戦うことをしないで、敵から隠れて味方を回復させて、私から攻撃しないで敵の隙を見つけては攻撃して。そんで、自分が死なないことばかりを考えていたっけか。それでも結局敵に見つかって、何度もやられたし。

 だとすれば、ここスペルマジックだと今までのやり方は通用しないかもしれない。さっきも、相手モンスターが凍って無防備になって、他にモンスターがいなかったから突っ込んだ。

 今はいいかもしれないけど、相手の攻撃が来てから反撃していては、対応が遅れて上手く立ち回ることが出来ないかもしれない。

 でも、急に戦い方を変えるのは難しそう。

 はぁ、これがいつもやっているボードゲームだったらなぁ。そうすれば、パパとママに勝つための条件と情報が分かるから自分で分析して、パパに罠をしかけたりママのことを妨害して勝つことも出来るのに……。

 ん? ちょっと、待って。頭の整理。

 このゲームスペルマジックの詠唱の自由度はめちゃくちゃ高い。しかも、魔弾銃士は中途半端で器用貧乏だけど、全職業の固有魔法を使うことが出来る。なにより、モンスターとの戦闘に必要な情報は、プログラムが数値化してくれて全部教えてくれる。

 ボードゲームで言えば、私が欲しい情報を全て知ることが出来るし、分析出来るじゃないか。

 そうだよ、私がよくやっていたボードゲームと捉えればいいんだ。

 だけど、この方法は序盤エリアの場合であって、今後通用するかは分からない。でも、突破口は見えた。

 ベアウルフは未だに、睨んでいるだけで襲ってくる様子はない。

 ふぅ。今度こそ、反撃……いや、攻撃開始だ!


 モンスターとの距離、四メートル。弱点部位、顔。

『属性調査。査問』

 リキャストタイム十秒。属性判別、炎。

『魔弾装填。炎!』

 カチャッ!

 私は、シリンダーに火の魔弾を込めて、動こうとしないベアウルフの顔に照準を定めてトリガーを引いた。

 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! 二十ダメージ。

 パリィン!

 「よし! 二体目、撃破。 エンカウント、なし。次は、姿を消す」

 『透過し、見るもの全てを幻惑せよ。幻影。完全消失かんぜんしょうしつ

 永続魔法。魔法リスト、二。


 さて、次はどこからくる?

 私は、姿を消したまま二本杉から少し離れた草むらに身を隠し、薄暗い森林を注意深く観察した。

 ……出て来た。今度は二体か。二体同時に属性を調べられるのかな? いや、多分出来ると思う。

 

 対象距離、十メートル。弱点部位、顔。

 『属性索敵。範囲査問』

 リキャストタイム十秒。魔法リスト、三。

 属性判別、炎。属性判別、地。

 

 おっけ。調べられた。でも、二体とも違う属性か。しかし、シリンダーには炎の魔弾が一発だけ。魔法上限まで、残り二か。ベアウルフは二本杉付近まで歩いてきたね。どうやら、そこ二本杉があなたたちの縄張りなのかな?

 それに、今の状態だと、エンカウントしない限り気付かれることはない。

 次は、魔弾を生成した後、動きを封じてから一気に距離を詰めて、クリティカルを狙い二体同時に仕留める!


『炎と大地。魔弾と成りて今ここに。連続生成。属性魔弾』

 固有スキル承認。

『魔弾装填。炎と地』

 私は、炎と地属性の魔弾を同時に呼び出すと、炎の魔弾をシリンダーに込めて、地の魔弾を左手に持った状態で魔法を詠唱した。

『炎の縄。動きを封じて拘束せよ。縛れ。炎縄えんなわ

 リキャストタイム十秒。魔法リスト、四。対象、捕縛。二ダメージ。


 片方、束縛成功。もういっちょ!

『泥の柵。自由を奪い投獄せよ。囲え。四方の監獄』

 リキャストタイム十秒。魔法リスト上限。対象、捕縛。二ダメージ。


 二体の動きを、ほぼ同時に封じることが出来た! 持続魔法の効果時間は、リキャストタイムと同じ十秒しかない。

 だけど、後は一気に近づいて、それぞれの顔面に至近距離から魔弾を撃つのみ!

 最初に詠唱をした、持続魔法の効果は残り五秒。だけど、この距離なら間に合う!

 ドドドンッ! パリィン!

 

 あと一体! 地の魔弾をリロード!

 ドドドンッ! パリィン!

 

 よし。これで合計四体倒した。だけど、まだクエストは終了していない。あと、何体倒せばいいんだ?

 

 ピピピッ!

 はっ! エンカンウント。

 さっきの戦闘で、完全消失かんぜんしょうしつの効果が切れていたのね。

 だけど、焦ることはない。さっきのでちょっと自信がついた。

 魔法リストは、なし。これなら行ける。属性魔弾は、同一属性を持っていても、ストックが増えないだけで詠唱自体は出来る。

 それならば、無属性を除いた全属性を一度に詠唱すればいい。……出来ると思う、多分。

 属性は全部で六種類。

 エンカウント状態で、成功すれば今後有利に戦闘が出来る、はず!

『炎、水、氷、雷、地、風。我は六元素を束ねし者。魔弾と成りて貫き、撃ち砕く。魔弾精製。魔弾、六元素』

 固有スキル承認。


 モンスターとの距離、三メートル。弱点部位、右の前足。

「よっしゃ! 成功した! だけど、詠唱長いな。もうちょっと短縮出来ないものか。でも、詠唱が長いと威力が上がるんだけどなぁ……って、魔弾は魔法じゃないから関係ない。さて、今度の弱点はちょっと狙いにくいな。でも、試してみたいことがある。成功すればいいけど」


 って、接近されすぎた。魔法の詠唱で気を取られていたか。襲われなくて良かった。でもね、さっきの戦いの中でちょっとだけコツを掴んだ。

 だけど、このやり方がいつまで通用するのか分からないから、これからも私の練習相手になってね、ベアウルフさん。

『炎の檻で汝を閉じ込め、檻の中で自白する。さすれば檻は扉を開き、汝は自由となり解放される。二重魔法。迫害。監獄の脅迫』

 リキャストタイム十秒。対象、捕縛。魔法リスト、二。一ダメージ。属性判別、風。

『魔弾装填。風』

 私は、風の魔弾をシリンダーに込めて、右の前足に標準を定めてトリガーを引いた。

 ドドドドンッ! 二十四ダメージ。

 パリィン!

「ふぅ。かなり、不安だったんだけど、上手くいって良かったぁ。違う効果を持っている魔法を同時に詠唱する方法。ダメージは期待してなかったからいいけど、結果、属性判別とモンスターを捕縛することが出来た。しかし、魔法リストには二個に増えてたか。だが、これはかなり便利だ。でも、その分詠唱が長くなっちゃうから、それが欠点かな」


 ポンッ!

『一人用クエスト。夕霧の森林がクリアされました。指定されたNPCへ報告してください』

「お、ついでにクエストクリア出来た! よぉし、早速、酒場へ戻ろう!」


 始まりの街、グルーデル。酒場、夜。

『セレスディア。クエストクリア、おめでとうございます。こちらが報酬です。受け取ってください』

 

 ポンッ!

『クエスト報酬。ベアウルフの毛皮を入手しました』

「えぇ。あれだけ頑張ったのに、報酬はたったのこれだけ? しかも、未鑑定って記載されている。どこかで鑑定しろってことか。クエストも無事クリア出来たし、少し休むか」

 私は、近くにあったテーブルの椅子に座った。

 んー、もうちょっと魔法と銃での戦い方を両立しないとなぁ。基本、魔法で足止めをして魔弾でとどめを刺すか。

「よう。あんときの新入り初心者じゃねぇか」

 ん? 新入り? どこかで聞いたような……。私は声が聞こえて来た方向に向くと、クエストのことで親切にしてもらった人がいた。

「あ、あの時の! ありがとうございました! おかげさまで、無事、クエスト完了出来ました!」

「おお。そかそか。良かったな。あんた、俺の記憶違いじゃなければ、初めての戦闘って言ってたよな?」

「はい! そりゃもう大変でした! モンスターを見つけるとめっちゃ緊張しちゃいまして」

「はは。そうだろう、そうだろう。このゲームマジックスペルはリアルで雰囲気があるからな。最初はみな、そんなもんさ。どんぐらいクエクエスト周回したんだ? 結構やり込んだんだろ?」

「ん? 周回……ですか?」

「ああ、すまん。言い直そう。クエストを何回やってきたんだ? この、何回ってのを俺らは周回って呼んでいるんだ」

「あ、そうなんですね。ありがとうございます。実は、道中迷ってしまって、まだ1回しか出来ていません」

「まっ、新入り初心者にはちと荷が重いよな。まぁ、そう、落ち込みなさんなって。俺もよ、最初は迷いまくったもんさ。何せ、クエストの情報を聞き出さなきゃたどり着けないもんな。どこまで行ったんだ?」

 あ、この人も迷ったんだ。ちょっと安心。確かに、受注した直後は何の情報もなかったもん。この人、親切でいい人そうかも。

「えっと、ここを東へ出たところにある二本杉があるんですけど、そこに行きました。んで、ベアウルフっていうモンスターと戦いました」

「……え? 二本杉? ベアウルフ? まぁ、最初は迷うとは思うけどよ。二本杉っていや、ここから東の出入り口を出て五分ぐらいで着ける場所だぜ? いくら初めてだからと言っても、最初に戦うベアウルフならほとんど何もしてこないから苦戦はしないはずなんだが……」

「いやぁ。私もそう思ったんですけど。意外と苦戦してしまいまして……」

「そ、そうか。いや、俺もよ最初の頃は、ベアウルフと結構やりあったんだ。けど、そんなに苦戦はしなかったんだ。……ちなみによ、お姉さん、職業は何だ?」

「はい。魔弾銃士です」

「え、魔弾銃士?」

 あ、さっきまでニッコニコの笑顔だったのに、私の職業を聞いた途端、真顔になった。

「魔弾銃士かぁ。そりゃ討伐に時間がかかる訳だ」

 あぁ。やっぱり、この親切な人でも否定するんだ。いいもん。いいもん。

「魔弾銃士が、そんなにいけませんか?」

「あ、いや。すまねぇ。そうじゃねぇんだ。ただよぉ……なぁ、その職業はここではあまり好かれていないことは知っているのかい?」

「はい。いやというほど言われまし、ネットでも批判されまっくてましたから」

「それを分かったうえで、その職業を選んだ訳だ。なるほど、それでか、どうりでその衣装――」

「えっ?」

 私は、予想外の言葉に驚いた。

「あ、いや。けどよ、その様子じゃ、転職も考えたこと、なかったんだろ?」

「は、はい。その通りです」

 ……心を読まれた!?

「じゃあ、もう職業の承認は済ませたんだな。大した覚悟だ」

「ん? 承認……ですか?」

「なんだ。あんた知らなかったのかい。職業欄のところに承認ってあるだろ? まぁ、チュートリアルみたいなもんはこのゲームにはないから、知らなくて当然か」

 私は早速、職業欄を開いた。すると、職業の名前の横に承認の項目があった。

「これは?」

「それはな、職業を承認しない限り、無制限で転職が可能なんだ。このゲームには、結構な数の職業があるからな。けどな、一度承認をすると職業を転職したいと思った時に、所持金の半分を支払わなければ転職出来ないんだ。だけどよ、その代わり、選んだ職業の専用装備を装備できるようになる。承認しなければ専用装備を装備が出来ない。まっ、一種の決意表明みたいなもんだ」

 ふむ。決意表明か。そういや、私がプロゲーマーになったときも監督から言われたなぁ。だったら、迷う必要なし!

 私は、なんのためらいもなく承認を押した。一応、確認のメッセージが表示されたけれど、もちろん「はい」の選択を押した。


 ポンッ!

『キャラクター名、セレスディア。職業、魔弾銃士を承認しました。専用装備をインベントリに追加します』

「すみません。専用装備、もらえました」

「おお、そかそか。専用装備をね……って、あんた、この場で承認押したのか!」

「はい? いけませんか?」

「ぷぷ、だはは。こ、こりゃ、とんでもねぇ。面白れぇ新入り初心者がいたもんだ。だはは」

 あ、笑われた。この人、もういいや。最初は親切な人だと思っていたのに、残念だ。

「失礼します」

「あ、ちょっと待て! 笑ったの謝る! 職業のことを笑ったんじゃねぇ!」

 きこえなーい。きこえなーい。

「怒らせてしまって、すまない! 笑ったのはいい意味でだ!」

 ん? いい意味?

「どういうことです?」

このゲームスペルマジックで、あんたと同じ魔弾銃士は一定数いる。だがな、俺が出会った新入り初心者は最初こそは、面白ってプレイするやつは大勢いた。でもな、弱いからって途中で転職するやつばかりだった。偶然かもしれないが、俺の目の前で承認を押したやつを初めてみたからだ! 本当にすまない!」

 んー、本人はああ言っているけど、どうしよう。私のことをバカにして笑うやつはいたけど、謝ってきた人は初めてだ。

「んで、何が言いたいんですか?」

「ああ。俺はあんたの覚悟をこの目で見た。この先も、その職業でやっていくだろう?」

「えぇ。そう決めましたから。転職は考えていません」

「だったらよ。俺は一応、こう見えてギルドの長ギルドマスターをやってんだわ。んでだ、俺のギルドに入っちゃくれねぇか? 頑固って言われればそれまでなんだがよ。周りからバカにされても、自分で一度決めたことをとことん貫く人ってすげえと思っているし、カッコいいと思ってるんだ。だから、あんたの覚悟に胸を打たれたんだ。どうだい? もちろん、今すぐじゃなくていいし、強制はしてねぇ。どうだい? 考えてもらえるかい?」

 おぉ、なんて熱い人なんだ。めっちゃ熱く語ってたな。さっきまでは冷めてたけど、ちゃんと話を聞くといい人だった。

 ギルドかぁ。でも、監督から固定PTとギルドには入るなって言われているんだよねぇ。けど、野良PTならいいだっけ。

 どうしよう。でも、フレンド登録なら……いや待て、何かあってからじゃ遅い。今度、監督に聞いてみるか。その返答次第で、答えをこの人に伝えよう。

「折角のお誘いですが、しばらく時間をください」

「お、考えてくれるかい! ありがとう。俺は、ブリューゲル。って、キャラ名は見えてるか。夜だったら大抵いるからよ、ログインしたら個チャ個人チャットくれよな。それか、公式サイトで黒衣の騎士団って検索すれば出てくるから、時間帯が合わなかったらそっからでもいいぜ」

「はい。わかりました。では、これで失礼します」

「おう、またな。あのよ……それと、実はな、もう1つあんたを勧誘した理由があるんだ」

「はい?」

「あんたの、そのアバターの衣装だ。あんとき、一目見たとき、ビビッときたんだ。何でか分からんが。けど、職業が魔弾銃士って聞いた時に感じた。職業の雰囲気とその衣装がすげー似合ってるって思ったし、すげーカッコいいとも思ったんだ。ある意味、セレスディアの決意表明みたいなもの、だろ?」

 ……こ、この人! 超能力者なの! また、心を読まれた感じがする! うん、この人は信用できるかもしれない。私の勘がそういっている。

 でも、まだ初めて会ったばかりだし、嘘で言っているようには感じ取れないけど、少しずつ距離を縮めてみよう。

「……良くわかりましたね。ビックリしました」

「いや、もう一度会うことが出来たら、絶対に言おうと思っていただけだ。すまねぇな。引き留めてしまって。俺はこれからクエクエスト行ってくるからよ。またな、セレスディア」

「はい。ではまた。ブリューゲルさん」


 なんだか、めっちゃ熱い人だったな。

 あの人、ギルマスなんだよな。多分、ちゃんと相手のことを理解しようとする人がリーダーになるんだろうな。

 さてと、今日はここまでにして、明日にでも監督に聞いてみよう。

 あ、でも、その前に動画編集しないとね。

 大変だけど、頑張ろうっと!

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