第3話 私が選んだ職業が最弱と呼ばれる理由
意気揚々とスペルマジックにログインをした私だったが、初日から散々な目にあった。
動画投稿用に録画をしていたが、編集のしようもなくお蔵入り。
アバターの衣装をバカにされるし、選んだ職業も最弱と言われて笑われてしまったのである。
ログアウトしてから、パパとママに愚痴を聞いてもらったからうっぷんを晴らせたので、今は落ち着いている。
監督にも事情を話して、職業に合うアバターの衣装を作成してもらった。
イメージをするならば、西部劇に登場するようなガンマンをモチーフにした。可愛い見た目から、カッコいい見た目になってかなり満足している。大幅な変更になり、専用サーバーに反映されるまで時間がかかるのでその間、私は魔弾銃士について徹底的に調べた。
スペルマジックは、正式サービスを開始してから約3年が経過していて、今でもプレイヤー人口が上昇し続けている大人気MMORPGだった。
だけど、どのサイトを閲覧しても魔弾銃士は最弱の烙印が押されていて、職業の強さランキングでは万年最下位。好んで使うプレイヤーが殆どいなくて、ある程度プレイしたらすぐに転職してしまうプレイヤーが多い。
なので、詳しい情報はどこにも掲載されておらず自分で試すしかない。
スペルマジックはゲーム内通貨をリアルマネーに換金出来るシステムを導入しているためか、ソロや固定PTでは戦闘効率を考えて殲滅力が高い前衛職や、高威力の範囲魔法が撃てる魔法職や、遠距離から高威力援護が出来る後衛職を選ぶ傾向がある。
それに付随して、ヘイト管理に優れた前衛職、サポート特化と回復特化の職業で構成されたPTが主流だ。
だけど、私が選んだ魔弾銃士はどれにも当てはまらないことが分かった。
全職業中、攻撃力が最も低い。片手にしか武器を装備出来ない。6回攻撃した後は、リロードをする必要があるのでタイムラグが発生する。攻撃をするのに魔弾と呼ばれる特殊な弾を使用するので、インベントリが圧迫される。魔弾がなくなれば攻撃できない。
魔弾を作り出すには詠唱する必要がある。照準は自動補正されないため、プレイヤー自身で狙う必要があり外れることもある。全職業が保有する固有魔法を詠唱することで使用することが出来る等々。
一言で言ってしまえば、制限が多くて非常にめんどくさい職業な上、どれも中途半端で器用貧乏。
一見、全職業の固有魔法を使うことが出来るので便利だと思われがちだけど、詠唱をしなければ魔法は使えないし、威力も専門職に比べると比較にならないぐらい弱い。
しかし、どの職業も魔法を使うには詠唱が必要なので、威力がより強く特化した職業を選ぶプレイヤーが殆どだ。
だから、どのPTにもそれぞれに特化した職業を欲しがるので、中途半端な魔弾銃士は拒否されてしまう。
でも、一個だけ利点を言うのであれば、全職業中、単発の攻撃速度が最も速い。
まぁ、これだけの条件が揃えば余程の物好きじゃないと選ばないよなぁ、と不覚にも思ってしまった。
だがしかし、逆を言ってしまえば弱いけれどあらゆる状況に対応出来るのではないだろうか、とも思えてしまう。
これは、プレイしながら徐々に慣れるしかないな。
さてと、調べられる部分は全部できたと思う。後は、ログインをして試すだけだ!
私はベッドに横たわり、VR機を頭につけた。
『スペルマジックへようそこ、セレスディア。アバターの変更が新しく承認されました。アバターをグルーデルへ転送します』
始まりの街。グルーデル、中央広場。
「おお、相変わらず賑わっているな。さてと、早速訓練所に行って試しますか」
私はマップを頼りに、初心者訓練所に向かった。ここなら通常のフィールドと異なり、自分専用の個室エリアを作ることが可能で誰にも邪魔をされずに練習が出来るのだ。しかも、お金が一切かからないから何度でも練習出来るのがとても有難い。
やっぱり、予習って大事なんだな。特にこういったRPG系は。
しかし、何故か周囲からの視線を感じるなぁ。
私が周囲を見ながら歩いていると、すれ違いざまに声をかけられた。
「ねぇ。お姉さん。ずいぶんと気合入ったアバターしてますね」
「ありがとうございます」
このアバター。私が思っている以上に目立つんだな。けど、私がプロじゃなかったらどんなアバターを作れることが出来たんだろう。
そう思うと、なんかちょっと気になってきた……。
「時にお姉さん。俺とトレードしませんか? 何、損はさせませんよ」
トレードねぇ。街中でもこういったプレイヤー同士の交流がされているのか。この前みたいに、嫌な感じの奴じゃなくて良かった。
「すみません。トレードに出せるアイテムを持っていないもので、遠慮します」
「えぇ。そりゃあ無いでしょ? レア度が低い物でもいいですよ?」
「ごめんなさい。実は私、初めたばかりでまだ何も持っていないんです」
「あらま。初心者さんか。それだったら、俺とPTを組んで色々と教えてあげますよ? 報酬は、そうだな。クリアしたクエスト報酬の半分でどうですか?」
ふーん。成功報酬の半分と来たか。だけど、私はこのシステムに慣れるまでは自分で試したいから断るか。
「いえ。訓練所で練習するので大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「あ、訓練所に行かれるんですね。それなら俺も一緒に行きましょうか? 報酬はいりませんよ?」
しつこいなぁ、もう。だけど、報酬なしときた。でも、一人で集中したい。
「せっかくですが、ご遠慮させてください。ありがとうございます」
「そう、ですか。ではまた」
ふぅ。諦めてくれて良かった。ちょっとしつこかったけど、今回はそんなに悪い人じゃなさそうだったなぁ。
正直、ソロで戦えるまで誰からの助言されたくないな。チームの仲間は別だけど。
訓練所に着くまでの間、街並みを観察しながら歩いていると、通路の壁を背にして何人ものプレイヤーがアイテムを並べてお店みたいな物を開いているのが分かった。どうやら私が通っている道は、プレイヤー同士でアイテムのトレードや売買を行う場所で、プレイヤーが露店を開く場所だった。今後もお世話になるエリアだと思ったので、私はすかさずマップを開いて、「露店街」という名前を付けて保存をした。
露店街を抜けて、しばらく歩くと目的地であった訓練所にたどり着く。
私はさっそく専用の個室を借りて、練習を始めた。
「やっと、誰にも邪魔をされずに練習出来る! ドキドキするなぁ」
私はホルスターから銃を抜き、西部劇の主人公を真似て、遠くに設置された的を目掛けて銃を構えた。
「お、少し重たいかな。でも、ちょうどいい重さって感じで苦にならないな。狙いを定めて……トリガーを引く!」
カチッ。
「ん? 反応しない? 何故? ……あ、魔弾がないと攻撃出来ないし、リロードしなきゃダメだった。リロード! これでよし。次こそは!」
私は再び銃のトリガーを引いた。
カチッ。
「あれ? リロードしたのに何で? あ、もしかして」
私は慌ててインベントリを開いて確認すると、そこには何もなく空欄のマスで埋め尽くされていた。
「そうだった。魔弾を詠唱して作成して、リロードも詠唱しなければダメだった……忘れてた。ん、詠唱って何処で見るんだ? 何ていえばいいだ? ……魔弾銃士のことは調べたけど、詠唱のことは調べてなかった。やっぱりさっきの人に教わればよかったか? いやいや自分で調べよ。えーっと、一旦別ウィンドを開いてっと」
スペルマジックの詠唱について。
プレイヤーの思想が詠唱となり、その思想をプログラムが認識すると固有スキルや固有魔法が発動します。
あなたが選択した職業から連想出来ないものを詠唱をしても、プログラムが認識されず、固有スキル、固有魔法は失敗します。
決まった詠唱の文言はないので、あなた自身であなただけの理想の固有スキルや固有魔法を発見しましょう。
職業別の参考動画はこちらのリンクから。
一時間後。
……うん。何となく分かった。
でも、動画見て思ったけど、いくら威力が弱いからと言っても、全職業の固有魔法を使うことが出来るってある意味最強じゃね?
しかも、魔弾に属性を付与出来るのはかなり便利な気がするし、結構トリッキーな戦い方が出来るかも。
問題があるとすれば、リキャストタイムと弾数制限か。
まぁ、色々と試してみますか!
まずは魔弾の作成から。
『魔弾生成。炎』
「おう! 成功した! どれどれ、これでインベントリは増えたはず。んー、1回の詠唱で6発だけしか作れないのか。んじゃ、もう1回」
『魔弾生成。炎』
「これで増えてるはず。あれ? 増えていない。と言うことは、1つの属性に対して6発までしか作れないのか。じゃあ、属性を変えてみるか」
『魔弾生成。氷』
「今度はどうだ? よし! 成功した! これで、炎と氷が6発で合計12発。同じ属性を大量にストック出来ないのがつらいな。属性は全部で6種類だから、最大36発までしかストック出来ないのか。いや、無属性を含めると7種類だから、合計42発か。ま、そういう仕様だからしょうがない。よし、早速撃ってみるか!」
『魔弾装填』
「ん、今度はインベントリが自動で表示された。ふむ、作成した魔弾は
ゴトッ。
「ん? ゴトッって何が落ちた? ……おい。ちょっと待て、落ちたのってさっき私が選択した魔弾じゃないか! まさかこのゲーム、自分でリロードするのかよ! ゲームなんだから自動で装填してくれよぉ。ここまでリアルを充実に再現しなくてもいいじゃんかぁ! ある意味、すごいけど戦闘中にこれをやるのか……プレイヤーがすぐに転職する理由が分かったかも。でもまぁ、単発じゃなくて、スピードローダーになってるのがせめてもの救いか。早速、撃ってみよう」
私は慣れない手つきでシリンダーに弾を込めて、遠くに設置された的に照準を合わせてトリガーを引いた。
ドンッ!
「きゃっ!」
銃のトリガーを引いた瞬間に、右腕に強い衝撃が加わって、その場で尻もちをついてしまった。
「はは。まさか、銃の反動までも再現しているのね。こりゃすごいこだわりだ。もうなんでもありだな、このゲーム」
私は、プロゲーマーになる前にもFPS系のゲームをプレイしたことがあるけれど、ここまでリアルを忠実に再現しているゲームに出会ったことはなかった。
ここまで再現されているのはこの職業だけかもしれないが、日々の日常では絶対に体験出来ない出来事と出会ったことで、私はますますこの職業が好きになった。
「さぁてと、時間はまだまだたくさんある。練習あるのみ!」
片手では銃の反動を制御するのが無理だと判断し、両手で撃つようにした。
初めは的に当てることは出来なかったけど、徐々に慣れていき3メートル以内だったら何とか当てられるようになってきた。それ以上の距離になると全く当たらない。
今は動かない標的で練習をしている。だから、動いている標的に当てることが出来てこそ初めて戦える。
まだまだ、練習が必要だ。
それに、練習している時間はすごく楽しい。
一発撃つ度にくる銃の反動、
非日常な空間が私を支配して、いつの間にか時間を忘れるほど夢中になっていた。
どのくらい銃を撃っていたのか分からない。
でも、次の
私はこれを最後にして、小休止をとることにした。
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!
カラン、カラン。
「ふぅ。少し休憩っと。でも、最初の頃に比べると少しは上達したかな? それに、かなり大きい反動だったのに腕が全然疲れないし、腕が痺れることもない。やっぱりここはゲームだな。しかも、銃を撃ってるとめっちゃ楽しい。これで魔法も使えるって楽しすぎだろ」
私は、休憩がてら固有魔法についてもう一度予習をして、動画を見まくった。
「よし! 予習と休憩終わり! 魔法はある程度、自動補正が入るみたいだから問題ないっしょ」
私は動画を参考にして、早速詠唱をしてみた。狙いは10メートル先の標的だ!
『荒ぶる業火は弓矢と成りて業火を纏いて的を射る。灼熱。紅蓮の火矢』
私が詠唱を終えると、炎を纏った矢が狙いを定めていた的に命中し、いとも簡単に破壊した。
「あらま、簡単に当たってしまった。銃だとかなり苦労したのに。しかも、的は10メートル先だし……私、まだ銃だとその距離は当てられないし。おまけに、破壊力が段違いだ。次、範囲魔法!」
私は、さっきと同じ10メートル先の的を標的に詠唱を始める。
『大気に含むは雫の結晶。大気に混じるは氷の
パリン!
対象の周囲が一瞬にして凍結される。
「おお! すごい! 部屋全体が一瞬で凍った! でも、よく考えたらこう言った詠唱……言っていて恥ずかしい……今は一人だからいいけど、それでも恥ずかしいよぉ」
それでも私は、銃とはまた違う楽しさに興奮して、我を忘れて魔法を詠唱しまくった。
単体魔法、付与魔法、範囲魔法、回復魔法、永続魔法等々、とにかく色々と試した。
驚いたのは、MPみたいな概念がなく無制限に魔法を詠唱できること。
でも、詠唱出来る魔法の上限が5つまでと決まっていた。
あとは、魔弾と違って、同一属性の魔法を詠唱することが出来た。
しかし、リキャストタイムが存在する。
魔法を詠唱すると、自動的にパネルが開いて詠唱した魔法リストを常に確認出来る。
リキャストタイムが終了した順に魔法リストから消える仕組みで、もし魔法上限まで魔法を使ってリキャストタイムが残っていたら、どれか1つのリキャストタイムが終了まで新しく詠唱が出来ないこと。魔法の威力は、詠唱が長くなれば長くなるほど高くなる。
しかも、どの魔法を使ってもリキャストタイムは全て10秒に固定されていた。
だけど、バフやデバフと言った永続魔法は自分で解除、もしくは魔法で無効化しない限り、魔法リストに残り続ける。
一言で言ってしまえば、魔法上限までむやみに詠唱をしないことと、リキャストタイムの管理だ。
魔弾の作成は固有スキルに該当するので、リキャストタイムがなく詠唱出来ることも分かった。
でも、同時に重要な問題に直面してしまう。
それは、魔弾で攻撃するよりも魔法で攻撃した方が圧倒的に強いこと。
銃と魔法では威力の差が比較にならないほど、銃の方が弱かったのだ。
しかも、魔法に特化していない中途半端な職業のため、専門職と比べたら威力は天と地ほどの差になるだろう。
確かに、この魔弾銃士はプレイしていると色んなことが出来て楽しいとは思う。
出来ないことがないじゃないかな? って思えるぐらい万能かもしれない。
だけど、効率さや強さを求めるとしたらまた別の話。
間違いなく、それぞれに特化した職業へ転職するだろう。
私が初めて、スペルマジックへログインした時に私の職業のことをバカにしてきた奴らがいるんだが、悔しいけどあいつらの意見は正しかったのだ。
でも、私自身、納得が行くまで魔弾銃士と魔法について向き合うことが出来たし、分析も出来た。
あとは、街の外へ出て、実際にモンスターと戦って試すのみ!
だけど、結果がどうであれ、私は転職をしないでこの職業と一緒にスペルマジックを楽しみ、結果を残したいと思った。
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