ルーの物語2

 その夜、となりで寝ている彼が、ひどくうなされていることに気がついて、あたしは目を覚ました。

「みんな、死んで……」

 かすかな寝言を聞いた。苦しそうな様子に起こそうかと迷っているうちに、

「あぁっ……!」

 急に飛び起きて、片手で顔をおおっていた。息が荒かった。

「大丈夫?」

 そっと背中に手をおくと、ビクッと身体を震わせて、あたしをふりかえった。

「……あ、ああ、ごめん。起こしたね」

 汗で湿った熱い背中。

「ひどくうなされていたけど」

「……うん、汗で気持ち悪いから、着替えてくる。君は心配しないで、おやすみ」

 ルーはそう言って、ベッドから出ていった。


 翌朝、あたしが起きると、彼はリビングのソファで毛布にくるまって寝ていた。

 テーブルの上には、薬の包装シートの残骸と、グラスに残った飲みかけの水。そして、あたしは薬の外袋に、処方した母さんのサインを見つけた。

(あれ? これって……)

 あたしはタブレットで、急いで薬について調べた。

(……!)

 それは精神安定剤と睡眠導入剤だった。

「ルー。寝るならベッドへ……」

 肩をゆすろうとして、偶然、頬に触れた手がびっくりするくらい熱くて、あたしはもう一度触って確かめた。

「熱、あるじゃない!」


 ルーは目を開けて、だるそうに起き上がった。

「うん。こうなるとわかっていたから、今日のスケジュールは全部キャンセルして休むことにしてあるし、いつものことだから、心配いらない」

 ルーは、あたしが薬の袋を手にしているのを見て、

「僕の心の問題なんだ。いいよ。気になるなら、エリンに聞いて。君は僕にかまわず、授業に出てください。さっき飲んだ薬で少し眠れそうな気がするから。……じゃあ、行ってらっしゃい」

 そう言って、部屋を出て行った。

 今までにも、たまに体調を崩しているのを見たことがある。

 あたしは寝室をそっとのぞいて、彼の規則正しい寝息を確認してから、家を出た。


 あたしはその日、講義を聞いていても全然頭に入ってこなくて、昼休みに母さんに連絡した。

「ノヴァ? どうしたの、こんな時間に」

 あたしが事情を話すと、

「ラディさんがそう言ったのね? 私から話して欲しいってことなのか……」

 母さんは少し迷っていたけど、

「ノヴァ。長くなるから、あとで家に来て。遅くなってもかまわないから」

 そう言ってくれた。

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