ルーの物語1

「おはよう。あれ、今日は早いんだ」

 その朝、起きていくと、ルーはすっかり身支度を整えていた。

(あ、スーツにネクタイ? ……カッコイイ)

「うん。今日は少し早めに出かける。朝食は用意してあるからね」

「スーツ、珍しいね」

「今日はお偉いさん達と会議があるから、仕方なく、だよ」

 ルーは苦笑して、いかにも嫌そうに言った。

 そう、普段は感じさせないけど、本当は社会人として責任ある立場の人なのだ。

「似合うね。もっと着ればいいのに」

 着るものや外見をあまり気にしない父さんとは違い、いつもきちんとしていて、ラフな格好でもあらたまった服装でも、何でも着こなしていた。


 ルーは肩をすくめて

「僕が堅苦しい格好は嫌なこと、よく知ってるだろう? 君と一緒にトレーニングしてる方がずっといいよ」

 本気で言っている様子に、思わず笑ってしまった。

「じゃあ、そろそろ行かなきゃ」

「あ、待って」

 部屋を出ようとした彼を呼び止め、ふりむいたところを捕まえて、頬に軽くキスしてあげた。これはあたしからのささやかな励まし。

「行ってらっしゃい」

(……!!)微かに頬を染めた彼。

「行ってきます」ドアが閉まった。


 あたしはルーと暮らしはじめて、今まで知らなかった幾つかのことについて知った。

 父さんの背中には大きな怪我の跡があるけど、ルーの身体には大小の傷痕があちこちにあって、見たときは正直驚いた。

「再生治療、受けなかったの?」

「うん。途中から多すぎて、服で見えない部分はもういいかなと思って」

 古傷が痛むのだろうか、ときおりかばっている様子を見たことがある。

 予定が合えば、今でも一緒に走っていて、あたしのリハビリのためだとずっと思っていたけど、自身のトレーニング目的というのも本当かもしれない。


 

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