ノヴァの物語14

 ディープが帰宅すると、誰もいない家の中は静かだった。子供達のいない家の中は、急に広くなったように感じられた。

 サッカー選手を目指すノヴァに続いて、進学するエヴァが家を出たときもそうだったけれど、あのときはラディがそばにいた。


 テーブルの上には、先日撮った写真のアルバムがあった。ディープはときどきアルバムをめくっている。


 やがて、エリンが帰ってきた。

「ああ、お帰り、エリン」

「ただいま。ディー、今日は早かったのね」

「うん」

 声に元気がなかった。

 エリンはディープの隣に座った。

「大丈夫? 淋しいんでしょう?」

「うん。よく……わかってるね」

「せっかく戻ってきた娘をまた手放すことになって、もう少し手元に置いておきたかったと思っているのよね?」

「そうだよ!」

 ディープの強い口調に、エリンは目を見張った。


「君の言う通りだ。僕のことをいちばん良くわかっているのは君で、でも……あのふたりのことでは、もう少し僕を信頼して欲しかった、と思ってる」

「ごめんなさい」エリンは謝った。心から。「突然の強引なやり方に、あなたはあのとき、傷ついた顔をしてた。反対するはずがないこと、ふたりの幸せを願っていること、ディーのその部分は揺らがないことを私は知っていたのに。ごめんなさい」

 エリンはうつむいて、言葉が途切れた。


「……いや、いつもみっともなくジタバタするのは、僕の方だ。僕は君に救われてばかりで」

 エリンはそっとディープの手を握って、

「大丈夫。あのふたりなら。幸せにやっていけますから。ディーが願っているように、必ず」

 疑いのない口調だった。

「きっと、そうだね。君がそう言うなら」



 * * *


 人生は思い通りにいかないことばかりだと思う。でも、ときには思いがけないことが起こる場合もある。


 誰かを信じて、

 誰かに信頼されて、

 誰かを愛して、

 愛されること。


 誰かの手を取って握り、

 抱きしめて、そのぬくもりを感じ、

 ひとりじゃないということ。


 まだ見えない明日にも、

 きっと光があると信じて、


 となりを歩くその人と共に、

 前へ進んでいく。


 あたし達は、その先へ。

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