ルーの物語4

 家に入ると、料理の良い匂いがしていた。


「お帰り。もうすぐ出来るから、早く着替えておいで」

 いつも通りのルーだった。

「ただいま。もう大丈夫なの?」

「うん。心配かけたね。もう治まった」

 あたしは思わず、ルーに後ろから抱きついた。

「ん、どうした? ごめん、そんなに不安だった?」

 優しい声。

「母さんから聞いた。あたしに何かできることはある?」

「……あるよ。君がそばにいてくれること。守りたいものがあれば、僕は大丈夫だよ」

「それだけでいいの……?」

 そのとき、あたしのお腹が空腹を訴えて、彼は笑った。

「そう。ほら、お腹空いてるんだろ? 食事にしよう」


 夕食のあとで、ルーが言った。

「ノヴァ。今日、休んでいる間、ずっと考えてた。この前、僕達の子供のこと、聞いたよね? ハッキリ答えなくてごめん」

 あたしはハッとして、ルーの顔を見つめた。

「家族が増えることは嬉しい、もう一度父親をやることも悪くないと思う。それから、君とふたりだけの人生でもかまわないと思っている。ただ、僕は君をのこしていくことになるだろうから、ひとりになったあとの君が心配だけど。そして、僕は君の勉強の邪魔はしたくないと思うんだ。ノヴァ、僕にとってはどれも同じ重さで、どれを優先するとかはできなくて、だから選べないし、決められない。こんな答えで許してもらえるだろうか」

 あたしは微笑った。(ああ……同じだ)

「あたしも同じ。考えても、考えても、決められない。だからね、こう思うことにしたの。……神様の言う通りに」

「いいね。それ」

 そう言って、彼も笑ってくれた。


 

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