ルーの物語6
引退したヴァン元所長以外はみんな出席して、食事会が始まった。
少し遅れますと連絡があったエヴァが来て、大きな荷物を持っていたから、
「エヴァ、まだはじまったばかりだよ。どうした? すごい荷物だけど」
ルーに見つかったエヴァは、
「おじさん、久しぶり。あ、これはちょっと……」
なんとかごまかして別室に消えたので、ハラハラして聞いていたあたしは、ホッとした。
いつもみたいに女子トークがはじまって、
「ノヴァ。アルバム送ってくれて、ありがとう。ステフさんの写真、いつも素敵よね。私達のアルバムも一緒に持ってきちゃった」
リサ姉さんが2冊のアルバムを取り出した。
「あ、リサ姉さん達の写真? 見たい!」
あたしが言うと、
「ジャーン! あたし達もこの間、撮影したんだ。ほとんど自撮りと三脚で撮ったので、自然な写真は少ないけど」
「メグ姉さんも? 見せて、見せて!」
あたし達はワイワイ盛り上がっていた。
あたしは、リサ姉さんのアルバムを開いた。
「あれ? 母さんはいないんだ」
「私がみんなと深く知り合うようになったのは、そのあとのこと、だから」
「うわー、なんだかみんな若い。母さん、この写真の人がモーリスさんでしょう?」
あたしは探していたその人を見つけて、指差した。
「そう、その人」
母さんは微笑んで答えた。
「ねぇ、エリンにとって、モーリスさんは大切な人だったんでしょう?」
メグ姉さんの問いに、母さんは少し遠い目をした。
「そう……ね。でも、直接、気持ちを言葉にしたことはなくて。彼と過ごした時間はあまりに短くて、すぐに会話が難しい状態になっていたから」
「でも、エリンが支えたから、モーリスさんは穏やかな時間を過ごすことができたのでしょう? 私はそう思う」
「そうだったらいいけど……」
リサ姉さんの温もりある言葉に、母さんは静かに応えた。
「最初は、ラディさんに精神科医として支えて欲しいと頼まれたの。でも……。彼に特別な感情を持っていることは、ディーに指摘されてから気がついた」
メグ姉さんは、さらに言った。
「あなた達3人、エリンとディープさん、ラディさんの関係って、不思議な気がするんだけど」
母さんは小さく首をふった。
「メグ。お互い相手の方を向いている関係が『愛』だと、私は思うの。私とラディさんは、ディーのために何かできることはないかと、横に並んで同じ方向を見ていた。彼からは、特別な感情は持っていないと、ハッキリ否定されたの。でも、それは……」
「ルーなりの優しさ、だったのかもしれない?」
母さんはそう言ったあたしに微笑んだ。
「そう、ね」
「ああ、エリンの説明はよくわかる気がする。私は、はじめはユーリの後を追いかけていて、隣を歩くようになって、そして今はお互いを見ているから」
リサ姉さんが言って、メグ姉さんは、
「あたしはステフの隣を歩くのと、お互いを向いているのが半々くらいかも」
あたしは……どうだろう?
「あの人を失くしたことが、私とディーが結ばれるきっかけとなって、そして、ノヴァ、あなた達が生まれた。不思議ね。人の出会いというのは」
「だから、エヴァという名前をもらったの?」
「そうね。私とラディさんは反対した。ラディさんは、言ったの。『その名を呼ぶたびにきっと苦しくなる。生まれてくる子供に背負わせるつもりなのか? 子供達には関係ないことだろう?』って。でも、ディーは押し通した。感謝の気持ちとあのときの未熟な自分を忘れないように、ってね。彼はあの人の主治医だったから」
あたしは何も言えなかった。
なんて複雑で、そしてお互いを大切に想う人達……。
それから、お互いの写真を見て、いろいろ盛り上がっているところへ、
「あっ! うわ! 誰だよ、僕達のアルバムを持ち込んだのは!」
ルーが通りかかった。
「あ! あのね、みんなの感想だと、この写真がいちばん素敵だって」
あたしが開いたそのページをルーの方へ持ち上げて見せると、
「もう、恥ずかしいから本当にやめてくれ」
ルーは頭を抱えて行ってしまった。
「ノヴァ、あんな様子でこのあと大丈夫?」
メグ姉さんが心配してくれた。
「アルバムの写真、すごく恥ずかしがっているの。こんなに素敵なのに。でもこの前、こっそりひとりでしみじみと見ていたのを知ってて」
あたしは思い出してクスクス笑った。
「このあとのことは、エヴァとグラントさんが協力してくれるはずだから、きっと大丈夫」
あたし達のためにみんなで企画してくれたことがあった。
「ディーもね、ときどきアルバムを開いて、ひとりでしんみりしているのよ」
母さんも笑っていた。
「ステフさん、こんなに素敵な撮影ができるなら、ビジネスにしたらいいのに」
あたしが言うと、メグ姉さんは、
「あたしもそう思ってたら、『知り合い同士だからリラックスして撮れるんだよ』って言って。あくまで趣味にしておきたいみたい」
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