ルーの物語8

 あたしはドレスに着替えて、メグ姉さんにメークしてもらった。

「ノヴァ、これを」

 母さんは、持ってきたヴェールをリサ姉さんとふたりで着けてくれた。メグ姉さんからブーケを受け取る。

「ノヴァ、素敵」

 メグ姉さんが言って、母さんとリサ姉さんもうなずいた。

「ノヴァ。行ってらっしゃい」

「はい、母さん。ありがとう、メグ姉さん、リサ姉さん」


 会場の前の通路ではルーが待っていて、情けない顔をしていたけど、あたしのドレス姿を見て、ハッとしたみたいだった。

「ノヴァ……素敵だよ」

 これは思わずもれた言葉で、すぐに首をふり、押し殺した声で、

「ノヴァ、みんなでグルになって、ひどいだろう? 僕が嫌がるのを知っていて!」

「ごめんなさい。せっかくみんなで企画してくれても、前もって知ったら絶対にやってくれないと思って。式と言っても簡単で、誓いの言葉とキスだけだし、誓いの言葉は考えてきたから、一緒に読んでくれればいいの」

「ちょっと待って。今、何て言った?」

「え? 誓いの言葉は一緒に読むだけ……」

「いや、その前! 誓いの言葉と?」

「……キス」

 ルーは目に見えてうろたえた。

「あああ……。絶対にそういう流れになるんだからっ! なんで人前でキスしてみせなくちゃいけないんだよ。勘弁して欲しいんだけど」

「お願い、ルー」

 ルーはため息をついた。

「このまま君の手を取って、この場から逃げ出したい気持ちだよ」

 あたし達がヒソヒソとそんなやりとりをしていると、入口の扉が開いて、

「それでは、ふたりの入場です。皆様、あたたかい拍手をお願いします」

 進行役はエヴァだ。


 あたしは急いでルーの腕をつかみ、あたし達は部屋に入った。

 たくさんの祝福に、あたしは笑顔になり、ルーは緊張しまくっていた。


「では、皆さんの前で、ふたりの誓いの言葉をお願いします」

 ルーはとりあえず一緒に読んでくれた。

「……私達はパートナーとしてチカラを合わせ、共に歩んでいくことを、ここに誓います」

 でも、最後にそこに書かれているのが、自分の正式なフルネームだったから、一瞬、抗議するようにチラッと私を見てから、自分の名前を宣誓した。


「それでは誓いのキスをどうぞ」

 そして、問題の誓いのキス。

 ルーはあたしのヴェールを上げて、キスしたのだけど、あまりに短いキスだったので、ステフさんにダメ出しされた。

「ラディ、それじゃ、写真が撮れない。もう一度、お願い」

 ルーは絶対に心の中で、(はあ? やってられないんだけどっ!)と思ったはず。ルーはきっと父さんに遠慮しているのだ。

 あたしがすばやく父さんの様子をうかがうと、みんな盛り上がっている中で、父さんは何も言わずに立っていた。目が潤んでいるみたいに見えた。

(ええいっ! もう、ふたりとも面倒くさいことっ!)

 あたしはルーの頬に両手を伸ばして引き寄せ、(え?)と硬直して目を開けたままの彼に、「目を閉じてよ」とささやいて、唇を寄せた。

 ——あのときの逆だった。ルーがあたしに初めてキスをした日。


 ステフさんが何枚もシャッターを切っていた。

 突然、ルーはあたしの肩をつかんでいったん唇を離すと、真剣な目であたしを見つめ、ギュッと抱きしめなおした。熱い抱擁とキス。あたしは、彼の首に両腕をまわした。


 ワッと会場がわいた。

 誰かがクラッカーを鳴らし、花びらと紙吹雪が舞った。


 

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