ルーの物語9
みんなと写真を撮って、ドレス姿から着替えて戻ってくると、ルーと父さんはふたりで呑みながら話していた。
上着を脱いだルーはタイをゆるめ、シャツのボタンを外して、せっかくのスーツ姿が着崩れて台無しになっている。みんなから次々と注がれ、既にたくさん呑まされているようで、でもアルコールには強いから乱れている様子はなかった。
一方、弱い父さんは完全に酔ってるみたいで、ルーを指差して、
「これでわかっただろう? ひとり仲間外れにされる気持ちが」
「お前、まだ根に持ってるんだな。しつこい奴」
あたし達が付き合いはじめた頃、父さんだけが知らされてなかった。
酔っている父さんがからんでいて、なんだか、だんだんふたりのやりとりが怪しい雰囲気になってきた。
「お前に、親友に娘を取られる父親の気持ちがわかるかっ!」
「親友の娘だから、その想いにずっと応えられないでいたんだ。そんな僕の気持ちなんて、ディープは鈍いから気がついてなかっただろう!」
ルーはハッと口をつぐんだ。父さんの売り言葉に対して、つい言ってしまったという感じだった。あたしがまだ幼かったから、親友の娘だったから、ずっと父さんに気兼ねしていた彼。
父さんは目がすわっていて、低い声で言った。
「つくづくあのとき殴っておけばよかったと思う」
「ディープ。殴っていいと言っただろう?」
「よーし、いいか? 本当に殴るからな」
「いいよ、殴れば」
もう、売り言葉に買い言葉の応酬だ。
父さんはルーの襟元をつかんで、ふたりは立ち上がった。
(誰か止めて!)と周りを見まわしたあたしに、そばにいたエヴァが言った。
「大丈夫。ノヴァ、見て」
父さんは平手を振り上げた。ルーは避けようともしなかった。そして、父さんはルーの頬に手を当てた。ごく軽く。ペシという間抜けな小さな音。全然痛くなかったはず。ルーは驚いた顔をしていた。
父さんはルーをつき離して、
「この話はこれでもう終わりだ」
そして、ドサッと腰を下ろした。
「ああ、娘なんて持つものじゃない。こうして離れていってしまうんだから。ラディ、覚悟しておけよ。娘を持つというのは……こういうこと……なんだ」
そう言いながら、頭をテーブルにのせて突っ伏して、父さんはそのまま酔い潰れてしまった。
ルーはそんな父さんに上着をかけると、父さんのグラスに自分のグラスの下の部分をカチンと合わせ、中に残っていたお酒を飲みほした。
「僕達が船に乗っている頃、ふたりはいつもあんな調子だった。言い合いみたいに見えるけど、実は違うんだ」
そばで見ていたグラントさんが言って、
「なんだか懐かしい感じがするね」
ステフさんが微笑んだ。
会場には、いつもモーリスさんの席も用意されている。そのとき、その席に置いてあるグラスの中のワインが、風もないのに揺れた気がした。
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