ノヴァの物語7

 あたしは、スポーツ経験から推薦を受けられて、メディカルスクールのスポーツ医学専攻生として、無事に入学が決まった。

 引っ越しまで、あと1週間というときだった。


「おはよう」「おはよう、父さん」

 父さんがリビングに起きて来た。あいかわらず寝起きは髪に寝癖がついている。

 母さんがいつも通り、オレンジジュースを渡す。

「おはよう、ディー。どうぞ」

「ありがとう」


 父さんはタブレットと眼鏡を手にしてソファに座り、たぶんメールチェックをしながら、

「そう言えば、ノヴァの引っ越し準備は進んでる? どこに引っ越すんだっけ」

 母さんがあたしにすばやく目くばせして、言った。

「前に言わなかった? ラディさんのところよ」

「ふーん。……えっ?!」

 父さんは眼鏡をはずし、顔を上げて母さんを見た。

「それってどういうこと!? ラディの部屋に下宿させてもらうってこと? 確かに、通学には便利だろうし、部屋に余裕があるとは思うけど」

 母さんはサラッと言ってのけた。

「あら、言わなかった? ノヴァはラディさんとお付き合いしてるのよ」

「えっ?! えええ〜っ!!」

 グラスを手に取ろうとしていた父さんは、あわててひっくり返した。ジュースがもう残り少なくてよかった。

 あたしはテーブルの上に広がったジュースを、母さんから受け取ったダスターで拭きながら、

「そういうことなの、父さん」


 絶句して固まっていた父さんは、やっと口がきけるようになったらしい。あたしと母さんを何度も交互に見て、

「い、いつのまに? 知らなかったのは、僕だけってこと?」

 あたしはうなずき、母さんは、

「私も知ったのは、つい最近」

「ノヴァ、お前……」

 父さんが何か言いかけたそのとき、

「おーい、ノヴァ! ランニングに行こう」

 おじちゃまの、のんびりとした声が聞こえて、

(タイミングが最悪なんだけど)

 あたしは頭を抱えたくなった。


「ノヴァ、準備できて……る」

 入ってきたおじちゃまは、部屋の空気に何か感じとったらしく、そこで口を閉じた。

「ラディ。話がある。ちょっと僕の部屋に来て」

 父さんはおじちゃまの顔も見ずに冷たい口調で言い放って、出ていった。


「何? どういうこと?」

「ごめんなさい。母さんが言っちゃった、あたし達のこと」

 あたしは顔の前で両手を合わせた。

「私からもごめんなさい。余計なこと、だったかも」

 母さんも言って、おじちゃまは天井をあおいで小さくため息をついてから、

「わかった。いずれ言わなければならないことだから。話してくるよ」


 

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