ノヴァの物語10
父さんはしばらく情緒不安定だった。
父さんの怒りをかったおじちゃまはウチに来られなくなったので、あたしの方がおじちゃまの部屋に入り浸っていたけど、それは黙認してくれた。
母さんは笑っていて、
「どうしたらいいのかわからないみたいよ。もともと自分の気持ちに向き合うのが下手なのよね。でも、どこかの知らない馬の骨に娘を取られるよりはと、あきらめつつあるところかな」
あたしは明日からおじちゃまの所に行く。
あたしと母さんがリビングでお茶しながらくつろいでいるところへ、父さんが通りかかった。
「ノヴァ。明日行くんだろう?」
あたしはちょっと身構えた。
「うん、そう」
「ラディの所に行って落ち着いたら、きちんと正式な手続きをしなさい。それと、これを」
(えっ?)
父さんはあたしに1枚の預金カードを渡そうとした。カードはあたし名義だった。
「え? もらえないよ。あたしもおじちゃまも、それなりに預金はあると思うし」
「ノヴァ」
母さんの強い口調のたしなめる声に驚いて、あたしが見ると、ごく真面目な顔で、
「それは父さんの気持ちなんだから、ちゃんと受け取りなさい。これから必要になるのだし、いくらあっても困らないのだから」
「……はい」
あたしは父さんから両手でそのカードを受け取った。
「ありがとう、父さん」ああ、そして、言うならここだ……。「父さん、母さん、今までありがとう。これからも、よろしくお願いします」
「……うん」父さんの目は優しかった。
「明日は送りに行けないから、ラディによろしく。あと、ラディには、前と同じく自由にウチに出入りしてかまわないと言っておいて」
(父さん……)
父さんが出ていったあと、母さんはあたしを抱きしめて、
「良かった、ね? ノヴァ」
「うん」
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