ノヴァの物語2

 あたしの属するチーム、レッドエンジェルは女子プロサッカーチームのリーグで順調に勝ち星を増やしていた。あたしはようやくファーストリーグの試合に、何試合か出場させてもらえるようになっていた。


 その日のゲームに、あたしはおじちゃまとエヴァを招待していた。

 そして……。

 その試合は忘れることのできないゲームとなった。あたしの将来を変えた最後の試合となったから。


 ゲームは接戦で、ロスタイムも残りわずかの最後のチャンス、ゴール前は選手が入り乱れて、混戦状態となった。あたしはジャンプして、相手チームの選手よりわずかに高く、パスされたボールに頭が届いた、と、思った瞬間、横から激しくぶつかってきた誰かと一緒に転倒した。右足の上に相手の体重がかかった。

 ……身体の中で嫌な音がした。

 そして、頭の上に別の誰かが倒れこんできて、そのまま何もわからなくなった。


 気がつくと、病院のベッドの上で、麻酔が効いているのか、右足の感覚がなく、全く動かない。

「おじさん、ノヴァが気がついた」

 エヴァに呼ばれたおじちゃまが、そばに来た。

「ノヴァ、痛むかい? 驚いたけど、僕達が試合を観に来ていて良かった。搬送された病院にすぐ来れたから。脳震盪と右足を骨折してるよ」

 サッカーに怪我はつきものだから、怖くない。

 でも、これは……?


「ねぇ、またプレイできるんでしょ?」あたしは聞いた。

 以前、おじちゃまに言ったことがある。

「もうあたしは小さな子供じゃないから、ちゃんと大人として扱って。嘘やごまかしや気休めは言わないで欲しい」と。

 だから、おじちゃまの表情で、わかってしまった。おじちゃまは申し訳なさそうに、

「ノヴァ。ごめん。僕は何も言えない」

「そう……なんだ」

「もうすぐ父さんと母さんも来ると思……」

 あたしはエヴァの言葉をさえぎった。

「来ないで! って言って」

 エヴァは目を見開いて、

「ノヴァ……。それじゃ、僕達に何かして欲しいこと、できることはある?」

 あたしは目を閉じた。

「……放っておいて欲しい。ひとりにして」

「わかった。……行こう、エヴァ。ノヴァ、お大事にね」

 おじちゃまはエヴァを促して、ふたりは部屋を出て行った。

 ひとりになって、でも涙は出なかった。

 サッカーができないあたしなんて、何の取り柄もない役立たずだ、そう思った。


 チームメイト達からは寄せ書きしたボールやメッセージカード、お花もたくさん届いたし、まだ少ないけどあたしのサポーターの方達からもお見舞いが届いていた。けれど、その頃のあたしは受けとめることができなくて、申し訳なく思っている。

 がんばれって言われても、がんばれなかった。励ましや慰めがあたしには重荷だった。


 コーチとして残留することもできたけど、あたしはチームを退団し、退院後、家に戻ってきた。


 

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