エヴァの物語15

 ラディはディープの言葉を思い出していた。


 それは、ふたりが一緒に暮らし始めて、まもなくのことだったと思う。

「どう、エリンと仲良くやってる?さっそくぶつかったりはしてないの?」

 彼はごく真面目な顔で、少しも悪びれずに

「僕はエリンには一切頭が上がらないから。ケンカになりようがないよ」

 ラディは小さく吹き出して、笑いながら、

「それって、のろけに聞こえるんだけど」

 ディープは首をふって、照れもせずに言った。

「いや違うよ。パートナーと円満に暮らす秘訣だよ」

「だから、それがのろけだって言ってるんだよ」


 ラディはフッと小さく吐息をもらした。コップに水を汲んで、ディープの肩をゆすって起こす。

「ディープ。本気で寝るつもりなら、ちゃんとベッドに行けよ」

「…んん」

 身体を起こした彼にコップを渡す。

「ほら、水。全く世話のやける奴だな」

「ああ…」ディープはソファに座り、まだ半分ぼーっとした顔で水を飲みながら「今日、ラディは?泊まっていく?」

 ラディは首をふった。「いや、もう少ししたら帰るよ」

「う~ん、わかった」

 ディープはコップを置いて立ち上がった。そして部屋を出るとき、ふりかえって小さく言った。

「…ありがと。付き合ってくれて」彼にはわかっていたのだ。

「うん…おやすみ」

 ディープを見送ったあと、ラディは自分のグラスに残っていた中身を飲みほして、

(君達は素敵な夫婦、家族だよ)

 そう心から思った。


 * * *


 未来には予期せぬ思いがけないことが起こるもの。

 これからも、きっと。

 良いこと、悪いこと、

 楽しいこと、

 哀しみ、喜び、

 どうしようもなく打ちのめされることだってあるかもしれない。


 それでも帰る場所があって、

 そこに待っていてくれる人がいるなら、


 きっときっと生きていける。

 立ち止まっているその日々が、また前へ進み出すチカラとなる時がくる。


 生きている限り

 そこに、希望はある。

 そう信じて。

 僕達は、その先へ。

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