エヴァの物語9
僕が母さんに声をかけに行くと、3人はまだ話していた。
「エリン、ごめんね。目を離したとき、ノヴァは自分で勝手に呑んじゃってたの」
メグ姉さんが母さんに言った。
「どのくらい呑んだの? あの子」
リサ姉さんがすまなそうに、
「赤ワインをグラスに1杯くらいだと思う」
母さんは肩をすくめた。
「もうすぐ16歳だから、大人ぶってみたかったんでしょう」
リサ姉さんは真面目な顔で、
「エリン。ノヴァはそんなふうに見えないかもしれないけど、不安なんだと思う。自分の将来と才能が。気をつけてあげて」
「ひと一倍努力家なのに、努力の結果じゃなく才能だと思いたくて、とにかく意地っ張りで、強がってるのよね」
メグ姉さんに言われ、母さんは小さくため息をついた。
「誰に似たんだか……」
「でも、ノヴァはイイ子よ。私達、大好き。ね?」
リサ姉さんに言われ、メグ姉さんがうなずく。
「ありがと、リサ、メグ。そう言ってくれて。ふたりとも、これからもあの子をよろしくお願いします」
母さんは少し離れて会話を聞いていた僕を促すと、父さん達の方に足を向けた。僕はふたりに手をふった。
帰る父さん達を見送って戻ってくると、部屋の外では、グラントさんが誰かと端末で業務連絡を取りあっているところだった。こんな時でも、本当は忙しそうだ。
急に人数が減った室内は、なんだかガランとしていた。
ステフさんが手招きしていて、僕は隣に座った。
「ノヴァは大丈夫?」
「えぇ、たぶん。でもあんなノヴァを見るのは、はじめてかも」
「ノヴァは、前に男に生まれたかったなぁって言ってたよ」
僕達双子の性別が逆だったら良かったのにと、今までにも他人から言われたことがあるし、僕自身そう思ったこともある。
「でも、僕は『男に生まれたかった』というのと、『男として生きる』というのは、全く違う意味で、雲泥の差があることだよと、そのときノヴァに言ったんだ」
トランスジェンダーのこの人の言葉は、きっとノヴァに届いたはず。
「ノヴァは女子のプロサッカー選手としてやっていけるか、不安なんですよね。絶対、自分では言わないけど」
「そうだね」
そこへグラントさんが戻ってきて、ステフさんは立ち上がった。
「そろそろお開きにしようか」
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