エヴァの物語10

 僕はグラントさんの運転するエアカーに、リサ姉さんと一緒に便乗して、宇宙港へ停泊している船に向かった。職業上、ふたりとも普段からアルコールのたぐいを口にしない。


 近づいてくる宇宙港の明かりをみながら、僕は思い返していた。


 *


 僕はノヴァが、両親に向かって、

「あたしは挑戦してみたい!」

 そう言ったあのときの瞳を思い出していた。

 それは僕が持っていない強さだった。


 ふたりきりのとき、僕は聞いた。

「ノヴァは怖くないの?」

「あたしは早く独り立ちしたいの」

 ミドルスクールを卒業したら、ノヴァは女子プロサッカーチームへの推薦を受けて、家を出る。まずはセカンドリーグから、そこからファーストリーグの登録選手になれるのは、ほんのひと握りの才能ある者達だけだ。


「ノヴァ、ごめんね。早く家を出たいのは、僕のせいじゃないの」

 小さい頃、手がかかる僕の面倒ばかりをみる両親を、ノヴァはどう思っていたのかな。だから、今でも少し距離を感じていて、家に居づらいんじゃないかな。


「うるさい! エヴァは関係ない。でも、母さんと父さんをよろしくね。あんたはふたりの永遠の子供なんだから」


 *


「永遠、の子供かぁ……」

「え?」

 リサ姉さんがふりかえって、僕はひとりごとがもれていたことに気がついた。

「あ、いえ、何でもないです」


 僕は船の外装を見上げた。小さい頃から何度も見ているけれど、やっぱり良いなぁと思う。

「自分の船を持つって、スゴイことですよね」

「いやいや、まだ完全に自分の船じゃないから」

 笑って言うグラントさんを、リサ姉さんがたしなめた。

「少年の純粋な夢を壊すようなこと、言わないであげて」

「ごめん、ごめん」


 でも僕は、この船にはとても費用がかかっていることを知っていた。

 僕がいつもこの船を見にくる理由、AIアークの存在だった。


 

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