エヴァの物語12

 AIルームに足を踏み入れると、僕はいつも安心感と充足感で包み込まれる。それが何なのかわからない。

 僕は覚えてないけど、はじめてここに来た時、ここから帰りたくないと泣き続けて、大変だったらしい。珍しく僕が自己主張したから、みんな驚いたと。

 

 船が入港するたび、予定が合えば、僕はここに来る。


 僕はもちろん船の操作に関わることはできないけど、AIのアークには認識されていて、やりとりすることが可能だ。

「こんばんは。アーク、久しぶり!」

「エヴァ、ヒサシブリデスネ」

「僕、お邪魔じゃない?」

 船は現在、入港中だから、アークはそれほどタスクがないはずだけど、念のため聞いてみた。

「ダイジョウブデス。チットモジャマデハナイデスヨ」


 僕はこの船に宿る「彼」の魂に少しでも触れたいのだと思う。

 その人の移植された「記憶」については、個人的なことだから誰も知ることはできないけれど、でもアークの思考回路の根本を司るその部分にはきっと何か影響を与えているはずで、僕はアークとのやりとりの中で何かを感じることがある。


「エヴァはアークと話すことが楽しいんでしょう? 私達にはよくわからない感覚だけど」

 以前、リサ姉さんにそう言われたことを思い出す。

(なぜ? なぜ、僕は……。アークに惹かれるのだろう)

 今まであたりまえで、何の疑問も持たなかったけれど、そのときはじめて、もっと知りたいと強く思った。


 僕はいつもだいたい、そのままAIルームで過ごすことが多い。その日もSUB2が起こしにくるまで、僕は寝袋にくるまって、そこでひと晩過ごしたのだった。


「おはようございます」

 僕が食堂に顔を出すと、グラントさんはもう港湾局に出かけていて、

「おはよう、エヴァ。なんだかスッキリした顔をしてる。何か吹っ切れた?」

 リサ姉さんに言われた。

「そう……ですか?」

(そう言えば、昨夜、何かつかみかけた気がしたけど? 何だっけ……)

「もうすぐ迎えに来るって連絡があったから。コーヒーでもいかが?」

「いただきます」


 その日はラディおじさんではなく、父さんが迎えに来た。

「リサ、いつもありがとう。お邪魔させてもらって」

「全然、お邪魔じゃないから、いつでもまた来てね」

 リサ姉さんの笑顔は、いつも素敵だと思う。

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