エヴァの物語13

「珍しいね。父さんが来てくれるなんて」

 走り出したエアカーの中で僕が言うと、

「いや、それがね……」

 父さんは苦笑しながら、教えてくれた。


 あれから目が覚めたノヴァは、酔っ払ったときの会話を蒸し返し、

「おじちゃまは、いつもあたしの言うことに真面目にとりあってくれないっ!!」と、すごく怒っていたのだと。


「おじさんが『わかったから』って言ったこと? あれって、いつもの冗談のやりとりじゃないの? それに、ノヴァは酔ってても覚えてるんだ」

「うん。それで、『うそつき! もう、うそつきのおじちゃまとは口を聞いてあげない』って、なって……」

 ノヴァのそう言う様子が目に見えるようだった。


「昨日、ラディは泊まったんだけど、本当にいくら話しかけても返事をしなくなった。ラディの方が先に音を上げて、謝って、今日は1日ノヴァに付き合って言う通りにするってことで、なんとか許してもらった。だから今日はふたりでデート。まあ、もうすぐノヴァは家を離れるから、それもあって、ラディはわがままを聞くことにしたんだろう。もともとノヴァに甘いからなぁ」

 僕は小さく吹き出して、クスクス笑った。

(ノヴァは欲しかった新しいサッカーシューズを買ってもらうつもりだな)


「まったく女の子は怖いな。若い頃、ラディに母さんのことで、女性の気持ちがわからない奴だと言われたけれど、自分だってそうじゃないかと言いたいよ」

 その辺りの詳しいいきさつは、今度おじさんに聞いてみようと思う。

「じゃあ、もし本当にパートナーになるとか言い出したら、父さんは許すってこと?」

 父さんは僕が思った以上にうろたえた。

「うわっ、エヴァ、お前まで……。やめてくれ。それとこれとは違う話だから」

 僕は父さんと久しぶりに会話が弾んで嬉しかった。だから、この機会に言おうと思った。昨日の夜、僕が考えたことを。


「あのね、父さん」

「うん?」

「僕はこのあとメディカルスクールに進学したい。でも、合格するかはわからないから、その前にプレスクールに行っておきたい」

父さんは驚いた様子で、でも黙って続きを聞いてくれた。

「だけど、僕は父さんみたいに臨床医にはなれない。将来、人とAIを結ぶ研究がしたいんだ。だからまずは人間について勉強しようと思う。……ごめんなさい。父さんのクリニックを継がなくて。これから学費だってかかるだろうし……」


「エヴァ。それは気にしなくていいよ」

 父さんの声は優しかった。

「エヴァのどんな選択であっても、否定するつもりはないから。いつでも味方で応援する。これは、以前、母さんに背中を押してもらった言葉だけど、そのまま贈るよ」

「父さん……」

「誰かを応援できるというのは、嬉しいことだよ。がんばれ」

「うん」

 心の中に温かいものが満ちてくるのを僕は感じていた。


 

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